女優の奈緒（２７）が、日本テレビ系の主演ドラマ「ファーストペンギン！」（水曜、後１０・００）で、未知なる世界に挑む主人公役を好演している。ファーストペンギンとは、危険な海に先陣を切って飛び込む１羽目のことで、ハイリスクに挑むベンチャー精神の持ち主を指す。奈緒もデビューからの道のりをひもとくと、安心安定を捨て、芸能界という大海原に飛び込んだその一人。思い切りのある決断で芸能界を生き抜いてきた奈緒が“決断論”を説いた。

　コミカルから狂気までを演じ分け、若手バイプレーヤーとして名を上げた奈緒。民放ゴールデン／プライム帯（午後７～１１時）の連続ドラマ初主演となる本作は、漁業に関する知識ゼロの主人公・和佳（奈緒）が、経営難に直面する浜を立て直す物語だ。

　奈緒らしい気迫がこもるド迫力の演技は、第１話から光った。古い慣習にとらわれ、挑戦を尻込みする漁師たちにたんかを切る３分ほどのシーン。眉毛をつり上げ、鬼の形相でまくし立てる演技は「しびれました」「ほれぼれしてしまう」「たまげたわ～」と、“活きの良さ”にＳＮＳが沸いた。

　奈緒はこの主人公に似ている。「和佳は自分の思いを吐き出したけど、どういう人なのかと考えた時に、いろんな言葉をのみ込んできた人だと思う。私ならあの時だなと考える瞬間がある」

　仲間のために先陣を切るファーストペンギン。自身は「先導するタイプじゃない」と語るが、現場で周囲を気遣う姿からは“仲間のために”というファーストペンギンらしさを感じる。「主人公も私もパワーの源は自分以外。守りたい仲間がいるから、作品に思い切り飛び込めるんです」。作品を共にする仲間が、奈緒を突き動かす原動力だ。

　危険な海に飛び込むというペンギンの決断があるように、人生は決断の連続だ。奈緒の人生最大の決断は２０歳の時。地元・福岡でモデルをしていたが、映像への憧れから母親の反対を押し切って上京した。

　士気高揚で乗り込むも、すぐ芽が出るわけもない。「誰にも求められず、自分を完全に見失った。やりたい人が多い仕事の中で『自分の個性って何だろう』と分からなくなっていた。自分で言い訳をして、限界を決めて、自分にストッパーをかけて守っている部分があった」。どん底を経験し、前に進む勇気を失っていた。

　落ち込む自分を救ったのは“原点”だった。「仕事がない時に何をしていたかというと、家でずっとＤＶＤを見るか、本を読むかだったんですよ。私は『求められてない』とこの仕事でへこみながら、エンターテインメントに救われていた」

　その後、脚本家・野島伸司氏が総合監修する俳優養成所「ポーラスター東京アカデミー」の門をたたいた。入所の決断は「一番意識が変わった」というターニングポイント。「自分の弱いところと向き合うことができて、そんな自分でも愛せるようになった」と前向きな自分を取り戻した。

　決断する時に「自分自身で責任が持てるかということが大きな基準」と揺るがぬポリシーを持つ。「ずっと母が反対していたので、このお仕事を『やる』『やらない』というのも大きな決断だった。でも『やらない』と決断をして、やっぱりこの仕事したかったなと思った時、私は人のせいにしちゃうかもなと思った。これで失敗しても『やると決めたんだから』と潔く思える」

　小さな決断から大きな決断まで自分で責任を持ち、芸能界で生きる毎日は「常に楽しいと感じられている自分がいる」と充実感に満ちあふれている。

　のほほんとしたイメージで安定志向と思いきや「和佳と同じで危ない橋を渡ることが多い」という。５年前の釜山国際映画祭に出演作が出展されており、単独訪韓した。「どうしても中に入りたい」と欲に駆られたが、服は「パジャマみたいな格好」で化粧品も持ち合わせておらず、デパートに直行。「化粧品と服を買った。お母さんに『今からクレジットカードを使います。いくらになるか分かりません。でも必ずこの経験を自分のものにして将来返すので、使わせてください』とお願いした」。予想外の決断で家族をも驚かす。

　結果、レッドカーペットを歩けたという。「名刺も配ったけど、次のお仕事につながったわけじゃない。けど誰も私を知らないのに、キラキラした笑顔でこちらを見てくれた人がいた。作品を愛する気持ちでこんなに笑顔になれるじゃんと思った。あの時の決断が自分をずっと応援してくれる思い出を作ってくれた」

　新たなターニングポイントを経験し、現在と立ち向かう奈緒は「新しいことに挑戦し続けたい。一期一会でタイミングが来た時、ちゅうちょせず決断して飛び込みたい」と宣言。思い切った決断で、荒波が待ち受けるであろう未来を自ら切り開いていく。

　◇奈緒（なお）１９９５年２月１０日生まれ、福岡出身。地元でスカウトされ、福岡に拠点を置くモデル事務所に所属。２０歳で上京し、ポーラスター東京アカデミーに特待生として入所。１３年、「めんたいぴりり」で女優デビュー。１８年、ＮＨＫ連続テレビ小説「半分、青い。」のヒロインの親友役で注目を集める。１９年、日本テレビ系「あなたの番です」で謎めいた隣人役を怪演、話題になった。趣味はカレー店巡り。特技は手話。