深津絵里「演技とは何か考えさせられた」

『ウォーターボーイズ』(2001年)、『スウィングガールズ』(2004年)などを手掛けてきた矢口史靖監督によるオリジナル脚本作『サバイバルファミリー』が2月11日に公開される。ある日突然、地球上から電気が消えてしまい、東京で暮らす平凡な一家・鈴木家が予期せぬサバイバル生活を余儀なくされるという、新感覚のディザスタームービーだ。主人公のダメ親父・鈴木義之には名バイプレイヤー・小日向文世、その妻・光恵には日本を代表する女優・深津絵里がスタンバイ。キャンペーンで大阪を訪れた深津に話を訊いた。

写真/渡邉一生

「字面だけではない、その先を目指していた」(深津絵里)

──矢口監督は2001年のドラマ(学校の怪談『怪猫伝説』)以来の共演となりますが、深津さんにとって監督のイメージは、どういう感じですか?

矢口監督の『裸足のピクニック』(1993年)をたまたま自宅で観ていて、この監督とお仕事してみたいなぁと思っていたとき、ちょうどドラマのお話をいただいたんですね。とっても楽しい撮影で、演出もホントに面白くて。で、クランクアップのときに監督が「次は映画でお会いしましょうね」と声を掛けてくださって。その言葉をずっと信じていたのですが、その後一切お声が掛からず(笑)。

──15年以上、音沙汰がなかったと。

そうなんです。だから、なかば諦めかけていたんですけど、今回オリジナル脚本で新作を撮るので出演してもらいたいとうかがって。もう嘘みたいにうれしくて! 脚本を読ませていただくと、矢口監督にしか撮れない世界だし、今これを撮りたいんだという力強さを感じて。これは断ったら、次いつ声が掛かるか分からないし(笑)、断る理由がなにもなかったんです。

──『裸足のピクニック』を観て、矢口作品のどこに惹かれたんですか?

なんだろう、なにが起こるか分からないところかな。あと、縛られていない感じがして。その自由さみたいなものが強烈で、うわ、すごいなと思った。その印象がとても強かったんですね。いつか映画でご一緒したいなと思っていたんですけど、だいたいそういうことを口にすると、叶わないことの方が多いので、今まで黙っていました(笑)。

──なるほど。今回、これまでの矢口監督の作品と比べると、かなり趣の異なりますよね。深津さんが脚本を読んで、監督が今撮りたいという思いが伝わってきたと同時に、その毛色の違う感じというのは、どういった印象を受けたんですか?

たぶん、これまで作ってきた作品とはまったく違うなにかを撮りたい、もしくは、まったく違うところに監督は行きたいのかなって感じました。

──これまでの、日常からどんどん離脱していく作風から、今回はむしろ逆に非日常からどうにか日常に戻ってこようとする。深津さんは天然の専業主婦を演じられたわけですが、どういう思いで撮影に挑まれたんですか?

これまでの矢口さんの作品を知っていると、今回の脚本も笑ってしまう場面の連続なんですけど、実際に撮影現場で撮っていると、そういう要素がどんどん無くなっていく。監督もそういう演出を意識的にされていて。たとえば、河原でお父さんが流されて、カツラだけが残って、親子で泣くというシーン。最初、脚本で読んだときはホントに笑ってしまって(笑)。

──過去の矢口作品では、明らかにギャグですよね。

矢口さんの世界観を知っていると笑っちゃうんですけど、実際、そのシーンの撮影になったら、全然おかしくないんです。お父さんの形見のカツラに触れて、なんともいえない感情になる。なんだこれ、とても高度なことをしてるなぁと思っていたら、監督も「このシーンは、観ている方にも同じように痛みを感じて欲しいんです」と。まさかそんな演出を矢口監督からされるとは思っていなかったので(笑)。今回は、そういうことがとても多かったですね。監督は字面だけではない、その先を目指していたと思います。

──フィクションなのか、ノンフィクションなのか。地球上から電気が消えるというとんでもない設定なんですが、少し角度を変えると見え方が変わってきます。

今回はオールロケーションで、ドキュメンタリーのような雰囲気で撮っていました。全部自然光で、お天気次第でテストもできないので、とにかく撮ろうということも多くて。それに戸惑うキャストの姿もそのまま映っていますし。だから、お芝居ということを考えてはいけないんだなと。演技をしてるということがちょっとでも出てくると、この本物の自然のなかでは、ものすごくいびつで、足を引っ張ることになるから、なるべく「演じない」ことを意識しました。

──あえて演じない、と。

そうですね。意識してるか、してないか、のところにいました。監督が目指しているところがとっても高いところにあった気がします。

──そのあたりって、監督とお話しされたりしたんですか。

いえ、あまり細かいことを監督はおっしゃらないんですよね。たまに、「あんまりお母さんぽくしないでください」とか、あと、セリフのテンポのことくらいですね。

「矢口監督の真髄に触れた気がする」(深津絵里)

──先ほど矢口監督はすごく高度なことを目指していたとおっしゃってましたが、深津さんにとって今回の映画はどういったものになりましたか?

演技というものがいったい何なのかをすごく考えさせられた作品になりました。豚を追いかけるシーンもそうなんですけど、豚を追いかけ回す演技って、何なんでしょうね?っていう(笑)。結局、演じることって、そこにあることに集中して、ホントにぶつからないとできないことなんだなと改めて感じたし、それを教えてくれる作品だったと思います。

──深津さんが2016年に出演された『永い言い訳』で、西川美和監督にお話をうかがう機会があったんですが、難しい役どころにもかかわらず、スッとそこにいる、役のまま自然にそこにいてくれるから何も言うことがなかった、というようなこととおっしゃっていたんですね。

いえいえ、どうなんでしょう?

──それは、作品によって撮影への入り方が違うのか、それとも、周りにはそういう風に見えるかもしれないけど、深津さんのなかでは全然違う心境で撮影に挑んでいるのか。そのどちらなんだろうと思いまして。

私はすごく不器用なので、(演技という)嘘なことをやってるんですけど(笑)、嘘が苦手というか。だから今回、オールロケというのはすごくありがたくって。なるべく、そこの空気をしっかり感じて演じることが、結果としてスクリーンににじみ出ると思うんですよね。全然お腹が空いてない状態で、すっごくお腹が空いたお芝居ができる人はいいんですけど、私はそれができないから、なるべくその状況に近づくしかないなと。

──今回、撮影に関係ないのにキャットフードを食べたとか。

それは私のただの好奇心です(笑)。全然食べる必要もなかったんですけど、息子役の泉澤祐希くんが本物のキャットフードを食べるシーンがあって、「私もちょっと食べたいな」と(笑)。ただ、この作品でなければそんな気にもならなかっただろうし。記念に食べてみました。

──今回は、自転車で高速道路を走ったり、雑草を食べたり、川で洗濯したりと、非日常的なシーンの連続でしたが、リアルに身を置くことでしか吸収できないもの、感じられないものが演技として出てくる、と。

絶対そうだと私は思ってるんですけどね。

──だからこそ演技となって出てきた表現とかも。

たぶん、どんどん弱っていく感じとか、実際にはメイクとかで汚したりしてますけど、ホントにみんなぐったりしていたし(笑)。あざとか切り傷とか毎日のようにできていたから、本物の傷も生かせたし。待ち時間も最初は用意してくださったイスにみんなで座っていたんですけど、しまいには、地面に座って待ってた(笑)。(クランク)インする前には想像していなかったことがいっぱいありましたね。

──そんな矢口監督の現場でしたが、またもう一度やりたいという思いは強まりましたか?

何十年越しの願いが叶ったばかりなので、すぐに次の作品というのは贅沢ですよね。監督が次にどんな世界を撮ろうとしているのか分からないですけど、私である意味があれば、ぜひご一緒したいです。でも、監督はすごくおだやかな顔をして、とってもユーモアのある作品を作っているんですけど、裏側の顔は死ぬほど怖いんです(笑)。

──あの、すごく柔らかい笑顔でかなり手厳しいと(笑)。

はい。でも、すごく楽しそうなんですよね。そういえば、河原のシーンの撮影で、待ち時間が結構長かったんですよね。私、ヒマだったので河原で面白い形の石を探していたんです。そしたら監督が来て、「深津さん、深津さん。梅干しあげます」って言うから、なんだろうって思ったら、色も形も梅干しにそっくりな石を監督がくださって(笑)。そのユーモア! 矢口監督の真髄にすごく触れた気がして。今回、監督との記憶のなかで、とても印象に残っています。

──いい話ですね(笑)。

いい話、ですかね(笑)。なんか、この石を持って帰らなければいけない、と思って。そのあとの撮影で、川に入るシーンがあったので、これをむげに川原に置いて帰ったら、良くない気がすると。ちゃんとおうちに持って帰りました。

──では、次にご一緒する機会が巡ってきたときに。

そうですね。再会できたときにお返しします(笑)。

(Lmaga.jp)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

関西最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(芸能)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス