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NHK朝ドラ撮影で、お茶をかけ合った“両親”

数々の映画やドラマで女優魂を発揮した左幸子さん
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 NHKの朝ドラ「北の家族」(1973年度)でヒロインをさせて頂いた時、私の母親役が左幸子さんでした。左さんは「飢餓海峡」「にっぽん昆虫記」といった日本映画史に残る傑作で迫真の演技を見せた大女優ですが、ある日、夫役(私の父親役)の下元勉さんと“バトル”を繰り広げたことがありました。

 下元さんは劇団民芸の出身でリアリズムを追求する役者さん。左さんは映画女優。「なぁに?お父さん」って振り返る時、自分の好きな横顔が映るように、わざと反対回りして、好きな顔の側を見せる芝居を器用にするところがありました。そういう演技に不満を募らせていたのが下元さんです。

 とうとう2人のケンカが勃発しました。NHKのスタジオ内の廊下、お茶を飲む場所で普通にお茶を飲んでいたのですが、左さんが下元さんに「おとうさん、どうして私の目を見て芝居してくれないの!?」。すると下元さんは腹に据えかねたものがあったのか「お前の目張りが気にくわねぇ!」と言っちゃったんです。普段からこぼしてました。「こんな田舎のお母さん役が、あんな厚化粧をしてるわけがない、きれいに化粧をしすぎだ!」と。

 左さんは芝居をよくしようと思って言ったのに化粧をけなされて、「何よ!」っと、コップのお茶をパッと下元さんめがけてかけました。下元さんも負けてはいません。またパッとお茶を左さんにかける。名優同士がスタジオの廊下で、お茶をかけ合う子供みたいなケンカになってしまいました。

 どんなに2人が仲が悪くても、視聴率は平均でほぼ46%、函館の小さな家族の話は好評でした。あの頃朝ドラの全盛期だったんですね。

 後年、あるパーティーで再会した左さんは「洋子ちゃんが小説家になるなんて!あなたよくやったわね」と褒めてくださいました。その時、私の隣にいた作家さんに左さんは「あなたの本読みましたよ」とうれしそうにタイトルを挙げると、「それは僕じゃありません」「えっ、そうかしら?」「はい、僕のじゃありません」と、つっけんどんなくらいにきっぱり否定されたんです。すると左さんはきまり悪くなったのか「失礼します」と、すごすごと会場を出て行かれました。あの時すぐに追いかけて「気にすることないですよ」と声をかければよかったと後悔してるんです。その後でした。左さんが亡くなられたのは(2001年11月)。

 左さんの女優魂エピソード、もうひとつ。「洋子ちゃん、セリフはね、本番前に全部忘れなさい。あれだけ稽古してるから大丈夫よ。セリフはお腹から自然に出てくるから」。その言葉が一番の宝物です。

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