29歳の天才クリエイターが世界を魅了する カンヌでも話題となった日本のアニメ「我々は宇宙人」
今年のカンヌ国際映画祭で最優秀女優賞を受賞した「急に具合が悪くなる」の裏で、ある日本映画が日本のジャーナリストの間で盛り上がっていた。それが29歳のクリエイター、門脇康平監督が5年の歳月をかけて完成させた手書き長編アニメーション「我々は宇宙人」(9月25日公開)だ。
同作は個性的な作品を選出する「監督週間」での上映となったが、上映後にはカンヌの子ども達からも声優を務めた坂東龍汰や岡山天音、門脇監督がサインを求められるほど、若い世代からも支持された作品だ。それはアニメーションだからではと問われそうだが、タッチはデッサン的というか「KAWAII」とは違うものであり背景もリアルと見間違うほど細やかで、雲や蛙、水たまりの動きも表現されているので、その職人気質な作風に舌を巻いたほどだ。その力でアニメーションの映画祭として世界最大と言われるアヌシー国際アニメーション映画祭のコンペティション部門にも入選した。
ただ画力はもちろんだが、心を掴まれたのはなにより子ども達の日常の行動や仕草の描写だ。ヘンテコな表情や会話を途中でやめて別の興味へと移っていく本物の子どもを映し出していたからだ。小学3年生から始まる2人の少年の物語は、無邪気で自由であることが尊敬される年頃から、協調性を学び始めることで「異質」へと変化してしまう残酷さも描かれている。子どもならではのほんの些細な出来事が亀裂を生み、周囲の言葉でその裂け目が広がっていく様子を小学校生活の中で丁寧に表現していく。それから中学生、高校生、社会人となり、最高だったはずの相棒とのわだかまりが薄れていく中で、果たして相手側はどう思っているのかを視点を変えて描くことで、人によって見えている世界が違うことにも観客は気付かされるのだ。純粋さは社会生活での圧力で濁りが生まれ、憎しみが歪みをもたらし人への攻撃へと変わる。これを2人の男性の人生として道路の分岐や階段の上下で彼らの位置まで表現した。
しかも声で感情を表現した俳優陣が子役から大人まで惚れ惚れするほど上手い。実はロトスコープという人間に実際に演じさせた映像をトレースする手法も用いたというが、声は別撮りだ。それなのにアニメーションと一体化した感情が溢れ出る俳優陣の声は、あまりにリアルで観客の心に直接訴えてくるものがある。特に岡山天音の圧倒的な声の存在感には心奪われ、あるセリフでは思わず涙が流れた。
更に興味深いのは、映画が自分達もしくは知り合いの物語と思えるほど身近に感じる点だ。その理由は門脇監督の幼少期に感じた思いや些細な出来事だが忘れられない記憶を綴ったものだからかもしれない。まさに全編エモーショナルなアニメーションであり、子どもから大人まで共鳴する心の痛みを綴った映画だった。この映画が日本の観客に受け入れられたら、きっと人気漫画のアニメ化が多い今の日本のアニメーション製作に変化をもたらすだろう。個人的にも楽しみでならない。
(映画コメンテイター・伊藤さとり)
