阿部寛 SNS使わない理由「演技で見せればいいなって」役者魂と意外な素顔 映画「俺ではない炎上」主演
SNSの炎上が一人の男の日常を焼き尽くす。現代の悪夢をスリリングに描いた映画「俺ではない炎上」(公開中)に主演している俳優の阿部寛(61)が、このほどデイリースポーツの単独インタビューに応じた。「今の社会を表しているな」と作品に共感を寄せる一方、自身はSNSとは一線を画した活動を広げている。その理由を深掘りしていくと、トップ俳優として輝き続ける阿部の俳優哲学にたどり着いた。
今日も“ネット界隈”のどこかで誰かが炎上中。今作では主人公がそんなネットに追い詰められていく様が描かれている。阿部は台本に対し「今の社会を表しているというか、こうやって人間が追い込まれていく、こういうものと戦っていかなきゃいけない時代なんだなって思って」との感想を抱き、「こうした作品が今後増えていくんだろうなと思いました」と作品の現代性を語った。
明日は自分事と思えるが、阿部はSNSを使わない。「俳優だから、演技で見せればいいなって思ってるところがあって」。にじむのは実直な役者魂と、テクノロジーと向き合う距離感、意外な素顔。SNSを使わない理由は極めてシンプルだ。「あんまり俳優って、いろんなものに出て…。私生活とか分からない方がいいなっていうのを昔から思っていて。逆に見えすぎちゃうと『あの人がやってる』ってなってっちゃうから」。
素顔が役柄を侵食し、作品への没入を妨げる。「(SNSで私生活を明かすと、作品上でも)そのタレントさんがやってるっていう風に僕には見えた。その人がせりふを言っているって見えちゃうから。そうじゃない風にできるだけありたいなと思った」。
役柄で見てほしい。その純粋な願いがSNSから距離を置く。それはシンプルな公式サイトにも通底する哲学だ。今日も、接続した通信速度の環境に左右されずに「阿部寛のホームページ」は爆速で開示される。自身も気に入っているというHPの刷新については「(SNSをやらないのと)考えは一緒ですよね。特にいいかなって」という言葉が渋く響く。
一方で、私生活では最新テクノロジーの活用も否定しない。チャットGPTなどは多くの場面で利用。俳優業のヒントというより、日常生活の助けとして使用しているという。
考えの背景には歩んできた道のりがある。今でこそ揺るぎない地位を築いたが、道は決して平坦ではなかった。モデルから俳優に転身した20代は「俳優としてそれほど期待されてなかった」と振り返る。「モデルから出てきたんで、かっこいい役ばっかりで。なんかイケメンみたいな役ばかりあった」。与えられるのはセリフもほとんどなく、ただそこにたたずむだけの役。「学校の校門でフェラーリに乗り付けて待ってるみたいな…。なんか内面関係ねえなみたいな、そういうのが最初多かった」と話す。
飛躍への背中を押したのは、期待される役とは180度違う悪役でありコメディーだった。「こういうのもできるとやったりとかして、ようやくなんか少し見てもらえたなって思えた」。
1994年、主演映画「凶銃ルガーP08」で、もがきが初めて形になる。小規模の作品だったが、俳優人生を変える一作となった。「その時にいろんな習い事、アクションとか習ってたんで、それで評価されたのはすごくうれしかった。これはやっぱり演技で勝ち取ったんだなっていう風に思えた。そこからですね、変わっていったのは」。
苦悩を経て身につけたシリアスな役柄で見る者を震わせる一方、大真面目な顔で緊張から笑いへと誘う唯一無二のコメディー感のある演技は真骨頂だ。「真顔でやればやるほど、その役に徹して、状況がおかしければ真剣にやってても笑える」。過度に狙わないが、その人物として、その状況を必死に生きる。
「コメディーってやっぱり人に受け入れられるっていうのが圧倒的に強い。人って笑うことに対してはやっぱり親近感持つじゃないですか」。笑いが緊張と緩和のギャップを生み、視聴した人との心の距離を縮める力を知っている。
俳優としてSNSとの距離感は保ちつつ、実生活では便利なものは柔軟に取り入れる絶妙なバランス感覚こそ、阿部が時代のトップを走り続ける理由なのかもしれない。「いろんな役をやりたいから。自分を決めたくない」という言葉に、無限の可能性を感じた。
◇阿部寛(あべ・ひろし)1964年6月22日生まれ、神奈川県出身。中央大学理工学部電気工学科卒。在学中にモデルデビュー。雑誌「メンズノンノ」では創刊以来3年6カ月にわたり表紙を飾る。卒業と同時に「はいからさんが通る」で映画デビュー。ドラマ「TRICK」シリーズ、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した映画「テルマエ・ロマエ」、舞台「熱海殺人事件」など代表作多数。身長189センチ。
