女優開眼?すっぴん人妻を熱演した橋本マナミ「夢のような時間でした」

三浦しをんの小説を大森立嗣監督が映画化した『光』。過去の忌まわしい記憶に翻弄される離島出身の3人を通して、人間の心の底にある闇を描いているが、狂気と怪物性を孕んだ主人公・信之(井浦新)と、その幼なじみ・輔(瑛太)の運命に巻き込まれる信之の妻・南海子にキャスティングされたのは、グラビアタレントの橋本マナミだ。「愛人にしたい女」でおなじみの彼女だが、本作では虚ろな目をしたすっぴんの人妻を見事に熱演。女優としての高いポテンシャルを垣間見せた橋本マナミに話を訊いた。

写真/成田直茂

「女性としては分からなくもない」(橋本マナミ)

──バラエティで見ない日はないほどのご活躍で。

そんな出てないですよ。出てるかな(笑)。

──昔から女優業もされてますが、どうしても「愛人」のイメージの方が勝ってたんですね。ただ、この『光』の南海子役は、女優として開眼!と言ってもいいほど、素晴らしい演技でした。最初、大森監督からはどんなオファーだったんですか?

もともと、8年ぐらい前ですけど、大森監督のワークショップに通っていたんですよ。ここ4年くらいはお会いしてなかったんですけど、このお話をいただいたときに「テレビに染まってなかったらやって欲しい」と。私、キャラは派手ですけど、普段は地味なので。

──監督の言葉を、どう捉えました?

やっぱり南海子は普通の主婦で、普通の人。で、監督の役へのアプローチが、役を作るんじゃなくて、そのままで演じて欲しいという方なんですよ。むしろ、役作りなんて要らないという。そのままでやって欲しい、と。

──でも、普通でありながら、普通ではないですよね。子持ちの人妻でありながら、やさぐれたアパートで情事を重ねている。

そうですね。何事もなく生きていたらただの主婦なんですけど、昔の島から生き残ってきた信之、輔たちに巻き込まれて、そこから南海子の歯車も狂ってしまう。でも、輔と不倫するのも、ちょっと理解できるんですよ。旦那さんからもあんまり相手にされなくて、普段の日常も平々凡々で、なにか自分を確かめたい、なにか刺激が欲しいと、自分の居場所を求めてしまうのは、女性としては分からなくもないから。

──周りから見たら幸せそうだけど、本人は全然それを実感できずに、その鬱屈した感情を不倫でバランスとる、という。

一番自分がさらけ出せる場所、だけど、好きなわけじゃなくて。ただの、暇つぶしとも言えないという。

──そのなかで、妻の顔、母親の顔、そして、不倫相手だけに見せる女の顔。この使い分けが抜群でした。

ホントですか? あんまり意識はしてなかったんですよ。ここではこんな顔をしよう、ここではこう振る舞おうとか。まったく思わなかったですね。

──それはもう自然に?

うん、自然に。役に対してのいろんな気持ちはあるから、たとえば夫の信之には、心の距離が遠すぎて、近づこうにも近づけないもどかしさがあるし、輔とは距離は近いんだけど、お互い気持ちが通い合ってるのではなく、ただ願望をぶつけ合ってるだけなので。おふたりが役のまま居てくれたから、自然とそうなりましたね。

──笑顔ですごくやさしい夫なんだけど、妻・南海子のことがまったく目に映ってない新さんの芝居も相当狂気的でした。

とんでもないですねぇ。信之はホントに怖かったです。(演じている)新さんも、現場ではずっとそんな感じでした。普段のお姿は知らないんですけど、休み時間に話してても距離があったし。近づけなかったです、新さんには(苦笑)。

──激しい濡れ場をともに演じた瑛太さんはどうでしたか?

瑛太さんも輔でした、その時期はずっと。やっぱり私と瑛太さんは濡れ場もあるし、南海子が初めて自分の本当の気持ちを吐露するのも輔さんだし、現場ではすごく助けてもらいました。

──ドラマ『ハロー張りネズミ』でも共演されてましたよね。

でも、こっちの方が先なんです。瑛太さんも役者ですからねぇ、どれがホントの瑛太さんかわからない(笑)。でも、瑛太さんとは感情を爆発させるシーンばっかりでお互い大変な役だったから、いろいろ励ましてもらってました。

──大森監督とはどんな話をされましたか?

あんまり指示とかはなかったですけど、一度、私の気持ちが乗らないときに、「相手の役者をちゃんと信用して、自分の言葉ひとつひとつに集中したら、自然と感情は付いてくるから。ムリして作らなくていい」と言ってくださって。そこからはすごく楽になりましたね。

「派手な役ばっかり来るんで(笑)」(橋本マナミ)

──「国民の愛人」としてバラエティでは大活躍ですが、この映画は女優・橋本マナミにとってすごく大きかったと思うんですが、どうですか?

かなり大きいです。もともと、ずっと女優業をやりたかったから、夢のような時間でしたね。どうしてもこういうキャラなんで、派手な役ばっかり来るんですよね(苦笑)。自分の本質ではないんだけど、パブリックイメージが強くなり過ぎちゃって。そういう時期にこの役をいただけたのはすごくありがたいです。

──今後いろんな作品で使ってみたいという関係者が増えると思います。それぐらい、女優として開眼した感がありました。

そうなれればいいなぁ。来年以降は、女優業をメインにしていけるようにしたいんですけど、どうも愛人が強すぎて。そんなに強くなっちゃうものなんだと、今改めて思いました(笑)。

──あれだけガシガシ出れば。

まあね、自分でやってることなんですけどね(笑)。

──今回の子持ちの人妻という役どころでしたが、経験無いですよね?

ですね。やっぱり人妻でもないし、子どももいないから、そのあたりの役作りって想像だけじゃ難しくて。娘役の早坂ひららちゃん(2011年生まれ)と同じくらいの子どもを持ってる友だちに会ったりしました。ホントはその子を預けて欲しかったんですけど、なかなか難しいから。あとは、団地にも住んだことなかったから、東京近郊の団地を見にいきました。

──団地って不思議ですよね。きちっと整理されていながら、場所によっては、鬱屈とした雰囲気も宿っているという。

うん、空気感もどこか溜まっている感じがありますよね。あまり東京では見ないような雰囲気があるというか。マンションとは全然違いますね。

──逆に輔が住んでた粗末なアパートはどうでしたか?

あれもスゴかったですよね。衝撃的だった(笑)。

──その部屋で輔が食べた弁当の空箱を、南海子がさり気なく片付けるシーンが、個人的に好きで。情事を重ねるその部屋では女の顔なんだけど、人妻の顔が一瞬覗くという。あれって監督の演出だったんですか?

あれは監督の指示です。さすが監督ですよね。最初は普通に座って、話しているだけでした。その動作ひとつで、スクリーンに違うものが生まれるんですよね。ホントにちょっと片付けるだけで、そこに意味が生まれたから。大森監督、すごい!って。

──映画って、単純にスクリーンが大きいから、瞬きひとつが意味を持ってくるじゃないですか。そのあたりはどう捉えて演じられてますか?

それねぇ・・・ホント、やり直したいなと思うシーンが多いんですけど(笑)。ホント、バレますよね。気持ちが切れたとか。それがリアルっちゃリアルなのかもしれないけど。

──でも、今回の南海子を演じる上では、相当強い目をしてましたよ。語るという意味で。

虚ろな目が多かったんですけど、南海子としてそこに居たら、そうなったというか。大森監督にも、「あの目はすごい良かった」と言われて。でも別に、それをやろうと思って演じていたわけじゃなくって。だから、すごい反省点は多いんですよ。周りの役者さんに引っ張ってもらった部分も多いし。

「びしびししごかれたい!(橋本マナミ)

──そもそも、大森監督のワークショップに通っていたきっかけは何だったんですか?

私、今でこそ「愛人」キャラですけど、すごく女優業をやりたかったんです。でも、やっぱり下手だから、いろんな監督のワークショップに行ってたんですよ。結構ヒマだったので。で、そのなかでも大森監督が、ひとりひとりに誠意と愛をもって向き合ってくださっていたのと、課題のハードルがすごい高かったんです。

──どんな感じだったんですか?

たとえば、ほかの監督さんならだいたいOKのお芝居でも、大森監督は「もっと自分のなかのなにかを割れ、自分を壊せ!」っていう。やってるんだけど、「さらにもっと、もっと!」って。大森監督は、見えないものを引き出そうとしてくれるというか。

──監督は俳優としてのキャリアもあるし、どうすれば正解というのは分かっているけど、それ以上のことを求めてますよね。自身の監督作でもそうですが。

そうですね。あと、普段読むものも「理解できない本を読め!」って言いますよね。鑑賞するものも。そのときは分からなくても、考えることが前進することになるって。

──で、なにか読んだんですか?

そのときは哲学の本とかを読んだりしたけど、ホントわからなくて(笑)。途中で止めました。

──止めたんですか?

うん(笑)。でも、監督が言ってくれた言葉は全部入っているから大丈夫です。最近は日経新聞を読んだりとか。

──日経新聞!?

ちょっと間違ってるかな(笑)。

──(苦笑)。ただ、今回の映画『光』は、橋本さんのいろんな役を今後観てみたいと思わせる演技だったのは間違いないです。

私もやりたいです、ホントに。こういう仕事ばっかりあったらいいのになって。こういう役をやりたいというのはないんですけど、監督と初めて会う役者さんとの化学反応がすごい面白いから。ちっちゃい役でもやっていきたい。そして、びしびししごかれたい!

──しごかれたい?

最近は、そういう監督はいらっしゃらないんですけど、教わりたい欲は、ものすごく強いです。

──それなのに、哲学の本は途中で・・・。

フフフ(笑)。頑張って途中で止めないように、ですね(笑)。

(Lmaga.jp)

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