山下智茂氏、早鞆・大越基監督対談【1】根っからの東北人…雪国独特の気質とは

 早鞆の大越基監督(45)が、プロ引退後に高校野球の指導者を目指した理由をデイリースポーツ評論家の山下智茂氏(71)=星稜総監督=に熱く語った。あえて技術論より人間形成に重きを置く姿勢は、元プロとしての理念でもある。また、プロアマの垣根が低くなったことで浮かび上がる課題にも言及した。

  ◇  ◇

 山下智茂氏(以下、山下)「今回は元プロの監督としていろいろお伺いしたいことがあり、取材に来ました。高校時代の恩師は一番印象に残っているものでしょう。(仙台育英時代の恩師)竹田利秋監督(元国学院大総監督)は名将だった。僕は甲子園では仙台育英と同じホテル芦屋が宿舎だったけど、竹田監督からは甲子園の戦術とかいろいろ教えてもらっていました。また、競争もした。マナーの競争です。どちらがあいさつやしつけがいいかと。今年は星稜勝ったなという年は、試合もベスト4とか8とか。でも、今年は竹田さんだねという年は、仙台育英が勝ち上がる。高校野球は、そういう部分があるのかなって、竹田さんから教えてもらった」

 大越基監督(以下、大越)「僕も山下先生の話は竹田先生からよく聞きました。同じ宿舎だったということもミーティングで聞きました。同じ雪国だということもある。だから、星稜と仙台育英で教わってきている野球は同じなんじゃないかと高校時代から思っていました。ダイエー時代には星稜出身の湯上谷(宏=後に竑志)さんや投手の村田(勝喜)さん、私の1つ下に村松(有人=元ソフトバンクコーチ)の3人がいました」

 -竹田監督とは考え方が似ていた。

 山下「高校野球に関しては同じだと思いましたね。高校野球はこうあるべきと。技術的なことはあまり教えなかったけど、教育の一環というところができて、初めて野球を教えてやるというところ」

 大越「それは感じますね。そういう話を教わっていない選手と聞いてきた選手とは違いますよね。自分も高校を出てから竹田先生に感謝しました。言われてきたことがこの年齢になって深くわかる。人の話は心で聞け、耳で聞くんじゃなく心で聞け。それをするともっといろいろと見えてくるとか」

 -それが野球にも通じる。

 大越「高校野球でつまった当たりが野手のいないところに落ちるのは普段の行いがいいからだとか言われていた。だから、いい当たりが野手の正面に行くと怒られるんじゃないかってびくびくした。つまった当たりがいいところにいくとよしっとか。いっぱい学びました」

 -大越監督の経歴は甲子園準優勝、早大中退、米マイナー、プロ野球、そして教員から高校の監督へと紆余曲折だったが、不屈の精神は高校時代に教わった?

 大越「今年の正月に竹田先生と何年ぶりかにお会いしたんですが、不思議なことに竹田先生の話していることが自分の脳と体の中に素直に入っていった。これにはびっくりして。親でも素直に耳に入ってこないことが竹田先生の言葉は素直に入ってくる。すごい方だなって。高校の時は(監督の厳しい指導に)負けてたまるか、絶対に負けねえぞって思っていたのに」

 -高校時代の恩師の指導は思春期だけに深く刻み込まれる。

 大越「卒業した後にもっと感じると思う。(自分の教え子が高校を)出た後に感謝の手紙とかもらうと涙が出てくる。その時は大越、このやろうと思っているだろうけど、出てから感じてくれる子は感じてくれる」

 山下「竹田さんは人格者ですね。あの頃の若い監督さんは尊敬していましたよね、すごく。また、全国的に雪国のチームに日本一になってほしいという風潮がすごくあった。僕たちもその中に入れてもらって、誰が日本一になるのかって競争していた。当時東北の国体に行った時、開会式に行かずに竹田監督のところに野球を見に行ったことがありました。マネジャーにオレの制服を着て(代わりに)開会式を歩けって言って。その子はうれしかったって言って、後に本当に監督になりましたが、僕は竹田監督に会いたかっただけ(笑)」

 大越「今の東北は強いですよ。雪国の何が何でもっていう昔の感覚はもうない。何でですかね?」

 山下「東北はマナーがいいから、甲子園のお客さんがファンになってくれて、力以上のものを出している。また、若い監督にいい指導者が出てきた。いい監督さんが4、5人いてライバルになって、みんなで優勝するぞっていうのがあるんじゃないかな」

 -昔は甲子園の組み合わせ抽選でも東北の高校と当たると喜ばれたと。

 大越「僕は根っからの東北人なんですが、東北って演歌でもそうだけど、寂しく暗いところってみんな思っている。それがすごい嫌で。喜ばれたって聞いただけで絶対に西のチーム、都会のチームには負けられないって、それがすごく強かった」

 -おとなしい人が多い?

 「今は東北の子も明るくなってきていますよ。(自分たちの頃は)寒かったんで通学でも言葉が出てこない(笑)。我慢強いです。でも、こちら(山口)の子は乗らせるとどこまででも登っていくくらいお祭り好き。東北の子は指導者の言うことをしっかり聞いてグッとついていく」

 山下「雪国独特だね。今は東北に関西の子がたくさん行っているから、逆転、逆転とかいう野球ができる。花巻東は東北のチーム、八戸学院光星は関西系と(ミックスされて)おもしろいね」(2に続く)

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