アントニオ猪木、坂本龍一ら「冥界の偉人」に贈る新刊 興行師の著者も死去「最後の力を振り絞って」出版

 ネス湖での未確認生物「ネッシー」の探索(1973年)、アントニオ猪木とモハメド・アリによる「格闘技世界一決定戦」やチンパンジーと人間の中間と称された「オリバー君」の来日(共に76年)などの仰天企画を仕掛け、昨年12月に老衰のため死去した興行師の康芳夫(享年87)による新刊「冥界へのメッセージ」(東京キララ社発行、税別2000円)が21日に出版された。冥界の偉人たちを論じた著者自身が刊行を待たずに「冥界の人」になったという本書の経緯や内容の一部を紹介する。(文中敬称略)

 関係者によると、2023年3月、康から「交流のあった人々について語りたいことがある」との希望を受け、本書の制作を開始。24年4月にかけて取材を重ねた。康が4月末以降、都内や群馬県高崎市の病院や施設に入ったため、スタッフは作業を続けながら、本人の元を訪ねて進捗状況を報告したという。

 編集担当者は当サイトの取材に対して「昨年8月時点で医師から余命の説明があり、覚悟をしていたため、訃報による編集方針の変更はなしということで進行しました。今年2月10日に都内で開催された『康芳夫を偲ぶ会』の委員会メンバーも元々は刊行記念パーティー兼生前葬企画のために集まっており、康さんの容態が少しでもよければ、無理にでも連れ出す相談をしながら、なんとか間に合わせるべく進めていました」と明かし、「最後の力を振り絞って本書に取り組まれた康さんの姿勢には胸が熱くなります」と感慨を込めた。

 そうした経緯を経て世に出た新刊。テレビ制作会社のADとしてオリバー君の世話役となり、常識破りの番組作りを体得したテリー伊藤は序文で「康さんの考えていることはいつも怪しかった。どこか見世物小屋的な雰囲気が漂う。しかしそこには壮大なロマンがあるのだ」と恩師の世界観を記した。

 続いて映画監督・足立正生との対談を掲載。85歳にして新作映画「逃走」が今年3月に公開される足立と同世代の康との間で戦後の文化状況が語られる。若松孝二、大島渚、赤塚不二夫、タモリ、横尾忠則、デヴィ夫人ら著名人の名が縦横無尽に交錯し、ウクライナ戦争をはじめとする現在の国際情勢にまで話が及ぶ。

 そして、「冥界」の偉人たちとの記憶をひもときながら、人物評が展開される。興行の世界での恩師である神彰、ネス湖探検隊の隊長となった盟友の石原慎太郎、アリと戦った猪木ら仕事で深く関わった人物、勝新太郎、力道山、三島由紀夫といった時代を体現したカリスマ、立花隆、瀬戸内寂聴、坂本龍一ら近年に亡くなり、その存在がまだ身近に感じられる文化人たちを語る。また、思想の左右を超えたリベラルな政治活動家で文筆家の鈴木邦男らとの座談会も収録されている。

 この顔ぶれの中、記者が興味を持ったのは康と坂本の接点だった。建築家・磯崎新を通じて坂本と交流したという康は、その父で昭和の伝説的な名編集者・坂本一亀にも言及する。三島をはじめ、多くの有名作家を世に出した“編集の鬼”に、世界的な音楽家となった長男・龍一と作家・大江健三郎をめぐる“あるエピソード”を重ねる。「相手が誰であろうと、何が起ころうと、容赦しないという点」に共通点を見いだし、「親子の血」という視点から「坂本父子」を論じている。

 巻末には貴重な写真を多数収録した「写真館」が訃報を受けて付け加えられた。本書はこの出版を「最後の仕事」として取り組んだ康自身の足跡をたどる“墓標”だ。喪主を務めた長男の永本誠は父の素顔を後書きで描き、「昭和の時代に日本を勇気づけ、面白くさせた破天荒な人間がいた」と結んだ。

 発行者である東京キララ社代表の中村保夫は「発売を前に冥界側へと旅立ってしまった康さんに完成した本をお見せできなかったのは残念ですが、『偲ぶ会』で最愛の奥様から康さんへの『冥界への手紙』が読まれた時に『ここまでのストーリーを含めて康さん最期の興行だったんだな』と妙に腑に落ちました」と振り返り、「『昭和の怪人』と呼ばれた稀代の興行師である康さんは本書で『若い世代に山師がいなくなった』と嘆いていますが、その真意にある『金を稼ぐだけじゃなく、夢とロマンを求めろ』というメッセージを受け取っていただきたいと思います」と呼び掛けた。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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