「退場早すぎ」の声続出…白石聖演じる「架空の妻」を出した“2つの意味”とは 風車も伏線?【豊臣兄弟!コラム】
豊臣秀吉の名参謀と言われた弟・豊臣秀長(小一郎)のサクセスストーリーを、仲野太賀主演で描く大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK)。3月1日放送の第8回「墨俣一夜城」では、墨俣の戦を前に、秀長がいよいよ幼なじみの直と結婚することに。視聴者の間で論議を醸した思いがけない結末に、彼女が『豊臣兄弟!』で果たした役割を考えてみた。
■ 故郷へ結婚報告に訪れた直…第8回あらすじ「墨俣一夜城」の作戦を前に、小一郎と直(白石聖)はこの戦が終わったら祝言を上げる約束をする。小一郎は直の作った握り飯を持って墨俣に向かうが、それを食べている最中に兄・藤吉郎(豊臣秀吉/池松壮亮)に絡まれ、はずみで転がり落ちた握り飯を拾おうとかがんだ瞬間、小一郎のいた場所に鉄砲玉が飛んできて命拾いした。
その頃、直は中村まで、小一郎と夫婦になることを、父・坂井喜左衛門(大倉孝二)に報告しに来ていた。
藤吉郎と小一郎のことを良く思わない喜左衛門は、直を蔵に監禁。同行していた小一郎の義兄・弥助(上川周作)の助けで脱出したが、父が蔵で自分を助けてくれた記憶を思い出した直は、父と和解してから村を出た。
しかし、そこで農民たちの争いを目撃した直は、子どもを助けようとして斬殺されてしまう。墨俣から戻った小一郎は、直との約束を守って生きて帰ってきたのに、何をやっているのかと責めながら涙に暮れた・・・。
■ オリジナルキャラ・直を出した、2つの意味多分、本日の放送を見た大半の視聴者は、ドラマが終わった瞬間「こんなに早いとか聞いてねえよおおおおおーーーー!」と涙したに違いない。オリジナルキャラクターの秀長の想い人・直が、通りがかった農民同士の戦いに巻き込まれる形で、命を落としてしまった。
「出演した人間は退場が近い」というジンクスが根強い『あさイチ』のプレミアムトークに白石が出演したために「今回もまさか…?」という憶測が流れていたが、放送2日後にこれというのは、最速のジンクス発動記録ではないだろうか。
実質、主人公の妻ポジションにありながらも、第10話にもならないうちに退場してしまったため、SNSでは「直を出した意味があるのか?」という疑問や、キャストチェンジの騒動があったことで、出番を少なくしたのでは・・・などの、なかなか辛辣なコメントが少なからず見受けられた。そこで改めて、直の死が意味するものを考えたい。
まず一つ考えられるのは、この時代は武士の戦と並行して、庶民の間でも争いが頻発していた事実を突きつけることだ。ご存知の通り戦国時代は、国のトップの指揮系統が戦争で麻痺したために、全国的に無法状態となり、各地で激しい領地争いが起こった時代だ。
そして、戦争は歴史に残るような大名同士の戦以上に、農村レベルでも絶えることがなかった。記録に残ってないだけで、その小さな諍いで命を落とした「村人A」も無数に存在しただろう。
そのなかでも「水争い」は、この時代では金同等、あるいは金以上に大切だった米作りを大きく左右するものだけに、領主でも完全な仲裁は不可能なほど、根深い問題だったようだ。
しかし、そんな戦いを、豊臣兄弟に従うことで武家の方に比重が傾いた義兄・弥助は「美濃攻略の方が大事だから、そんな小さな問題に構ってられない」と受け流した。だが小さな戦も、戦は戦。人は死ぬし、女子どもも容赦なく巻き込まれる。そんな事実を忘れた弥助に報いを与えるかのように、直は殺されかけた少女をかばって死んだ──。
■ 豊臣兄弟の天下統一、直が一端を担った?さらに、直と父・喜左衛門との小さな頃の思い出と、和解のエピソード。これも一見、本筋とは関係ないように見えるけれど、身を挺して自分をかばった父の愛情を思い出し、さらに親心の種を植え付けられたことが、直が危険を顧みずに子どもを助ける引き金となってしまった。
もしここで、喜左衛門を「くそったれじじい」と思ったまま秀長の元に戻っていたら・・・いやそれ以前に、あのタイミングで弥助が助けに来てなければ・・・いやいやもっと以前に、直が中村に行こうなどと考えなければ・・・死のルート回避の分岐点が、あまりにも多かったことに頭を抱えてしまう。
しかし、この逆のことを、秀長に当てはめてみると、秀長の「死の回避」には、確実に直の存在が欠かせなかった。今回の墨俣砦建築中に、直の握り飯を拾おうとして頭をかがめなければ、秀長は「兵士A」のまま歴史の舞台から消えた可能性が高いし、そうなると秀吉も天下が取れたかどうか微妙になる。
ちょっと突飛な考察をしてしまうと、もしかすると直はこの一発の銃弾から豊臣兄弟を守るために生まれ、その役割を終えたから退場したのかも?と思えてくる。
生まれてから秀長の幼なじみとして側に付き添い、叱咤激励して侍の道へと導き、夫婦同然の仲となったことで、運命の握り飯を作った・・・という、20年以上に渡って仕掛けられたバタフライ・エフェクトだったと考えると、なんともドラマティックではないか。
ちょっとこれは我ながら、壮大過ぎる因果応報という気もするけれど、特にこの戦国時代の英雄たちは、結構いろんな「もしも」が多いのは事実。
たとえば「桶狭間の戦い」も、いろんな小さなピースが奇跡的にハマって成功したことが先日描かれたばかりだし、秀吉もこの先「奇跡」としか言えないような出来事にいろいろ遭遇する。
その裏では、直のように記録に残らない・・・どんな人生を生き、どんな愛情を持って、どんな風に死んだのかも定かではない「村人A」の些細な行動が、英雄たちの運命を大きく動かしていたかもしれない。今回直のエピソードが特に丁寧に描かれたのは、そんな気づきを与えるためだったのか、とも思える。
■ キービジュアルの「風車」は直のモノ…?直の死は、おそらく秀長に「農民同士の小競り合いをあなどってはならない」という教訓を残すだろう。秀長の性格を考えると、直を殺した張本人を探し出して成敗するのではなく、そんな奴でもこの先人を殺さずに済む世の中を作る・・・という方に考えると思う。
そしてこの別れが、お金のこと以外には無欲な秀長が、兄とともに天下を目指すというモチベーションにつながっていくのではないだろうか。
『豊臣兄弟!』のキービジュアルでは、秀長は風車をしっかりと胸に抱き、兄とともに笑っている。その風車は、直が死ぬ直前に持っていた物とよく似ている。
もしかしたらこのビジュアルは、秀長が直の思い出と、直のような悲劇を繰り返さない世の中を作るという決意を、しっかりと胸に抱いて再出発する姿ではないか・・・と考えると、途端にこの楽しげなビジュアルが別の意味を持つような思いがした。
それにしても筆者、前回のコラムで「直は『待つ』という、戦国の女性に必要不可欠な才能が足りないがゆえに早期退場するのでは」と予想したけど、それが本格的に試されるときが来る前に退場してしまうとは。しかし、秀長を歴史の表舞台へと押し出したキーパーソンとして、視聴者の心には深く刻まれたはずだ。
そして、急遽キャスティングされながらも、直の人間的な強さと弱さを表情豊かに演じ分けて、忘れがたい印象を残した白石聖。まさに『豊臣兄弟!』の救いの女神だったと、特に関係者は思っているに違いない。
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大河ドラマ『豊臣兄弟!』はNHK総合で毎週日曜・20時から、NHKBSは18時から、BSP4Kでは12時15分からスタート。3月8日放送の第9回「竹中半兵衛という男」では、豊臣兄弟が竹中半兵衛(菅田将暉)の調略に乗り出すところと、美濃三人衆の1人・安藤守就(田中哲司)から思いがけない申し出を受けるところが描かれる。
文/吉永美和子
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(Lmaga.jp)
