元宝塚星組トップ同士の待ちわびた共演、退団10年柚希礼音が湖月わたると男性の役…星組生との「縁」、『マタ・ハリ』も語る

2015年に「宝塚歌劇団」を退団して、ちょうど10年。元星組トップスターで俳優として活躍する柚希礼音が、宝塚歌劇団を退団後さまざまな芝居やショー作品を経験し、この冬、再び「男性」を演じる。

「特別な思い入れがある」と語る、3度目の主演ミュージカル『マタ・ハリ』を11月3日に無事に完走。そんな柚希の次回作は、ダンス演劇『マイ フレンド ジキル』(よみうり大手町ホール、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで12月に上演)。映画や舞台でもお馴染みの怪奇小説『ジキル博士とハイド氏』をモチーフにした作品だ。

本作で、元星組トップスター・湖月わたると宝塚歌劇団退団後、初の舞台共演が実現。ともに、ダンスの名手である2人の待望の共演に注目が集まる中、柚希に今の想いをインタビュー。さらに、宝塚時代や、『マタ・ハリ』でのエピソード、今後の「野望」も飛び出して…。

◆ 次回作、登場人物は全員男性!宝塚歌劇団退団後、10年ぶりに男性の役…?──『マタ・ハリ』では、情熱的なダンサーで女スパイの役を演じられましたが、次の『マイ フレンド ジキル』では男性を演じられます。宝塚歌劇団退団後、男性を演じるのは初めてですよね?

そうですね。以前、一人で3重人格という役を演じて、その中に男の人がいて、というのはあったんです。(2019年『LEMONADE』)。あとは、『LUPIN ~カリオストロ伯爵夫人の秘密~』(2023年)で、「男装」はありました。でも今回は、ジキルとハイド、そしてアタスン…って、登場するのが全員男性なんですよ。

──約10年ぶりに男性の役を演じるにあたっては、いかがですか?

わたしとしては「え~できるかな…」と思いましたが、今回ご一緒する湖月わたるさん(以下、わたるさん)ともお話をしまして。宝塚歌劇団を退団して「女性の役って、できるかな…」というのを同じく通ってきた先輩でもありますが、結局、「人間を演じる」っていうことは一緒だと。女性を演じるときにもそう思うので、逆に男性を演じるにあたってもそれは同じだね、という話をしました。なので、男性だからとか、男役だから、ということではなく、その役を演じるということ。心を演じたい、と思っています。

◆ 「いつか共演できる日を夢見て…」湖月わたるとの待望の舞台がついに実現──わたるさんとの共演は『REON JACK 4』(2021年)以来ですね。『REON JACK 5』(2024年)の際、芸歴25周年を記念した「アニバーサリーブック」にも「いつか共演できる日を夢見て…」と、柚希さんからわたるさんへのメッセージを書いていらっしゃいました。

そうなんですよ!やっと、念願の、なんです!自分が宝塚歌劇団を退団してから「わたるさんといつかご一緒できるかも…」という気持ちがあって、共演の機会を本当に待ち望んできました。でも持ち望みすぎて、なかなか共演できないままにここまで来ましたが、満を持して、退団から10年経って、ようやく実現します。 そしたら出演は2人だけ、という(笑)

──確かに、今回お2人だけで。さらに役替わりで舞台に立たれると…。

そうです、ものすごくありがたい機会を、いただきました。『REON JACK 4』では、一場面を一緒に踊らせていただきましたが、今回は、もっとがっつりとお稽古中から毎日一緒に、ジキルとハイド、そして友人のアタスンという2つの役を作っていきます。

本番はもちろん、稽古中にわたるさんと一緒にいろいろなことを話しながら役を作れるということが、とっても嬉しいんです。とても楽しみで、きっとあとから振り返っても、「すごくいい時間だった」と思えるはずです。

◆ 「わたるさんのお役を4回経験」宝塚時代の新人公演のエピソード──わたるさんと一緒に役を作るというのは、『王家に捧ぐ歌』(2003年)のラダメス役をはじめとする、宝塚時代の本役と新人公演という関係性以来ですよね。その当時のことで、印象に残っていることはありますか?

宝塚では、わたるさんのトップ時代のお役を、4回演じさせていただきました。途中に『長崎しぐれ坂』(2005年)で一度、当時専科の轟悠さんのお役も経験させていただきましたが、新人公演時代は、本当に学ぶことばかりでしたね。

──4役も同じトップスターの方の役を、というのは珍しいですね。

そうです。だから、わたるさんに芸事の全てを教えていただいたようなものなんです。本当に踊ることひとつとっても、全部思いがあって、「心から踊らないと、ダメなんだよ」と。歌もそうだし、歩くのも全てそうなんだと。私はそれまで、テクニックで踊ってきたところがあって、全て芝居は、心で動くということを、教えてくださったんです。

宝塚に入る前より、今の方がさらに踊りが好きになっています。そう思えるのは、目的や意味があって、体を動かして踊るということを、そのときにわたるさんに教えていただいたおかげですね。

今回も、そのジキルとハイドを踊りだけの世界で表現することができるのも、本当にあの時わたるさんに教えていただいたからこそ。やはり今回は、なによりも、2人きりで踊るシーンがあることに、自分としては感動してしまいますね。

──今回の舞台でも、その時に生まれたおふたりの「絆」が活きそうですね。

一緒に踊った時に感じる、パワーとか、思いとか、キャッチボールのようにこちらが「思い」をお渡ししたら、すごい「思い」が返ってきたりするんだろうなと。今回2人だけなので、例えば、わたるさんのジキルとハイドのセリフを一回読んでいただき、それを次私が読んでみて…とか。本当にいろんな手法の練習ができると思うんです。わたるさんと「いろいろやってみようね」とお話しているので、舞台を作っていく過程もとても楽しみです。

宝塚時代は、わたるさんから教えていただくことばかりでした。でも退団したら、ひとりの役者同士のぶつかり合いをお見せしないといけない。わたるさんも「一緒に頑張ろうね」と言ってくださっているので、「ついていきます!」だけではなく、甘え過ぎず、頼りすぎず…。やっぱり頼るかもしれませんが、しっかり自分の足で立って、やっていこうと思っています。

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◆ ビジュアル撮影で衝撃!「わたるさん、普段からマント捌きしてるのかな…?」──わたるさんと一緒にのぞまれた、ビジュアル撮影はいかがでしたか?黒いお衣装も印象的です。

ちょうど『先生の背中』の公演中だったので、髪も真っ黒だったのもあって、全体的に黒いんですけど、本番の舞台はもうちょっと色がある感じで、イメージは少し変わるかな。舞台となるのが19世紀のロンドンで、このビジュアルでも、ちょっとじめっとした感じになってますね。

この時、わたるさんが先に撮影だったのですが、黒いマントを翻しているのが、とってもかっこよくて!「昨日まで現役でしたか?」というくらい、マント捌きが衰えていない。マント捌きなんて、宝塚卒業したら、一切やらないんですよ。それなのにすごい!

──「マント捌きが衰えない」は、なかなか使わない言葉…。柚希さんは『ルパン』でちょっとマントのシーンありましたね?

あ、確かにありました。100万年ぶりに、って感じでしたが(笑)でもわたるさんは、「普段からマント捌きしてるのかな?」と思うくらい完璧でしたから。そのあとの撮影は、プレッシャーでした。

──柚希さんは、久しぶりのマント捌き、やってみてどうでした?

やっているうちに乗っていった感じでした(笑)いかに空気をふくらませて、いれこむか…。現役時代も、そんなに力をいれずにサッ!っていうのを練習していましたね。先輩たちに教えていただきながら、何度もやっていました。

──マント捌きも、代々の星組で受け継がれているんですね。マント捌きも、わたるさんから?

そうなんですよ。なにからなにまで、わたるさん仕込みなんです。わたしの体の細胞は、わたるさんがつくってくださったものなんです(笑)

──わたるさんはじめ、代々の星組の先輩方から教わったことが、柚希さんの全身に今も流れているんですね。

◆ 新しいジャンルのパフォーマンス「ダンス演劇」とは?──これからお稽古に入られるということですが、実際に台本を読まれてみて、いかがでしたか?

なんとなくイメージでは、ジキルとハイドの方が踊りで、アタスンが語り手、という風に思っていたのですが、実は「語り」も、たくさん踊るんですよ。アタスンは台本をもった「朗読の人」ではなく、一緒に踊って、また戻って…みたいな、かなり新しいパフォーマンスだと思いますね。「ダンス演劇」っていうジャンルになるんですけど、すごく新鮮です。

朗読というスタイルなんですが、アタスンは膨大なセリフがあるんです。舞台では、手元に本をもてるから読む形で「覚えなくていい」ということで聞いていましたが、あんなに踊り、離れて、また元にもどってきたときに、次がどこなのかわからなくなると思うんです。それがちょっと怖いので、しっかり頭にいれたいですね。

──アタスンがいろいろなパートを担うんですね。

最後、舞台が終わった後に『マイ フレンド ジキル』という題名が、アタスンの目線から言ってたんだな、ということがよく分かると思います。お互いがお互いのことをとても大切に思っていることを書いている台本なので。「ジキルとハイド」というと、ジキルの二面性や、少し怖いとか、そういうイメージがあるかもしれません。でも、なんだかとっても心が暖かくなる舞台です。

観に来てくださっている方にも、きっとみんな人間にはいろんな面があって、人に見せてる顔と、家族に見せてる顔と、自分しか知らない自分と…などたくさんいたりして。そんな皆様が、観終わったときに、「どの自分も大切にしよう」と思ってもらえるような、そんな舞台になったらいいなと思っています。

──「どんな自分も大切にする」っていう言葉、とても素敵ですね。

【次のページは】… 2025年、宝塚歌劇団卒業からちょうど10年。「星の導き」で共演多数

◆ 2025年、宝塚歌劇団卒業からちょうど10年。「星の導き」で共演多数──ちょうど宝塚歌劇団をご卒業されて10年。その間、わたるさん以外にも、これまで安蘭けいさん、真風涼帆さんなどなど、星組ゆかりの方たちとご一緒の舞台が多いですね。これ、星のお導きでしょうか?

そうです。近しい人たち、実はかなり共演しているんですよ。なんというか、「順番に制覇していく!」みたいな感じになっています。

──ご縁があるんでしょうね。そうなってくると、星のお導きで次はもしかして…

次は、紅のゆずるちゃん(紅ゆずる)とか…。まこっつあん(礼真琴)とか…。このまま共演制覇していきたいですね(笑)

──紅ゆずるさんとなら、どんな共演がいいですか?

全場トークのみ、でいいんじゃないかなぁ。きっと8割しゃべってくれると思うので、ずっと私が突っ込まれ続けるっていう…。ディナーショーで共演した時も、そんな話があがったんですけど、最終的にはちゃんと歌っていました(笑)

他の方とは舞台共演とかなのに、ゆずるちゃんとはトークでの共演っていうのもあれですけど、ファンの方から「トークショー」だけでいいんじゃないか、って言われるくらいですからね。楽しそう。

──過去おふたりが共演されるたびに「爆笑トーク」でしたもんね。先日、卒業されたばかりの礼真琴さんとだったらどうですか?

さすがにわたしもまこっつあんも、全場トークだけでは、間が持たないんじゃないかな~(笑)トーク以外の共演がいいかも。

──トーク以外(笑)それでは、歌やダンスなど舞台での共演を楽しみにしています。

◆ 3度演じた『マタ・ハリ』についての想い。そして今後について──そのほか、宝塚歌劇団退団から10年経って、これから挑戦してみたいことなどはありますか?

これまで3度演じてきた『マタ・ハリ』みたいな、すべてをかけて…というような役に、出会えたら幸せだろうな、と思います。毎日マタという役として生きて、舞台に立っていて、本当に感動の日々なんですよ。この先、具体的にどんな役をしたいというよりも、そういう、全てをかけられる『マタ・ハリ』のようなお役に、ぜひ出会いたいですね。

──『マタ・ハリ』の舞台を拝見して、全身全霊で演じてらっしゃるのが伝わってきました。

ありがとうございます。毎日舞台が終わる度、本当にやりきって、ぐったりという感じですけど、カーテンコールでも、毎回幸せを感じています。初演がシングルキャストで、マタ・ハリが天国に行って、すぐその2時間後にもう一回公演をやってたというのが、考えられないですよね(再演、再再演は愛希れいかとのダブルキャスト)。

──カーテンコールでも着てらっしゃる緑のお衣装、とってもお似合いです。

あの衣装は、3回着させていただいて、少し年季が入ってきましたけど、私もすごくお気に入りなんです。実は、初演時の衣装合わせに、10時間かかって。正直、宝塚のトップ時代よりも、時間がかかりました。トップスターは着数が多いし、芝居もショーもあるから、かなり時間がかかるんですけど、それよりもです。

はじめは、これで踊ってみたらどうなる?足はどう?とか、ひとつひとつ確認してたら、予定より4、5時間のびてしまって。お腹が空いて、途中でアメリカンドッグを食べました(笑)。でもあのお衣装、本当に気に入りすぎて、このまま欲しいくらいです。

──でも4回目でまたあのお衣装を着るということが、あるかもしれないですよね。

本当にそうなったら、もうすごく幸せですね!

今回は「梅田芸術劇場」での『マタ・ハリ』出演の合間に取材を敢行した。撮影中に「さっき梅芸の前に、『マタ・ハリ』と『ジキル』の、ポスターがたくさん貼ってあった!」と嬉しそうに話していた柚希。「すぐ来る人、みたいになっているけど」と朗らかに笑い、地元大阪での舞台で、ファンのみなさんと会えるのを、とても楽しみにしている様子だった。

『マイ フレンド ジキル』は2025年12月16日~22日「よみうり大手町ホール」で、12月27日(土)~29日「梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ」で上演。詳細は公式サイトで確認を。

撮影 /木村華子 取材・文/Lmaga.jp編集部

協力/ホテル阪急インターナショナル Bar Ceres

(Lmaga.jp)

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