なぜ「奈良公園」にはゴミ箱がない? 鹿と共存する市民たちの葛藤
奈良観光といえば、「奈良公園」(奈良市)の鹿が定番だが、その鹿たちがゴミによる被害に遭っている。じつは「奈良公園」にはゴミ箱がない。鹿がゴミを漁るのを防ぐために持ち帰りが原則となっているのだが、公園内でポイ捨てをする人が後を絶たず、鹿が誤食するジレンマに陥っている。
■ 奈良の鹿とプラスチックゴミの誤食問題鹿が誤食することが多いのは、特に食べ物のニオイが付着したビニールゴミ。何年にもわたり誤食し続けた結果、胃に蓄積されたプラスチックゴミが塊になり、やがて栄養失調となって衰弱死してしまうのだ。
2019年、「奈良公園で死亡した鹿の胃から、3.2kgものプラスチックゴミが見つかった」という報道で広く知られるようになったが、野生動物でありながら市街地で共存する奈良ならではの問題となった。
インバウンド需要が回復し、多くの観光客でにぎわう今。公園内のゴミのポイ捨ての現状を知るため、5年前から「ゴミは、あかん」のキャッチフレーズで啓発活動をおこなっている有志団体「奈良公園ゴミゼロプロジェクト実行委員会(以下:ゴミゼロプロジェクト)」の月イチ清掃(奈良公園ゴミゼロウォーク)に同行取材した。
■ 毎日清掃しているはずなのに…誤解してはいけないが、「奈良公園」は「美鹿(びか)パトロール隊」(2019年結成)や公園内のそれぞれの管理者(東大寺、春日大社、興福寺、奈良国立博物館、お土産屋など)によって、毎日清掃活動がおこなわれている。
にも関わらず、今回の1時間半の清掃活動に参加しただけで、大量のゴミを目の当たりに。堂々と置きっぱなしにされているほか、自動販売機の隙間にねじ込められたり、「春日大社」の参道脇にある石灯籠の後ろに置いてあるなど、見えないように捨てているものが目に付く。また、駐車場やバスターミナルなどもゴミが多かった。
42回目を迎えた「ゴミゼロプロジェクト」の月イチ清掃のメンバー・中村文人さんは、「(2022年の平均ゴミ回収量に対し、)8月の時点で55%増のゴミ量です。夏場はペットボトルや空き缶がかなり増えます。路肩やベンチ周辺は枯葉が多いのに、たばこのポイ捨てが多い。『なら燈花会』などイベント後は竹串も多かった・・・」と嘆く。
■ かつてはあったゴミ箱、必要か?不要か?かつて、公園内にゴミ箱が設置された時期もあったのだが、鹿がゴミを漁ったり、家庭ゴミを捨てたりする問題などがあったため撤去された経緯がある。
長年、「奈良公園」の鹿の生息環境保全活動などに携わる「奈良の鹿愛護会」の石川周さんは、「決して奈良県がサボってる訳ではなく、試行錯誤の結果、今はゴミ箱を設置しない判断をしたと認識しています。ゴミ箱があった時代を覚えていますが、袋に入れた家庭ゴミをゴミ箱の横に置いて立ち去る人が多かったです。鹿のためにもゴミ箱は不要だと思います」と語る。
「東大寺」「興福寺」「春日大社」など複数の管理者が存在する「奈良公園」にゴミ箱を設置した場合、誰がそのゴミを回収するのかという問題も起こり、一部の管理者が設置するとそこにゴミが集中する懸念もある。
ゴミ問題は、最近になって急に出てきた問題ではなく、昔から問題視されてきたという。「近年、SNSで鹿を愛するさまざまな個人や団体が活発に注意喚起したことによって可視化され、『ポイ捨てはダメ』『鹿に鹿せんべい以外の人間の食べ物を与えてはいけない』といった意識が多くの人に浸透してきたのは、ありがたいことです」と石川さん。
また、「ゴミゼロプロジェクト」の安達研さんは、「人件費の問題もありますが、祇園祭のようにイベント期間中だけゴミ箱を置いて、そこに人を配置したりすべきでしょう。また、ゴミをお金やポイントに換えるデポジット式ゴミ箱を導入したりするなど、ただ設置するのではなく工夫が必要だと思います」と語る。
■ 「鹿を守るため」にゴミを拾う「ゴミゼロプロジェクト」メンバーは、ゴミ拾いの際に腕章を付けている。「単なるゴミ拾いボランティアと勘違いされないよう、大事なのは『鹿のためにゴミを拾っている』と認識してもらうことです」と中村さん。
続けて、「鹿が観光産業に寄与しているのは明らかなのにもかかわらず、県や市が鹿を守ることへの関心が低いと感じます」と語る。実際、奈良商工会議所のアンケート調査報告(2020年)によると、外国人観光客が奈良を訪れる動機の第1位は「鹿を見るため」であり、約70%にも及んでいる。やはり奈良の観光は、鹿を抜いては語れない。
今回同行した奈良公園ゴミゼロウォークでは、36名の参加者によって、8.44kgのゴミが回収された。メンバーは「奈良公園にはゴミ箱が無いことを意識した上で、計画的に飲食などのお買い物をしていただけたら」と呼びかける。
取材・文・写真/いずみゆか
(Lmaga.jp)
