岸恵子さん死去 93歳、老衰で 「君の名は」「おとうと」「雪国」戦後を代表する映画大女優 エッセイスト、ジャーナリストとしても多才な活躍

デイリースポーツのインタビューを受ける岸恵子さん=2003年3月
日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞を受賞する岸惠子さん=02年3月
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 戦後を代表する国際派の映画スターで、エッセイストやジャーナリストとしても多才な活躍を見せた俳優の岸恵子(きし・けいこ)さんが7日、老衰のため横浜市の自宅で死去していたことを19日、所属事務所が発表した。93歳。横浜市出身。葬儀は故人の遺志により近親者で行った。喪主は長女麻衣子(まいこ)さん。お別れの会は予定していない。岸さんの訃報を受けて、吉永小百合(81)らゆかりの俳優や映画監督の山田洋次氏(94)らが、唯一無二の偉大な足跡をしのんだ。

 所属事務所によれば、近親者が岸さんの最期をみとり、麻衣子さんはパリにいたためみとることができなかった。岸さんは病気はしておらず、入院もしていなかったという。自宅で暮らし、最近は執筆に専念していた。

 文筆業としての最後の仕事は、今年5月に文庫化された「91歳5か月 いま想うあの人 あのこと」(幻冬舎)のあとがきだった。事務所の担当者は「結果的にこれが最後となったが、まだ書くつもりだったと思います」と、岸さんがなお執筆に意欲を燃やしていたことを明かした。

 岸さんは1932年8月11日、三代のハマっ子として誕生。45年の横浜空襲を生き延び、生涯反戦を貫いている。50年、松竹大船撮影所の研究生となり51年、映画「我が家は楽し」でデビューした。ヒロイン真知子を演じた53年の「君の名は」のすれ違い劇が女性客の紅涙を絞り、国民的スターに。岸さんのストールの巻き方は「真知子巻き」として大流行した。

 54年に有馬稲子、久我美子と日本初の女優の独立プロ「にんじんくらぶ」を設立。60年の「おとうと」からは市川崑監督に重用された。他にも「雪国」、「怪談」、「女の園」、「早春」など映画史に残る作品への出演は枚挙にいとまがなく、ブルーリボン賞主演女優賞、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞などを受賞。テレビドラマでも山田太一さん脚本の「沿線地図」や「夕暮れて」に主演するなど、日本を代表する俳優となった。

 国際的にも注目され、55年にはデヴィッド・リーン監督の映画「風は知らない」のヒロインに抜てきされたが、製作者の死で中止に。ジャン・マレー、ダニエル・ダリューと共演した日仏合作映画「忘れえぬ慕情」(56年)がきっかけで57年にイブ・シャンピ監督と結婚(75年に離婚)し、仲人は川端康成が務めた。63年に一人娘の麻衣子さんをもうけている。

 パリに居を構え、ジャン・コクトー作・演出の舞台「影絵-濡れ衣の妻」や、高倉健さんとロバート・ミッチャムが主演した米映画「ザ・ヤクザ」などに出演した。

 文筆家としても「ベラルーシの林檎」で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞し、エッセイ「巴里(パリ)の空はあかね雲」、小説「わりなき恋」など著書多数。イランやアフリカのルポ執筆、パリのNHK衛星放送初代キャスター就任などジャーナリストとしても活躍した。

 2022年の取材会では「死は子供の頃から意識していて、どうってことはない」、トークショーでは「これから2冊書いてさっさと死にたい。100歳なんてとんでもない」と語っていた岸さん。日本の映画や女性を巡る因習を鮮やかに解体し、旅立っていった。

◇岸恵子さんが遺してきた数々の語録

 ◆53年8月4日 「映画に入るよりほか生きる道を考えませんでした」(本紙で「景子と雪枝」原作者の貴司山治に)

 ◆55年6月23日 「大変な幸運をめちゃめちゃにしないように自分自身にムチ打つつもりでおります」(デヴィッド・リーン監督の映画「風は知らない」のヒロインに選ばれて)

 ◆56年3月9日 「(ジャン・)マレーさんと共演する『東京のフランス人』では、私も生涯誇りに思う演技を残したいものだと心ひそかに誓ったものです」(本紙に寄せた「パリだより」から。映画は「忘れえぬ慕情」と改題)

 ◆56年12月28日 「モヤモヤとお互いに愛するようになったので(婚約の)日は覚えていません。(シャンピ監督は)神経のピリピリとした方です。日本をどの人よりも愛している人だと思います。フランスで会って、フランスしか知らないシャンピさんだったらきっと結婚しなかったかもしれません」(結婚発表の記者会見で)

 ◆58年9月25日 「パリに帰れば女優でなく買い物かごを手にした一主婦なんですからね」(1年半ぶりに里帰りして)

 ◆75年1月20日 「原因は一口には言えない。二人でこれからの生き方をじっくり話し合い、別々の将来を歩もうという決心をした」(離婚を発表)

 ◆03年10月18日 「いつかはカメラの後ろ側にいって映画を撮りたいっていうのが私の夢です」(トークショーで)

 ◆14年3月27日 「パリ帰りの何とか役はうんざり。ちょっとバカみたいな女をやりたい。泥棒とか、万引とか人殺しは平気。権力にこびるとかはできない」、「シミもしわも白髪も売るほどあります」(トークショーで)

 ◆17年8月9日 「ちゃんと年を取ってて、頭もボケてるんですけど、他人に対してより、自分に対する見えとハッタリで生きてるんです。老けて見えないのは、苦労が多いから。さまざまな事件に対処してきた日々が続いてきたんで、普通のおばあさんみたいに、優しくていい年寄りになれないんですよ」(トークショーで)

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