デスノート・夜神月役の甲斐翔真「マンガじゃない、リアル」

「このノートに名前を書かれた人間は死ぬ」という『週刊少年ジャンプ』の大ヒットコミック『DEATH NOTE』(原作:大場つぐみ、作画:小畑健)をミュージカル化した『デスノート THE MUSICAL』。2015年の初演以降、再演や海外公演もおこなわれ注目を集めた同作が、全キャストを一新し上演される。

オーディションで主人公・夜神月(やがみライト)役に抜擢されたのは、ミュージカル、舞台、主演すべてが初となる甲斐翔真(村井良大とWキャスト)。TVデビュー作『仮面ライダーエグゼイド』で、主人公・宝生永夢に対峙するパラド(仮面ライダーパラドックス)役を担い人気を博した彼に、公演間近の心境や思いを訊いた。

取材・文/いずみゆか 写真/木村正史

「マンガじゃないんだ。リアルなんだ」(甲斐翔真)

──今回Wキャストでライトを演じる村井良大さんも仮面ライダー俳優(『仮面ライダーディケイド』の仮面ライダークウガ役)。さらに歴代キャストでライトを演じた浦井健治さんも仮面ライダークウガ(しかも甲斐と同じく敵役)でデビューしていますね。

実は、僕は気付いていなかったんです。ファンの方が教えて下さって、あ、そうだったんだと。キャストが発表されて、2人とも仮面ライダーじゃんって(笑)。浦井さんが仮面ライダー出身なのもファンの方が・・・。

──オーディションを受けたときは意識されなかったのですか?

全然知らなくて、意識することはなかったです。僕は、夜神月になりたくてオーディションを受けたので。ライダーのファンの方は本当に根強くて、今も支えになっています。

──甲斐さんは、元々この作品がお好きだったのですか?

初めて観たのは映画です。そこから、ミュージカルがあるのを知って、原作を読みました。稽古を積んでいると、読んだときや観たときの印象とは違いますね。こんなにもマンガじゃないんだって思いました。リアルなんだって。

──目の前で人が演じるというリアリティがそう感じさせると。

マンガだと非日常的な感じがしますが、舞台に置き換えたとき、演出家の栗山民也さんの手によってデスノートが現実的な世界に落とされるんです。だから、お客さんが置いて行かれない。共感できるポイントが沢山あるんですよ。すごく分かりやすいし、歌もカッコいいから入っていきやすいです。

「舞台はその人のパーソナルな部分が出る」(甲斐翔真)

──稽古に入り、村井さんとご自身とのライトの違いは意識されますか?

同じことをしたとしても、まったく違うものになる感じはあります。舞台はその人のパーソナルな部分がちゃんと出るので、村井さんのライト、僕のライトになっていますね。

──甲斐さんのライトというのは?

年齢的な部分でも、僕のほうが「より青い」というか。青さゆえに間違っていく感じが出せるのではないかと・・・。村井さんは本当に計算して演じられる方で、いつも横目で見ています。たぶん瞬時に脳で組み立てられるんでしょうね。すごいなって思います。吸収することが沢山あるので、良い時間だと思います。

──ライトについて、村井さんとどのように話し合われているのですか?

僕は基本的に吸収ばっかりです。稽古場での席も隣同士なので「ここってさあ」「こうですよね」みたいな感じは毎日やっていて。村井さんは逆に、僕の若い部分を吸収したいと言って下さっています。

──村井さんが31歳で、甲斐さんが22歳。

醸し出す「今の人感」っていう。10歳も離れているので、そう感じてしまうのかもしれないですけど。村井さんもすごい純粋なライトなんですよ。30代な感じがしない。けど育ってきた時代も違うし、そういう所では違いがあります。

──演出の栗山さんは「演劇は時代を映す鏡」をポリシーに、その時代の空気を取り入れて演出されますが、まさに村井さんの「若さを吸収したい」というのは、「今の時代感を吸収したい」ということなのでは?

確かに、僕はライトとの実年齢が近い。この時代に生きている22歳としてライトにハマるところはあると思うので、そこは素直に生かしながら。あとはテクニック的なところですね。舞台に立つ、歩く、そしてセリフを言うという事がどういうことなのか・・・。毎日奮闘しています。

「扱っている題材は凄まじく重い」(甲斐翔真)

──今までは映像を中心に演じてこられたわけですが、舞台のチームワークを感じられるようになりましたか?

カンパニー的なひとつの集団で舞台をつくるという行為は映画やドラマにないから新鮮です。栗山さんは、稽古の後にダメ出し(ノートと呼ぶ)を全員集めてやるんですよ。だからほかの人のダメ出しを聞けるのはすごく良い。ひたすらメモにとっていますが、たまにすごく哲学的な事をおっしゃるんです。

──栗山さんの哲学とは具体的にどのような?

よくおっしゃるのは、「この題材を扱うために哲学を身に付けなけなければいけない。哲学というとすごく堅苦しくて難しいと思うかもしれないけれど、その人が『生きること、そして死ぬこと』はどういうことなのか?」と。

──答えの見つけにくい命題ですね。

それは、考えても分からないこともあるし、実際に経験しないといけないこともあると思うんです。確かに普通に生きていたら、なかなか考えるきっかけがないじゃないですか。人が生きて死んでいくことって、自然の摂理だと思うけれども、向かい合ったことがなかったので。

──今まさに向かい合っている最中ということですね?

そうですね。本当にライトは、この作品で生きて死にます。まさに自分が神だ、俺は生きているぞ、というところから一気に死ぬ。扱っている題材は凄まじく重い。良い意味でマンガ原作とは思えないくらい、素晴らしい作品だと思っています。

「だんだんライトが僕のなかに入ってくる」(甲斐翔真)

──生きて死ぬことを考え、稽古で向き合っているとのことですが、思い起こせば、『仮面ライダーエグゼイド』も生と死が扱われていましたよね。デスノート作品の普遍的テーマである「正義とは何か?」も、エグゼイドではバグスター(適役の怪人)の正義という部分が描かれていました。

そうでしたね。

──演じられたパラドが追い詰められていく精神状態のシーンなど、エルによって精神的に追い詰められていくライトに近いと感じたのですが。

大きく違うのは、映像か舞台かというところ。やっぱり舞台の方が、より世界観にハマっていくというか。映像だと撮ってしまったら終わりなので、映像よりも舞台の方が感じているかもしれないですね。だんだんライトが僕のなかに入ってくる感覚だったり・・・。

──例えば、どんなときに?

新聞とか読んでいたりすると、きっとデスノートがあったらこういうことに使うんだろうなとか。

──「この人の名前を書こう」という気持ちになってしまうと。

書けるか、分からないですけどね(笑)。でもやっぱり、ライトの気持ちはそういう意味では分かるんです。最近、新聞を読んでいて思うのが、日本で起こる事件はどれもすごく気持ち悪いなと。日本が恵まれた先の、なんかグニャとした陰湿な感じがすごく見える。

──それはライトの役をやるようになってから?

そうですね。ライトのフィルターを通していなければ、そういうことに目を向ける事はきっとなかったと思います。もう人がおかしくなっているんだなっていう。

──そこで、ライトの気持ちが汲めるんですね。

「どうにかならないかな」そういうマインドに入っているときに、きっとライトはデスノートを手にするんですよ。最初は悪ふざけで書いていたけど、本当に殺せるものと分かって・・・。人を殺したら後には引けないじゃないですか。だから自分を正当化するしかない。自分の精神を保つためには正義を曲げることでしかなかった。かわいそうですよね・・・。

──初舞台に向けた稽古を通して、ご自身では成長したと感じておられますか?

うーん、日々奮闘中なので難しいな。きっと自分は終わるまで納得しない。舞台って、ずっと満足せずにできるというのがおもしろい。どんどん変えていけるというのもあるし、どんどん前進していけるから。本番が終わったあとの結果論でいいんじゃないかなと思いますね。成長したところを劇場で観てください(笑)。


本公演は東京を皮切りに、静岡、大阪、福岡で上演。大阪公演は、「梅田芸術劇場メインホール」(大阪市北区)にて、2月29日・3月1日に3公演(甲斐は2月29日・17時半公演に出演)。チケットはS席13500円ほか、発売中。

(Lmaga.jp)

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