遠藤憲一、初の探偵役「極道極道してると受けなかった」

そのコワモテな風貌を武器に、ヤクザからちょっといいお父さんまで、さまざまなキャラクターを演じ分ける名バイプレイヤー・遠藤憲一。そんな彼が、『BE-BOP-HIGHSCHOOL』の作者・きうちかずひろがメガホンを取った映画『アウト&アウト』で主演をつとめる。血のつながらない少女とともに生活する元ヤクザの探偵役。周囲に恐れられながらも憎めないキャラクターを演じる遠藤憲一に、本作の魅力や役者としての思いを訊いた。

取材・文/ミルクマン斉藤 写真/渡邉一生

「ダメダメな奴ばっかりで(笑)」(遠藤憲一)

──最近ベビーフェイスな役が続いていたように感じる遠藤さんですが、三池崇史さんの作品にずっと出てられた頃から拝見していた僕なんかは、今回非常に懐かしく感じたというか。

帰ってきた、って感じですか(笑)。

──ええ。それに加えて、かつての東映セントラルの匂いがするんですよ。松田優作さんの『遊戯』シリーズとか『探偵物語』みたいな洒落たハードボイルドを彷彿とさせて、70年代後半から映画を観はじめた世代にはなんだかうれしくなってくる。それにしても遠藤さんが探偵役というのは今までありましたっけ?

こうやってガッツリできたのは初めてじゃないかな? 若い頃、もっともっとコメディチックな探偵を演ってみたいな、と思っていたことはありましたけど。

──でも今回は、探偵でありながら元ヤクザの幹部で、「日本で5本の指に入るおっかねえ人」という役ですよね。そのあたりのドスの利かせ方、抜き方というのが面白かったですね。普段は怖さをオブラートで包みつつ、肝心なところで本性を出してくるというのが。

いや、そこを見ていただければうれしいです。本当にそういう風な役作りをしたんで。そのまんまです。

──きうちかずひろ監督は、『カルロス』(1990年)や衝撃的なセルフリメイク版『BE-BOP HIGHSCHOOL』(1994年、以下ビーバップ)など、素晴らしくハードなヴァイオレンス・アクションを撮る映画監督としても90年代の一部ファンを唸らせたのですが、長編は実に18年ぶりとか。遠藤さんとは初めてですよね?

そうです。しかも俺、『ビーバップ』くらいしか知らなかったんで。過去にどんなものを撮っていたのか知らないまま演ったんですよ。俺が一番最初に触れたのは、「こういうオファーが来ている」と言われて読んだ原作のほうですね。

──脚本の前に小説を読まれたんですね。

そうです。元極道で探偵、しかも過去にいわくのあることで少女・栞を養っているというところが面白いな、と興味が湧いて参加させてもらったっていう感じなんです。あんまり極道極道していると (オファーを)受けなかったかも知れないですけど。

──遠藤さん演じる矢能って男、極道という設定さえなければ、コワモテではあるけれども情のある良い探偵ですよね。きうち組常連の竹中直人さんと酒井伸泰さん、それにプロレスラー・中西学さんの4人のおっさんたちが悪巧みしてる・・・というか、ただダベってるとこなんか最高ですね(笑)。

ダメダメな奴ばっかりで(笑)。この仲間たちも裏社会でやってきた関係性ばっかなんで、そこがまた面白いところなんでしょうね、やっぱり。

「俺が手のなかに乗っけられてる」(遠藤憲一)

──よほど七歳児の栞ちゃんのほうがしっかりしてるという。それにしても演じる白鳥玉季ちゃんが素晴らしいんですが、あの子役さんとは初めてですか?

初めてですね。でも難しい役だったと思うんですよ。玉季ちゃんにも俺にも言われたことなんですが、「近づきすぎない」ということを監督から注文されて。血が繋がっていないというのもあるけど、「関係性がべったりしない」って常に言われてましたね。俺に関してはこれまで、子役に対しては『いい人』を前面に出す芝居ばかりやってきたので、うっかりそういう芝居をしたら「そうじゃないです。距離を置いてください」って。玉季ちゃんは玉季ちゃんで「(遠藤に)近づきすぎない、ストレートに感情を表さない」と懇々と目の前で。

──子役に対しても大人と同じ演技指導なんですね、きうち監督は。

子役に言うようには喋らないんですよ。もう大人に喋るように、「こうでしょ? この部分はこうでしょ。だからここはこうでしょ? 解るね? じゃ行こう、テイク用意」みたいな。クールというかストレートな。ふつう急に言われると、わーっといっぱいいっぱいになっちゃうと思うんですけど、玉季ちゃんは思いっきりのいい子で、自分のなかで掴んだものをポンッと吐き出してくるところがねぇ・・・すごいなぁと思いましたね。

──ずっと丁寧語で。父親に対するでもなく、でもまったくの他人に対するでもなく、あるときは妻のように甲斐甲斐しくというのがねぇ・・・。一定の距離は保ってるのに、ちょっと危うい関係に見えるくらいの親密さがほとばしるシーンもあって。「私がどれだけ心配してたと思ってるのよ」って抱きつくシーンがありますが、本当に心が通い合ってるようで、ちょっとほろっときますよね。

日常は全然違いますよ、日常は。撮影のとき以外はすごく大人の子なんで、俺が手のなかに乗っけられてるような感じなんで。

──あまり子ども子どもしていない?

子ども子どもしてんですけど、なんか気遣いがね。やることは子どもなんですよ、アメ玉くれたり。「サンキュー」って言って舐めてたら、ほかのところにも笑顔で挨拶しながら配りに行って。そしたら俺の前に来て急に真顔になって「見られた?あなただけじゃないのよ」みたいな顔で見るんだよね(笑)。そんなこと思ってないのに、「へ~、こんなことに気を遣うんだ」って。大丈夫だよ、俺だけがもらえるなんて思ってないよ(爆笑)。

──いやあ、かなり「女」してますね~(笑)。それはともかく物語のなかで、前任の探偵と栞ちゃんの親との関係、そして矢能との関係とか、「婆さん」と呼ばれる高畑淳子さんとの関係とか、あまりよく分らないですよね?

よく分らないというか、まったく触れてないですよね。栞の親はどういう親で、どういういきさつがあって預かっているのかとか。お婆ちゃんに関しては、どうして家に銃なんてものを保管してるのか、彼女はそれを知っているのか知らないのかも。時間経ってから思うことがいっぱいあるんですけど、そこを描かないところがきうちさんならでは、というか。見せちゃうとただのストーリーになってつまんなくなっちゃうんで、「おそらくこういうことがあったんだろうな」ってお客さんに好きに想像させてくれるところが上手な気がしますね。

「きうちさんの作品の根底はお洒落なもの」(遠藤憲一)

──そもそも矢能という人間がなぜ、ヤクザを辞めて一応堅気になったかということさえ触れていませんからね。「日本で5本の指に入るおっかねえ人」というほどだから残虐非道だったと思うんですけど。ま、あえて言うなら続編の構想はあるかも知れないですが(笑)。

続編とかあまり考えたくないですけどね。好きじゃないんですよね、パート2とか。今はあまりシリーズ化とかは考えてないですね。大規模映画と比べたらこっちは小規模映画なんで、とりあえず合格点まではお客さんに入っていただいて。

──玉季ちゃんとの関係もそうですが、矢能の専属運転手になっちゃうヤクザ役の渡部龍平さんとの絡みもすごく面白いですね。「黙ってるか死ぬかどっちかにしろ」って一方的に矢能に凄まれてビビったりして。

面白いですね。でも、あのシーンは完成されたものを見るまで判らなかったなぁ。『アウト&アウト』に関してはほとんど出来上がらないと分らなかったんです。どこが面白いとかどうかなんてのは。

──ほお。それはどういう意味で?

いっぱいいっぱいで演じてたからじゃないでしょうかね。俺はいろいろ、こうしてみたいああしてみたいってすぐに思いついちゃう方なんだけど、監督からそういうのは今回止めてくれ、って言われたんで、そっちに脱線しないように心がけていたんです。とにかく台本の通りに、監督が撮りたいように、余計なことを全部しない。その辺のセーブを効かせることで精一杯だったので、撮ってるうちはこの場面が面白いとかまったく分らなかったですね。栞ちゃんとのシーンもそうです。完成してからです、ホッとしたのは。

──それは感情に流されるような芝居を要求されない故ですか?

うーん、なんだろうなぁ。けっこう監督の指示は細かいんだけど、それが良いか悪いか分らなかった。どんなセンスでどう撮られてるかも全く分らなかったですし。ただすごく明かりや向きやアングルにこだわりがあるのは現場で分りましたけど、とにかく上がるまで半分不安のなかにいたんですよね。本当に人が観て良かったとか言ってもらえるレベルの作品になるのかどうか。

「本当に美しい良い作品」(遠藤憲一)

──でも、きうち映画をずっと観てきた僕にしても、今回もまた美しい作品でしたね。アングルも計算されてスタイリッシュだし、とりわけ室内シーンの照明が美しい。

綺麗ですね。ヨーロッパの映画みたいで。だから美しさに最初びっくりしたかな、完成した作品を観たとき。本当に美しい良い作品という感想を持ちました。

──とてもシネマティックだと思いますね。画のこだわりは、やっぱりもともと漫画家さんだからというのもあるのかも知れないですが。

そうですね。カット割りはそうでしょうね。『ビーバップ~』と作風は全然違いますけどね。

──失礼になると謝りますが(笑)、遠藤さんの顔ってとても陰影が濃いじゃないですか。特に今回のような撮り方だと、遠藤さんの顔そのものが風景に見えてね、良いんですよね(笑)。

へ~、本当ですか。その言われ方は初めてですね。いいこと言ってくれますねぇ。

──遠藤さんの顔を美しく撮ることにも相当なこだわりを感じましたね。きうちさんは監督としてはすごく寡作ですけど、もっと撮り続けて欲しいですよ。

うん、映画監督が一番合うんじゃないですかね。(漫画家、作家とさまざまな顔を持つきうちかずひろの)なんか集大成のような気がするな。

──漫画では飽き足らず映画監督になったような方で。

もっと表現したいって言うね。

──昔、遠藤さんはVシネマによく出演されてましたよね。きうち監督もVシネマという土俵で何本か撮ってられたけれど、あのジャンルの全盛期に近い熱気も感じます。

またちょっとタイプ違いますけどね。きうちさんの作品の根底には、お洒落なものが入っているんですよ。美意識が隅々に流れているんで、アウトロー映画という一色では流せない、ちょっと一線を超えた世界観にあるんだと思うんですよね。だからもしパート2があるとしたら、その独自路線をもっと研ぎ澄ましてエッジをかけた何かが生まれるかも知れない。ポスターから何からイメージ一切合切、きうちさんすごくこだわったらしいんですよ。

──先ほどパート2にはさほど興味が無いとおっしゃられてましたけれど(笑)。

まあ、そういう終わり方してますからね(笑)。

──確かにそうですが(笑)、こういう映画はシリーズものになるべきじゃないか、東映の良きBムーヴィ(B級映画)の伝統を引き継ぐものだから、そうなれば今の映画界にもいいのにな、という感じがするんですけどね。

さっき優作さんの名前が出ましたけど、『遊戯』シリーズみたいなエンタテインメント性まで昇華させればすごいなと思いますけど、なかなか出来るもんじゃないんでね。独特な松田優作さんの世界、あの域までは。でも、この映画はそこそこその域にまで入ってると思うんですけど。

「今のベストは、ディズニーランド!」(遠藤憲一)

──ところで遠藤さん、ドラマ『白い春』(2009年)あたりからですか、いつしか本当にいいお父さんを結構演じられるようになりましたよね。コマーシャルもそうですし。

そうですね。

──昔は本当にヤバい役ばかりだったのを知っているから、そのあたりのギャップを面白がってる僕らもいるんですけども。でも放送中の『ドロ刑 -警視庁捜査三課-』(日テレ)もそうですが、ちょうど中間点みたいなグッド・バッド・マンな役が続きますね、最近。

この作品も『ドロ刑~』も中間ちゃあ中間なんですね。でもその「中間」って難しいんですよ。その難しいところを与えてもらえるようにはなったんで、もう一個違う段階に入れるチャンスかなとは思いますね、表現がね。やり過ぎず引き過ぎず、みたいな。

──これから先、どういう路線でいこうかな、みたいなのはありますか?

エンタテインメントな作品が好きですね、生々しくないやつ。現実では無さそうなものに、演じ手や役者が命注ぎ込んで、架空のものなんだけどあたかもあるかのようなものになるのが一番好きかなぁ。極致はディズニーランドですよ。行っただけで世界が変わってしまう。

──ほお、エンケンランドですか(笑)

キャラクターものを演りたいって意味じゃないですよ(笑)。入った途端に別世界に入っていくような映画が出来ると、見ている人も作り手も本当に楽しいなと思うんですよね。ハマる人はハマるじゃないですか、まるで不思議の国にいるような。例えば『遊戯』シリーズも別世界じゃないですか。

──なんせ殺し屋ですからね。

実際はアウトローなんだけど、見ててスッキリという。その域までいけたらすごいですね。『アウト&アウト』も『ドロ刑』も別世界なものをあたかもあるかのように作り上げているんで、こういうところが今いちばん好きなところですかね。

──そう言われればですが、遠藤さんってあまりリアリズムな映画って少ないですよね。

そうですよね。飛び越えすぎてるんだよね、ちょっと(笑)。すっげー刺激に飢えた、イカレた奴を相手に「これ以上ねぇだろ!」って喜ばしてきたんで。もうちょっと押さえた・・・、押さえたっていうとちょっとおかしいな・・・。もうちょっと家族が見て「わー、もう1回行きたい、楽しい」とかを演りたい。だからってホームドラマ的な意味じゃないですよ。まぁ、ちょっと前まではホームドラマが好きだったんですけど、今は架空なもの、架空なエンタテインメント。ベストはディズニーランド!

(Lmaga.jp)

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