開催直前インタビュー・寺田千恵「岡山に勇気届ける」
2019年最初の女子ビッグレースとなる「GⅡ・第3回レディースオールスター」が3月5日から10日まで、岡山県の児島ボートで開催される。女子選手では初となるSG優出を経験し、20代、30代、40代と各年代で優勝を飾るなどずっと女子トップ選手として走り続ける寺田千恵(49)=岡山・65期・A1=が、地元でのビッグレースへの意気込み、さらには昨年水害に見舞われた地元・岡山への思いなどを直撃した。(聞き手・安藤浩貴)
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▽初日ドリーム戦選出「本当にうれしい」
―2019年最初となる女子のビッグレース、GⅡ・レディースオールスターが地元・児島で開催されます。
「児島での女子の大きな大会は初めて。ボート王国・岡山と言われてたから、本当はもっとやって欲しかったですね」
―地元での開催が決まった時は。
「地元の子がたくさん出た方がいいし、もちろん自分が選ばれるのもそう。地元の女子いっぱいで行きたいという気持ちでした」
―岡山支部からは7人が出場します。
「岡山は女子選手も多いし、大勢で行けてうれしいですね」
―その中で、寺田さんは9762票を集め、ファン投票6位で選出。初日のドリーム戦にも選ばれました。
「今、若い子の勢いがいいし、人気もあるし、ドリームは無理かなって思っていた。地元からは(守屋)美穂ちゃんがドリームに出ると思っていたから、2人はないかなって思ってた。これはもう本当に率直にうれしいです」
―最近は売り上げも伸びて、大人気の女子戦ですが、寺田さんはどう見ていますか。
「たくさんレースがあるし、若い子も頑張っている。レース内容も良くなってきて面白いと思う。たくさん売れて期待もかかって、自分たちのやりがいも増しているんじゃないかな。自分の想像以上に売り上げが伸びてうれしい誤算。こんなに売れるとは思ってなかった」
―寺田さんといえば女子で初めてSG優勝戦(2001年6月)に1号艇で乗りました。
「あれは30代前半で経験もなく、あれよあれよで乗ってしまって、ちょっと自分の中で浮ついた気持ちでしたね。一人だったので、気持ちを整理してくれる人もおらず、精神的にすごくつらかった」
▽“カッコイイ”レースしたい
―その経験を経て、ずっと長い間、女子のトップで活躍し続けているんですね。何か秘訣はあるんですか。
「昔からいいレース、“カッコイイ”と思えるレースをしたいという気持ちがあった。それをするには技術を磨くのはもちろんですが、エンジン出しも上手にできないと。体力的にも落ちてきているので、それをカバーするためにいろいろ考えています。今はそれがうまくいっているのが大きいです」
―昨年は意識的に出走レースを絞っていました。
「子供が受験。自分の体調もひと息。7月には災害(西日本豪雨)もあって、なかなか思うように走れなかった。特に子供にはたくさん我慢させてきたので、受験だけは一緒にいてやろうと思いました。その分、(出場したレースでは)最低でも優勝戦に乗るのを目標に気持ちを入れて走りました」
―その結果、昨年は14回の優出ができました。
「仕事が空いていると逆に集中できる。体力的にもそうだし、気持ちも一度リセットできる。すべてを整えられるし、それが結果につながったと思う」
▽災害で痛感した人の力
―ところで、昨年7月の西日本豪雨では、寺田さんのご自宅は大丈夫でしたか。
「当日の夜10時頃、親の家に、裏山のお墓が落ちてきたんです。それで旦那の弟の家に避難しました。朝になって家に行ってみると、土砂が崩れてましたね。それでも近所の人がすぐにパワーショベルを持ってきてくれて道を作ってくれたんで本当に助かりました」
―しかし、周りの被害はすごかったのでは。
「自分の家には影響がなかったし、電気も水道も来ていたので住むには問題はなかったです。それで、よそはどうなっているんだろうと同級生の家を周ったら、1階がダメになっているから台所が使えない。かわいそう過ぎるので、おかずを作って毎日届けました」
―さらにすぐ近くの真備(岡山県倉敷市真備町)の方は被害も甚大だったようですが。
「ボランティアのところに行ったら、すごいことになっていました。テレビで報道されている以外でも大変な状況。今までは、自分は物資を送るくらいで、ボランティアには参加したことはなかったんです。現地に行ってみて思ったことは、やっぱり人の力なんだな。逆に勇気をもらったりもしました。力って大事だなって考えさせられた1年でした」
▽児島でやって良かったと思われるように頑張りたい
―その中で行われる地元の女子ビッグレース。思うところもありますか。
「そうですね。地元を勇気づけられたらいいし、少しでも力になれればと思っています。もちろん岡山の誰かが優勝できたらそれが一番ですが、児島でレディースオールスターをやって良かったと思われるように頑張りたい」
―ところで、今回初めて後輩、弟子を持つことになった。
「120期の安井瑞紀の面倒を見ることになりました。自分だけで頑張れてもダメなので、安井ちゃんも頑張れる環境を作っていかないといけない。そういう部分でも、もう一度初心に帰って頑張っていこうかなと思っています。自分が辞めるまで安井ちゃんに教えることがいっぱいあるので、忙しくなるけどワクワクしてます。自分がやってる間にレディースチャンピオンに安井ちゃんと一緒に行くのが目標ですしね」
―これからの自分の目標は。
「自分は2年ぶりくらいに“オッ”と思うものがきた。今年はこれを煮詰めていきたい。成功するかしないかは分からないが、チャレンジするのにちょっと道が開けたかと思ってます」
―2月の住之江でも優勝したし、今年に入っても変わらず好調ですね。
「何かが当たればリズムまで良くなりますね。この調子でレディースオールスターも頑張ります」
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【プロフィール】 寺田千恵(てらだ・ちえ)1969年4月11日生まれ。49歳。福岡県出身。157センチ、46キロ。福岡県立若松高校卒業後、本栖研修所に入学。65期生として89年11月若松一般戦でデビューし、その節の5走目で初1着。94年12月の宮島女子リーグで初優勝。2001年、からつでのグラチャンでは女子初となるSG優出(5着)。レディースチャンピオン(女子王座決定戦)は07、10年と2回制覇。また年末のクイーンズクライマックスには唯一の7回連続出場中。通算優勝は65回。20代、30代、40代で満遍なく優勝を飾る。私生活では02年2月に同じボートレーサーの立間充宏と結婚し、福岡から岡山へと支部変更。妻であり母であり、女子トップレーサー。通算獲得賞金額は8億5322万8618円(2月27日現在)
歯に衣着せぬ言葉だからこそ―
【記者メモ】 記者が、いちボートファンだった20年前。GⅠはもちろん、SGでも活躍していた寺田。なんとなく雲の上の存在感が強く、これまで緊張してピット取材以外は会話ができなかった。それを話すと「あいさつくらいで全然話しかけてこないですものね。いつも取材の時、緊張してる感は伝わってましたよ」と笑っていた。
今回の取材は面と向き合って1対1でなんと2時間弱の長時間。選手生活のことはもちろん、昨年の水害のこと、家族の話、後輩の話。どれも彼女の人柄がにじみ出ていたし、歯に衣を着せぬ彼女の言葉だからなおさら重さを感じた。これが人にも好かれる理由なんだな。
取材の最後には「これからは緊張しないで、どんどん話しかけて来てくださいね」と女子担当冥利(みょうり)につきる言葉をかけてもらった。そして、盛り上げようと頑張る寺田を見て、児島のレディースオールスターが成功することを確信した。(ボート女子担当・安藤浩貴)
