寛美先生とニーナ、二人の偉大な師を悼む

 「マロン、また出てよ!」

 私はいま、藤山寛美先生の二十七回忌追善公演に出演のため、大阪にいます。

 ひと月だけの共演でしたが、寛美先生は私にとって紛れもなく人生の師。舞台も人間も、とても大きな方でした。特別公演に呼んでくださり、畏れ多くも私が書き出しで先生がトメ。いまでもその番附を大切にしています。

 十八番の『桂春団治』での夫婦役でしたが、目の前にいるのは藤山寛美ではなく、桂春団治!?と驚きました。役になりきることを超越して、“役そのもの”として舞台上で生きていた先生。ご一緒させていただくと、関西弁の苦手な私がまるで上手になったのかと錯覚してしまう。寛美先生という人は、共演者はもちろん、そこにいるすべての人をも包み込んでしまう魔物のような存在、偉大な方でした。

 そんなことを思い出していたところへ、ニーナの訃報が届きました。大好きな蜷川幸雄さん。たった一度きりのご縁でしたが、「マロン」「ニーナ」と呼び合う仲で、密度の濃い幸せな時を過ごしました。

 蜷川さんといえば、稽古場で灰皿を投げたり、怒鳴る姿が有名ですよね…でも私、怒鳴られることが好きじゃありません(笑)。だから、『エレクトラ』というギリシャ悲劇に呼ばれたとき、お稽古に入る前に約束をしたんです。怒らないでください、と。

 ある日、私の台詞のところでニーナがバンッ!と台本を机に置いたんです。私はすぐ稽古場を出ました。するとニーナが稽古場の扉から顔を出して「ごめんね、マロン。僕が出るから稽古場入って」と。優しいジェントルマン。でも翌日スタッフと、マロンを怒らせないための早朝会議をしたんですって…。なんて我儘な女優なんでしょう(笑)。本当にご苦労をお掛けしました。

 「マロンの眠っている才能をシャベルで掘ってあげたい!」と仰ってくださったニーナ…、私もまたご一緒したかった。心よりお悔やみ申し上げます。

 偉大な師に恥じぬよう、私は与えられた役の人生を生きます!

 来月は東京に戻って三越劇場です。波乃久里子でございました。

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