父見せた、奈保子さんとのツーショット

 先日、高校の同級生たちと浅草へ行った。レトロな街中を歩いていると老舗ブロマイド屋にたどり着いた。誰とはなく「高校時代、アイドル歌手は誰のファンだった?」の問いに皆の口々からは懐かしのアイドルの名前があがる。「伸ちゃんは誰が好きだった?」すでに50歳を超えた同級生たちは昭和の顔に戻っていた。

 俺は15歳の頃を思い出していた。高校1年の初夏。俺は一人で部屋にこもり、机で月刊明星のグラビアを楽しんでいた。「うわ~っ!河合奈保子ちゃんてかわいいな。こんな美人がガールフレンドだったらうれしいな」などと心でつぶやいていた。

 70年代終わりの高校生なんてこんなもんで、純情極まりなかったのだ。河合奈保子さんの健康的な水着写真で猛烈に喜んでいると…後ろに気配を感じた。とても大きな気配だ。恐る恐る振り向くと、大きな気配の主がひょうひょうと立っていた。「あっ、親父!」親父は俺の明星を取り上げると、いとしの河合奈保子様の水着グラビアをガン見する。恥ずかしさに気後れする俺。「河合奈保子…お前、この子のファンか?」照れた俺は、「違うよ!」と強がるが、親父は「まぁ良いから、良いから。えっと所属事務所は…」とグラビアの巻末を見ている。「じゃあな。」と親父は俺の部屋を後にする。

 数日後のことだった。家に来客があった。お袋が対応していたが、どうやら来客は俺に用事があって来たらしい。お袋が部屋に来る。「伸一、河合奈保子さんの事務所の方とレコード会社の方がお見えよ。」俺は口に出して「びっくりしたなぁもう!」と叫んだ。

 まさか、親父、何したんだ?来客に会う。たくさんの河合奈保子さんのグッズとレコードが私への土産だった。「坊ちゃん、河合奈保子を応援してくれているそうで。これからもお父様によろしくお伝えください」その日の夜、親父の番組に河合奈保子さんがゲストで出ていた。ツーショット姿をテレビの向こうの俺に見せつける。困った親父だ。オツカレ!

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