映画評論家3人による日本映画・鼎談、ベスト3を決定

すでにLmaga.jpの恒例企画となった、評論家3人による映画鼎談。数々の映画メディアで活躍し、Lmaga.jpの映画ブレーンである評論家 ── 春岡勇二、ミルクマン斉藤、田辺ユウキの3人が、「ホントにおもしろかった映画はどれ?」をテーマに好き勝手に放言。2018年・下半期公開の、日本映画ベスト3を厳選した。

「あれを面白くないって言う人はひねくれてる」(斉藤)

──2018年・下半期の日本映画を振りかえってみて、どうですか?

斉藤「いや、豊作やったと思うよ、俺は」

田辺「やっぱりトピックは、上田慎一郎監督のですよ。面白かったですよね?」

春岡「面白かった、面白かった」

田辺「ですね。普段、映画を観てない人ほど面白がれる要素ありますよね」

春岡「あー、そうなんだ。前半はワンカットでずっとやってるとか、映画ファンが喜びそうな撮り方だったけどな」

斉藤「あれがやっぱり衝撃なわけやろ。『なんか下手くそなゾンビ映画見せられてるなぁ』と思ってたら、後半ガラッと変わるというのが」

田辺「そう、見慣れてない人からしたら。あと、マット・リーヴス監督の『クローバーフィールド』みたいなのがあったりとか。あれなんでしたっけ? 宇宙遊泳してて、画面に血がつく映画」

斉藤「(アルフォンソ・)クアロンやろ、『ゼロ・グラビティ』の」

田辺「そうそう。あれをそのままやってたり。映画ファンも楽しく観られるし、よく練られている。ラストのメイキングシーンまで映してるってのがいいですよね。あれがあることで、この映画の意図もちゃんと分かってくるし」

斉藤「ホント、よく出来てると思うよ。映画的にも技術があるし、しっかり最後には感動にまで持っていく。あれがウケたのは映画界にとって良いこと以外の何ものでもないし、難癖つけるならこれ以上のエンタテインメントできるのかと。去年の今頃、上田くんは今の状況を夢にも思ってなかったやろうし、まさにドリームなんやけど」

田辺「それにしても『カメ止め』もそうですが、外国映画の『ボヘミアン・ラプソディ』とか、普段映画館にあまり行かない人が、日常会話のなかで映画の話するっていうのは久しぶりでしたね」

──そういう現象って、新海誠監督の『君の名は。』(2016年)以来じゃないですか?

田辺「そうそう、片渕須直監督の『この世界の片隅に』(2016年)もそうですよね。でも、もっとカジュアルな会話のなかに、映画が登場していたなって」

斉藤「映画的にも高度やし。あれを面白くないって言う人は、よっぽどひねくれてるでしょ」

田辺「あれ面白くないっていう人、いるんですかね?」

斉藤「いるらしい! 特に業界人のなかで。上半期のこの対談を読んで、ある監督が電話をかけてきてくれて。『あれ、どうやった? 斉藤くん』って。『すごく野心的で面白かったと思いますけど』って言ったら、『だよなぁ・・・でも、業界人には厳しい人が多い』って(笑)」

田辺「それ、やっかみでしょ(笑)」

斉藤「そう! その監督は面白いと言ってて。(この上半期対談で、日本映画1位に選出された岩切一空の)『聖なるもの』も納得で、直接岩切監督とも話をしたと」

田辺「そういえば僕も、白石和彌監督に会ったとき、『あの対談読んだんですけど、『聖なるもの』って面白いんですか? どこで観れますかね?』って聞かれました。意外とみんな読んでくれてる」

春岡「そういや、白石監督が報知映画賞で作品賞を獲ったとき、『いやぁ驚きました、自分が選ばれて』って。『今年は、カメ止めと万引き家族の2本だと思ってました』と言ってたからな(笑)」

田辺「でも、『カメ止め』みたいな大きいトピックスはあるけど、やっぱり2018年は最後まで『白石和彌イヤー』だった感じがしますね」

「俺もう、藤原季節ファンになっちゃったもん」(春岡)

──下半期でいえば、白石監督の師匠・若松孝二さんが起ち上げた「若松プロ」を舞台にした青春映画ですね。

田辺「あの映画は、若松さんじゃなくて、助監督・吉積めぐみさんの視点で語られたときの涙腺の緩み方がやばかったですね。吉積さんが主人公だからこそ、今の世代の人が観ても共感できるし」

斉藤「うんうん。あれが正解やったね。ただの文化史モノじゃなくなった。今の若い映画ファンで、昔の映画が好きな人でも、日活ロマンポルノ以上に若松プロはあんまり観る機会がないやんか。そういう意味でも、すごい勉強になった・・・と、僕の親しい女の子は言ってたね。それに、(吉積さんが)高間賢治と付き合ってたという要らん知識も得られるし(笑)」(高間賢治:撮影監督という概念を日本映画界に持ち込んだ先駆者)

春岡「プレスシートに高間賢治本人もコメントを寄せてて、『ちょっと違うところもあるけど、よく描いてくれてたと思います』とかいって。高間さんえらいなって。半分スキャンダルみたいな扱われ方してても、ちゃんとコメント寄せるんだって(笑)」

斉藤「荒井晴彦さんは怒ってるみたいやけど(笑)」

春岡「荒井さんは、あの映画まんまの感じだからなあ(笑)」

田辺「この前、白石監督をインタビューしたんですけど、吉積さんが初めて撮った30分映画の初号試写のシーンがあるんですね。あの試写室で吉積さんの右斜め前に、井浦新さん演じる若松孝二が座ってるんですよ。吉積さんはスクリーンを全然観れずに、若松さんの方をチラチラ見てて。実はあれ、白石監督が自分が初めて撮った映画『ロストパラダイス・イン・トーキョー』の試写室そのまんまだと(笑)」

斉藤「おもしろいね、それ(笑)。まあ『止められるか、俺たちを』は一種の個人映画やからね」

春岡「もう若松監督なんて、ほとんどデフォルメの世界だから。白石監督の頭のなかにある若松孝二を、井浦新にやってもらった感じだよね」

斉藤「それでも十分、若松監督に見えるもん(笑)。いい加減なところまで完璧に」

春岡「でもやっぱり、一番そう見えるのは荒井晴彦だよ(笑)。俺もう、(新井を演じた)藤原季節ファンになっちゃったもん。あの子いいわぁ」

斉藤「あれで株あげたもんね(笑)」

春岡「この前『相棒』観てたらさ、犯人と間違えられる政治家のボンボンを藤原季節が演じててさ。『相棒』出てんじゃん!って」

──結構出てるんですよね。マーティン・スコセッシ監督の『沈黙-サイレンス-』(2017年)や吉田大八監督の『美しい星』(2017年)、廣木隆一監督の『ママレード・ボーイ』(2018年)など。

春岡「そうなんだ。じゃあ絶対目にしてるな。『ケンとカズ』(2016年)で初めて意識して、今年の『ハード・コア』にもちょっこっと出てたのは覚えてる」

斉藤「バジェットの低い映画から、テレビ局がどんどん役者をひっこ抜いていくよね。『聖なるもの』からも、深夜ドラマの『ブラックスキャンダル』には小川紗良と松本まりかの両ヒロインが出てたし(小川紗良は朝ドラ『まんぷく』に3月から出演)。いい仕事してる」

「佐藤泰志でヌーヴェルヴァーグ、本当に上手い」(春岡)

田辺「あと、僕が推したいのは、三宅唱監督の。日本であんなに上手くクラブを撮った人は初めてですよね」

斉藤「あの中盤のクラブのシーンは最高やんな!あの幸福感というか、あの刹那的な・・・」

田辺「ね!これは、僕もいろんな人と喋ってるけど、やっぱりちゃんとクラブを体験している人が、映画のスキルをもってちゃんと撮ってる」

斉藤「そりゃあ、三宅監督はヒップホップのOMSB(オムスビ)とBimと組んで、ドキュメント映画を撮ってたしね(映画『ザ・コクピット』)。僕、三宅監督と話したけど、あれ、音はライブでつけるらしいよ」

田辺「ああ、なるほど。やっぱり感覚がいいですね。そのクラブのシーンもそうやけど、あの夜遊びの感じも良くて」

春岡「北海道のあの乾いた空気、乾いた青春なんだよなあ。ちょっとヌーヴェルヴァーグ(1950年後半の、フランス発のムーブメント)みたいだった。夜明けの函館の町をあのタッチで撮ったら、そりゃ格好良い。あの映画はもっともっと評価されていいよ」

田辺「柄本佑、染谷将太、石橋静河の3人が街中を普通に歩いてるシーンですら、素晴らしかった。あと、久しぶりに『染谷将太を見た!』って思いましたね」

春岡「染谷は、ああいう役(失業中の静雄)やったほうがいいよ。ああいう役は難しいから、できる役者が少ない」

田辺「そうですね。あと、石橋静河演じる佐知子も、ちゃんと女の人のダメなところを描いていて、僕はすごく好き」

斉藤「ダメっつうか、3人ともダメなんだけど、若松プロ世代のダメさとは決定的に違う」

田辺「ですね(笑)、なんか若松プロのダメさは、目標があってダメですよね」

春岡「60年代の若者なんだよなあ。2000年代の若者なんて、あの世代から見たら軟弱だもの」

斉藤「いや、軟弱でさえない。目的がない自分についてジレンマすら抱かない。これほど強いものはないわけで、ラストの二者選択の無意味さが効いてくる。だから、あのクラブのシーンがすごい良いのよ」

田辺「三宅監督は映画めっちゃ好きやし、それこそ自主映画も昔の映画もすごい観てますからね」

春岡「それはもう、映画を観たら分かるよな。自分たちでやるヌーヴェルヴァーグ的タッチはこれです、みたいなさ。あの佐藤泰志の原作を使って、ヌーヴェルヴァーグをやっちゃうってさ。本当に上手い」

田辺「見た目はそこらへんの兄ちゃんっぽいですけど、知的ですよね」

斉藤「彼のスタイルはけっこう先鋭的だけど、ちゃんと評価されないとね。濱口竜介監督の『寝ても覚めても』とかさ。演技賞とかすべて獲ってもいいと思うくらいの出来でしょ。無駄に長くないし(笑)」

田辺「やっぱり濱口さんにしかできない演出ですよね」

斉藤「東出昌大って、やっぱり面白いよね。大根とか言われてるらしいけど、全然そうじゃない。『菊とギロチン』の中濱鐵役、『パンク侍、斬られて候』の黒和直仁役といい、2018年は良かった」

春岡「ヘタなんだよね、でも、それでいいんだよね。上手い・ヘタの問題じゃないじゃん、役者の良さって」

斉藤「そう。すごく映画的なんだよ。昔の松竹映画のスターって、軒並みヘタやったやん。佐田啓二(往年のスターで、中井貴一の父)とかでくの坊やんか」

春岡「佐分利信(松竹三羽烏のひとり)とかもそうじゃんか。だけど、スターというのは、あれでいいんだよ。『寝ても覚めても』なんか、濱口監督の演出で東出くんがやると、相手役も映えるという」

斉藤「そう、また相手役の唐田えりかがいいわけよ。あそこに彼女をぶつけてきたのは、やっぱりすごいキャスティングよね」

春岡「あの子もヘタだけど、全然いいじゃん。下手と下手とでやった方がいいんだよ。映画的に面白く、スパークしてるわけだから。あれは濱口監督の上手さだよな、結局」

斉藤「あの5時間超の映画『ハッピーアワー』にも素人ばっかり出してたし」

春岡「結局、100%濱口竜介の映画なんだよ。映画監督ってのはそうあるべきだし。で、その監督と出会って、ヘタだろうが上手かろうが、その映画のなかに生きられる役者たちであれば、もうOKなんだよ」

斉藤「そう。そしてそこに、もうバカ上手い伊藤沙莉をぶっこむわけで。そりゃもう歯車狂うわけで」

春岡「あの子はホントに上手い」

田辺「ドラマ『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』では、あの怪物女優・松岡茉優とガッツリでしたからね」

斉藤「それで底知れない感じが刻み付けられちゃったんだけど、やっと世間的にも分かってもらえたんじゃないかと。とにかく伊藤沙莉はコメディエンヌとしてスゴい!」

「あれは完全に吉田恵輔監督のオリジン」(斉藤)

春岡「俺は、吉田恵輔監督のだな」

田辺「それはもう、同感ですよ」

春岡「『愛しのアイリーン』の木野花は、ちょっとびっくらこいたわな。やればできる人とは知ってたけど」

斉藤「その通りよね。でも僕、後から原作読んで、内容がまったく一緒やったのにビックリした。あれは完全に吉田恵輔監督のオリジン(原点)で、やっぱりあれをやっとかなきゃ次のステージに進めないくらいの作品だったんだろうな、と」

春岡「俺はもう、久々に伊勢谷友介に感動した」

斉藤「よかったよなあ。ホントはもっといっぱい撮ったらしいけど、がっつり切ったとか。でも、あれだけで伊勢谷の役割は十二分に発揮されてるよね。あの役は新井さんの原作とは全然違うんだけど、素晴らしい改変で」

春岡「映画版の方がいいよ。フィリピン人とのハーフで、おふくろの苦労をずっと見てて差別されてきた人間だから、主人公・アイリーンに『お前の気持ちはよくわかるんだ』って。あれ、すごい説得力あるもんな」

斉藤「あそこだけは残したらしい。もっと撮ったけど、説明的になっちゃうんでバッサリ切ったって」

春岡「いや、もう伊勢谷なんて切ったっていいんだよ、そもそも存在感めちゃくちゃあるんだから。あれだけで十分だよ」

田辺「あそこから、主人公・岩男が変わってくるってシーンですから。彼が出てきて出会うからですよね」

春岡「毎回同じような感じで出てるけど、河井青葉がいて、伊勢谷友介がいて、あと主役たちがいて、でも全体に木野花がのしかかってるからさあ。すごい映画じゃん」

斉藤「木野花が連れてくる女がまたダメダメで最高なんだ(笑)」

春岡「いいよね! あれ誰? 劇団の子?」

──桜まゆみですね。安田顕演じる主人公・岩男と見合いさせられる女性・真嶋琴美役。

斉藤「うん、桜まゆみ! 同じ新井英樹原作で、真利子哲也監督が撮ったテレビドラマ『宮本から君へ』にも出てるの」

田辺「地味ですよねぇ!地味だけど、なんかちょっと色気がありましたよね。あと僕も、『ハード・コア』は挙げておきたい1本ですね」

春岡「山田孝之が、ロボ男に『ああ、お前出てきちゃダメじゃん!ユーアー!ノットヒューマン!あなたロボットですよ!』ってめちゃくちゃ面白かったよね」

田辺「山田孝之プロデュースなんですよね」

春岡「もう好き勝手やってるよね。しかも佐藤健を自分で口説きにいって、佐藤健も山田孝之の弟役ならと、2秒で出演を決めたって」

斉藤「でも、健くんが映画をグッと締めたよな。ストーリー自体はグダグダだし収拾つかなくなるところをかろうじて」

春岡「あいつだけ真っ当ってことになってたけど、実はでも佐藤健なんかはアニキに憧れてんだよな。できればああいう生き方をしたいと思っていて。あと、原作とはちょっと違うらしいけど、あの結社の連中(首くくり栲象、康すおん)が、また山下監督の味付けでめちゃくちゃ上手いじゃない。あと、康すおんの娘役がめちゃくちゃいいんだ」

田辺「あれ、すごいですね! あのヤリマン(笑)。私は勘違いされがちなの、みたいなこと言って」

斉藤「多恵子役の石橋けいやろ。山内ケンジの映画やCMで最高なのはよく分かってるけど、この映画では見事にハマってたなあ」

田辺「劇中でも、弟役の佐藤健が言ってますけど、『美人でもなく不美人でもなく、ああいうタイプが一番厄介なんだよ!アニキの手に負える女じゃない!』って(笑)。もう名言ですよね」

春岡「(脚本は)向井康介だから、やっぱり。『ハード・コア』と『愛しのアイリーン』とは、きっとこの鼎談でしか評価されない・・・と言うと申し訳ないけど、ぜひとも挙げておきたい」

田辺「ですね!」

「『ごっこ』は高橋泉の本気の方やもん」(斉藤)

斉藤「あと、僕は。予想以上の衝撃作で」

田辺「原作者の小路啓之さんは、以前から知り合いやったんですけど、(2016年に)亡くなられたのびっくりして。観ないとあかんとずっと思ってたんですけど・・・。あれ、熊澤尚人監督ですよね?」

斉藤「そう。ここ最近、熊澤監督の作品ってパッとしなかったでしょ。でも、この後で『ユリゴコロ』を作ったのはなんかわかる気がする。それよりずっといいけど」

春岡「『ユリゴコロ』の前なの?そうなんだ!」

斉藤「そう。いろいろあって、ポスト・プロダクションの資金が切れてしまって。全部撮ってはいたけど編集できなくて放置されてたらしい。でも、あれはすごいよ。脚本は高橋泉やし」

田辺「今年、高橋泉のクレジットもちょいちょい見ましたね」

斉藤「『サニー/32』(白石和彌監督)があって、『坂道のアポロン』(三木孝浩監督)があって、この『ごっこ』」

春岡「『サニー/32』なんかはわかるんだけど、『坂道のアポロン』もそうだと知って、高橋泉という脚本家はこういう作品もできるんだって」

斉藤「でも、『ごっこ』は高橋泉の本気の方やもん。ヤバい感じ」

──千眼美子こと、清水富美加も出てるんですよね。

斉藤「その清水富美加がさぁ、なんでこんなことになったのよ!?って思うくらいのスゴさなのよ」

田辺「女優として、ホントもったいないですね」

斉藤「あと、主演の千原ジュニアが見せる、こんな人間の顔あるんやって表情がとんでもなくて。ジュニアの出演作には、豊田利晃監督の最高の2本、『ポルノスター』と『ナイン・ソウルズ』があるやんか。演技が上手いのは分かりきってるんやけど、『ごっこ』はそれ以上かな。1年そこそこ放置されてたのはジュニア自身悔しかったみたいよ。そういえば、って観た?」

田辺「あれですよね、 加藤綾佳監督」

斉藤「あれ僕、ボロ泣きやったわ」

田辺「加藤監督は、前作の『おんなのこきらい』も良かったですからね。あの後、主演の森川葵が大ブレイクしましたけど、今回の主演は山田愛奈でしたっけ?」

斉藤「そう。山田愛奈と和田聰宏の、年の差男女の恋物語。食を題材にした地方局の深夜ドラマみたいな構成ではあるんやけど、だんだんそれどころじゃなくなってくる迫真性がすごい」

春岡「山田愛奈って、瀬々敬久監督の『最低。』(2017年)に出てなかった?」

斉藤「そうそう!」

──それこそ、山田愛菜の映画出演作は、『最低。』と『いつも月夜に米の飯』の2本だけですね。

斉藤「すごく丁寧に人物の心情を撮れる監督やなと改めて確認して、やっぱり大したもんだぜ、って感じ」

田辺「あの人はやっぱり女の子をちゃんと撮りますよね。『おんなのこきらい』もそうですけど、自分の経験談を入れてくるっぽいっていうのは聞きますからね」

斉藤「あんまり評判きかないけど、僕は傑作やん!って思ってます」

田辺「あとは、思いのほか打ち切りが早くて、どうやって続映できるかキャンペーンをしてる入江悠監督のですね」

春岡「俺も、『ハード・コア』を出した以上は、『ギャングース』も言っとかなあかんなというのはあるよね」

田辺「この鼎談ではおなじみの入江悠監督ですが、メジャーだろうが、インディペンデントだろうが、やることが一貫してるのがいいですよね」

斉藤「メジャー入江とマイナー入江が上手に融合した映画だよな。高杉真宙も良かったけど、加藤諒が素晴らしかった。彼を初めていいと思った(笑)」

春岡「もう、加藤諒の映画じゃん、あれは。それに、悪役のMIYAVIがかっこいいじゃん。MIYAVIは『BLEACH』にも出てたけど、『ギャングース』の方が抜群に良かった」

斉藤「カリスマ性もあるしね~。アンジェリーナ・ジョリー監督映画『不屈の男 アンブロークン』にも出てたけど、役者としては間違いなくいいよね」

春岡「やっぱ入江映画は面白いよな」

田辺「この座談会でも必ずと言っていいほど、山下敦弘、入江悠、白石和彌、そして、吉田恵輔の名前が挙がりますよね(笑)」

斉藤「贔屓だけではないよ~。 実際、ずっと面白い映画を作っているからだよ」

「細田守監督はそれをわかってやってる」(春岡)

──細田守監督のはどうでした? なぜか公開前に酷評の嵐でしたが。

斉藤「僕は大好きなんやけどね。ミクロ=マクロであるっていう、細田さんの世界の見方をますます突き進めてると思う。題材的にも、ディテールにしても」

田辺「最近はネットの酷評が目に付きますよね。細田監督の批判を見てると、村上春樹の小説読んで『リアリティがない』っていうのと近い感じがしましたが(苦笑)」

斉藤「僕も試写で観たとき、ちょっと反発はあるんじゃないかと頭によぎったのよ。『育児映画』としてみると男目線でしかない、とかね。僕も育児に関わってきた身だし、それを言われると苦しいけど、そりゃ監督の実体験だからねぇ。僕は細田作品をある時分から『個人映画』として見てるわけで」

春岡「『個人映画』じゃいかんのかよ(苦笑)」

斉藤「全然いいでしょう。というか、だからこそいい。そもそも細田監督は、『サマーウォーズ』くらいから個人史的な観点で映画を撮ってるから。今回は、彼が父親になったというのが非常に大きいわけやんか。その感性・見方で映画を撮ってなにが悪いの?って、僕なんかは思うけどね」

春岡「そうじゃないとダメだよ。作家なんだから」

斉藤「だから、海外ではウケるんだろうね。海外のアニメーション賞には軒並みノミネートされてるから」

春岡「だって、あの近未来の東京駅とかもめちゃくちゃかっこいいじゃん」

斉藤「もちろんそれもすごいけど、主体となる家の設計に興奮した。プロの建築家を雇って建築してもらってるけど、あれ自体が映画的運動のエンジンになってる」

春岡「細田監督はそれをわかってやってるからね。平面のスクリーンに映す前提に、あの高低差の家を設計している。あの動きも、映画の運動なんだよ。映画って、上下の運動が弱いから、あのなかでどうドラマを作るかをテーマにもしてるし」

斉藤「そういう総体的なことを設計してドラマづくりをしていってる気がする。実写映画でいうと俳優の演出と美術設計のどっちも兼ねる才能がアニメーション監督には必要やと思うんやけど、そこに平然と『個人映画』のテイストをぶっこんでくる大胆さに驚くわけで」

春岡「俺はこれまでの作品と比べてそこまで面白いと思わなかったけど、レベルが落ちたかといえば、全然そんなことはない」

斉藤「むしろ先鋭化してますね。タイムパラドックスを物語上で設定していながらそれが途中でうやむやになっちゃってる、って批判もあって、まあそれは確かにそうなんだけど(笑)。SF好きとしてはホントは徹底させて欲しいところではあるんだけどね(笑)」

田辺「そこをやり玉に挙げて貶すとか、評価を落とすっていうのはちょっと違うかなぁ」

春岡「ガラスに息吹きかけるシーンとかさ、『あれ、スゴいっすね』って細田監督に言ったら、なんでも美術さんが本当に家で息子とやってて、それで質感を掴んだんだって。細田監督も楽しそうに言ってたもん」

斉藤「そもそもあれをアニメーションでやろうとするセンスに惚れますよね」

田辺「まあ、お金払って観て、面白かった、つまらなかったと言うのはもちろん自由ですし、そのなかで新たな発見もありますからね。侃々諤々の議論は、僕らも面白いし」

「面白いのは分かってるという謎理論(笑)」(田辺)

──では、そろそろ決めましょうか。2018年下半期のベスト3。

斉藤「1位は『きみの鳥はうたえる』ちゃうの?」

田辺「あれは3人とも、完全に一致しましたもんね」

春岡「俺は、『愛しのアイリーン』と『ハード・コア』が入ってればいいよ。あとは『寝ても覚めても』をどうすんだって話だよなぁ」

斉藤「松居大悟監督のとか話してないけど、どうするの?」

田辺「いやぁ、期間が短すぎて(苦笑)」

斉藤「君は観とかなあかんやろ(笑)。もう、すさまじいよ。ここまで全てが狂った純愛映画はないんじゃないかと」

──田辺さんは、上半期の鼎談で、松居監督のを大絶賛し、前半のMVPだと言ってましたが?

田辺「いや、もう、ま、今年一番抜け落ちてしまった作品です(苦笑)」

春岡「あと、白石和彌監督の『止められるか、俺たちを』や塚本晋也監督のも面白かったし」

斉藤「主演の趣里ちゃん、よかったよなぁ。あと、菅田将暉の徹底した『受けの演技』がすごいのよ。受けであれだけ完璧にできるんやし、やっぱホンマもんやと」

春岡「そうそう。それを改めて感じることができた映画でもあった。このベスト3に入らないまでも、とりあえず面白かった映画として挙げとかなきゃいけない」

斉藤「なんやかんや、強烈な映画ではあった」

春岡「『きみの鳥はうたえる』の石橋静河はもちろん、『生きてるだけで、愛』の趣里も主演女優賞候補だよ」

斉藤「そこに加えるなら、の平手友梨奈。やっぱスゲえわと。映画も抜群に面白かった。これは究極のキャスティングやったね」

春岡「そういえば、白石和彌監督は上半期でを入れてるだろ?」

──いや、入れてないですね。

斉藤「そやねん。あんだけ喋って入れてないという(笑)。そういう意味では、吉田恵輔監督も今まで入れてない」

田辺「白石監督も吉田監督も、もう面白いのは分かってるという謎理論でベスト3に入れてなかったですね(笑)」

────では、1位は三宅唱監督の『きみの鳥はうたえる』、2位は吉田恵輔監督の『愛しのアイリーン』、3位は白石和彌監督の『止められるか、俺たちを』ということで。

一同「いいランキングじゃない」

(Lmaga.jp)

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