天下人も愛した「蘭奢待」の香り、令和に蘇る…大阪で史上初の再現「残しておきたい」
聖武天皇ゆかりの正倉院宝物のなかで、もっとも人気と知名度を合わせ持つ宝物のひとつ「蘭奢待(らんじゃたい)」(正式宝物名:黄熟香(おうじゅくこう))。蘭奢待は巨大な香木で、「天下第一の名香」として、歴史に名だたる天下人たち(足利義政、織田信長、明治天皇など)が楽しんだとされている。そんな至高の香りが、なんと令和に蘇った!?
長らく謎に包まれてきた蘭奢待の香りを、「宮内庁正倉院事務所」が「高砂香料工業」の協力のもと、脱落片を利用して科学的に分析調査し、史上初の再現。現在、「大阪歴史博物館」(大阪市中央区)で開催中の特別展『正倉院 THE SHOW -感じる。いま、ここにある奇跡-』で実際に嗅げる(香道では嗅ぐではなく「聞く」と表現)とあって、大きな話題を集めている。実際に体験してみたのでレポートしたい。
■ 「少しずつ香りが失われている」香りを再現した思い「正倉院事務所」の中村力也保存課長によると、実物の蘭奢待は数百年以上を経ても、かすかに香りがあるとのこと。この度の再現は、「(長い年月で)少しずつ香りが失われているため、その香りの記録を(後世のためにも)残しておきたい」とおこなわれ、「蘭奢待は、匂いがあってこその宝物。メインとなる匂いをきちんと記録して、宝物の持つ本来の魅力を保存する意義があります」と説明する。
科学分析の結果で出た香り成分について、「高砂香料工業」の鈴木隆さんによると、「我々が一番驚いたのがラブダナムのような香りが強く出たことです」。ラブダナムは、シスタスという植物の樹脂から抽出した世界最古の天然香料のひとつ。蘭奢待は沈香なので、沈香の中でも最上級とされる伽羅(きゃら)に近い香りなのかと思いきや、鈴木さんは「香道で聞いた通常の伽羅とも違う、杏仁のような今まで嗅いだこともないような香り」と表現する。
蘭奢待の香りは、この分析結果とパフューマ-と呼ばれる調香師による香道の聞香(もんこう)によって再現された(香木は常温だと匂い成分が発揮しにくいため)。
■ 五味を持つという、謎に満ちた蘭奢待の香りはいかに?蘭奢待は、五味(甘い・辛い・苦い・酸っぱい・鹹(しおから)い)を持つ香りといわれている。五味とは…謎に満ち過ぎているので、ますますどのような香りなのか興味が募る。
会場内には、再現した香料の入ったガラス容器を設置しており、カバーを取って実際の香りを楽しめるのだが、来場者40代女性(東大阪市在住)は、「もっとお寺の香りを想像させる匂いかと思っていましたが、全然違う。自然のさわやかさを感じました」と、驚きつつも感想を語った。
たまたま非公式で内覧会に登場した天平美人の感想はどうだろうか?『大阪・関西万博』で5月末に開催された「ALL NARA FESTIVAL(オール・ナラ・フェスティバル)」での奈良時代の宮中儀式「御斎会」で女帝・称徳天皇役を務めた安宿くら(あすかくら)さんは、「シナモンの後ろからお薬シロップが見え隠れします」とコメント。ちなみに筆者の感想は、「お寺の香りを超絶マイルドにした心落ち着く甘い香り」だった。
蘭奢待の香り再現プロジェクトの特番を放映したNHKが『天下無双の香り』と表現し、実際に信長ら天下人が愛した至高の香りを持つ蘭奢待。その香りは、五味と表現されるに相応しく、体験した人それぞれが異なる感想を持つ、摩訶不思議な香りであった。ぜひ、実際に現地で体験してみてほしい。ミュージアムショップでは、蘭奢待クッションも販売しているので、こちらも注目だ。
『正倉院 THE SHOW -感じる。いま、ここにある奇跡-』の会期は8月24日まで、詳細は公式サイトにて。
取材・文・写真/いずみゆか
(Lmaga.jp)
