新日本プロレス・棚橋弘至、終活から一念発起「100年に一人の逸材ナメんな」
2000年代、人気も売上も低迷していた「新日本プロレス」。だが地道なPR活動で団体を立て直し、近年のブーム再燃に結びつけた看板選手が棚橋弘至だ。この数年は度重なる怪我で満身創痍の状態だったが、2021年に入って『NEVER無差別級』の王座を獲得。
一方、コロナ禍で「新日本プロレス」は観客動員数が減少し、低迷期以来の厳しい状況に立たされている。そこで今回は棚橋に、自身と新日の現状についてインタビュー。取材中に飛び出した「レスラー人生の終活を考えている」という言葉の真相などを訊いた。
取材・文/田辺ユウキ
プロレスの存在意義に悩んだコロナ禍──新日本プロレスは2020年、3月から約3カ月間試合を中止し、6月に無観客試合、そして7月から観客を入れた興行を再開しました。当時の心境はどのようなものでしたか。
コロナ禍にやらなきゃいけないくらい、みなさんにとってプロレスは必要なものなのだろうかと考え込みましたね。こんなに大変なのに、プロレスをやっていて良いのだろうかって。でも衣食住に関係なくても、人間の生活になくてはならないものってあるはず。自分の好きなことが充実してこそ人生が豊かになると思ったんです。
──思い悩んでいたけど、打破できるものがあったわけですね。
そうなんです。そして、苦しい状況をプロレスという競技になぞらえました。プロレスって苦しくても、何度やられても、あきらめずに反撃に転じて勝利を目指すもの。プロレスを見てもらって、日常生活のエネルギーにして欲しかった。現在は「今だからこそプロレスなんだ」と思うようにしています。
ありえないことを実現させて、希望を作りたい──最近の棚橋さんのコメントで興味深いことがあって。1月4日の「東京ドーム」での試合後、「自分は選手としてのピークが過ぎたかもしれない」とおっしゃっていましたよね。ほかにも「飯伏(幸太)のような旬なレスラーをつなぎとめる権利は俺にはない」というコメントなど、もしかして棚橋さんのなかで自分の終焉期ができているんじゃないかと思ったんですが。
おっしゃる通りなんです。確かに引き際を見据えているところはあります。膝のコンディションにも不安を抱えているし、あと何より上(先輩選手)が詰まっていたら下が伸びないプロレス界の歴史がある。
かつて、スター選手がゴソッと抜けて「棚橋弘至と中邑真輔しかいないぞ」となった歴史があったじゃないですか。だからこそ僕らは上へいけた。集客面では人気選手が長く続けてくれた方が良い。でもそれが続きすぎると団体自体の代謝が悪くなるんです。
──そこまで考えているんですね。
飯伏や内藤(哲也)は今が旬だし、もう僕がしゃしゃり出て行かなくても「新日本プロレス」は十分じゃないかなと思った。でも一方で、コロナで再び厳しい時代が来てしまった。「棚橋、また頑張れよ」と言われている気がして。目が覚めたところがあるんです。
──棚橋さんは、新日本プロレスの人気を復活させた立役者と言われていますし。
レスラーの本懐としては常にチャンピオンを目指したい。NEVERのベルトは獲得できたけど、それでも今の棚橋がIWGP二冠に絡んでいく姿は誰も想像できないはず。そういうありえないことを実現させたいんです。ありえないことを起こして、「コロナで苦しい状況だけど、何事も良くなる」というイメージをみんなに与えたい。希望を作りたいんです。
──自分のなかでエンディングを作ろうとしていたけど、心境が変わってきたわけですね。
そう。終活をしようと思っていたけどね。あとIWGPヘビー級のベルトを過去8回獲っているし、もうすぐで節目の10回。ベルトを10回巻きたいんです。でもそのためには9回目の防衛戦で負けなきゃいけないんですけどね(笑)。ただ、今年は9回目のベルト戴冠に向けて動いていきます。
格が違う。逸材ナメんなよって──しかし2021年もコロナの影響で前途は厳しいものがありますよね。1月18日の「後楽園ホール」は、コロナ対策もありましたが観客数は396人でした。
はい。
──そのとき得意技のハイフライフローで勝った棚橋さんは、「この光景を絶対に覚えておきます。今日はどうしてもハイフライフローで決めたい理由があった。ハイフライフローを飛び続けてきた僕の記憶、それは新日本プロレスを盛り上げてきた記憶そのものだから」と話しましたね。
IWGPヘビー級の連続防衛記録中はハイフライフローで決めることが多かった。新日本プロレスが低迷から上がっていった時期と、棚橋がハイフライフローを飛び続けた時期が重なる人も多いはず。あのときのみんなの記憶をよみがえらせたかった。
──なるほど。
あと、連続防衛していた勢いのある棚橋を知らない新しいファンも増えてきた。そういう人たちにとっては棚橋がなぜエースと呼ばれているのか謎だと思うんです。「ロートル(年寄り)がなぜ前に出てきているんだ」ってことですよね。今は内藤、飯伏、あとロス・インゴ(ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン)の選手などを推すファンが多いから。でもそれって悔しくないですか?
──棚橋さんの活躍をずっと見てきた身としては、確かに。
もう一度、棚橋の恐ろしさを見せてやりたいんですよ。オカダ・カズチカは視野も広くなってきて、素晴らしい選手。飯伏もチャンピオンになった。内藤も人気がある。それでも彼らはね・・・。うーん、どうしようかな。エルマガなら言っちゃおうかな。
──何を言うんですか?
格が違うんですよ、俺とは。
──おおおっ!
確かにみんな良い選手です。でもね、棚橋とは格が違うんだよ。それをちゃんと証明したいんです、煽りではなく。そのためにはもう一度、IWGPのチャンピオンにならなきゃいけない。ファンの人も納得できるようなパフォーマンスを見せなきゃいけない。それが1番のモチベーションになっています。100年に一人の逸材ナメんなよって。プロレスで元気になってもらうため、もう一度、棚橋が新日本プロレスをよみがえらせます。
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2月27日・28日、「大阪城ホール」(大阪市中央区)で『CASTLE ATTACK』が開催。棚橋は27日(第1試合)に小島聡、天山広吉、棚橋弘至 対 ジェフ・コブ、ウィル・オスプレイ、グレート-O-カーン、28日(第4試合)のNEVER無差別級でグレート-O-カーン相手に初の防衛戦をおこなう。チケットは各プレイガイドにて。
(Lmaga.jp)
