【ヤマヒロのぴかッと金曜日】かつての仲間と…脱弱腰!オールドメディアの“新しい選挙報道”
やっとこんな話もできるようになったのだが、2013年に関西テレビを退社するとき、私は引き続きキャスターの仕事を続ける契約を交わしていた。実際、半年間は外部キャスターとして夕方のニュース番組『スーパーニュースアンカー』に出続けていたのだが、他局の人気討論番組のMCとして出演したことが当時のカンテレ上層部の逆鱗(げきりん)に触れ、その契約を打ち切られてしまったのだ。以降、カンテレのバラエティーや情報番組には出ても、報道部との直接の関係は途切れたままだった。
先月末のこと。キャスター時代、共に仕事をした後輩から突然電話があった。「選挙特番をやるんですよ。開票日ではなく、その一週間前にです。コメンテーターとして出てください!」。
公示期間中の選挙報道については、これまで公平・中立の立場を重視するあまり各社とも神経をとがらせてきた。日々のニュースで取り扱っても選挙区ごとの候補者紹介の域を出ず、VTRもほぼ同じ秒数に収める。いわゆる“量的公平”と言うやつだ。無論、放送してはいけない理由など何もない。
ただ、何か否定的な意見でも言おうものなら、すぐに政党側から偏向報道だとクレームが付く。それを恐れるあまり「公平・中立」を隠れみのにしてきたのだ。関西テレビに勤務していた28年間のうちの15年キャスターを務めた私も含め、ひと言で言って弱腰だったのだ。
最近はオールドメディアだのマスゴミだの、散々好き勝手なことを言われ、日々、真面目に取材を続ける現役の報道マンたちはじくじたる思いでいただろう。そして彼らは恐れることなく、そしてこれまでの慣例にとらわれることなく、新しい選挙報道をしようとの結論に至った。有権者にとって本当に必要な情報を、選挙期間中だからこそ伝えるべきではないか、と。
「ヤマヒロさんもラジオやデイリースポーツのコラムでおっしゃってますよね。久しぶりに一緒にやりませんか?」。後輩の力強い口調に、こりゃ私だけ逃げるわけにはいかんなと引き受けることにしたのだ。
本番当日、打ち合わせのため報道フロアに足を踏み入れる。懐かしい面々、顔も知らない若い記者たち、大勢の関係者が出迎えてくれた。フロアの中央には情報の全てが集まる大きな机がある。通称“丸テーブル”。当時の私の居場所である。古参のデスクがキャスター席に座るよう勧めてくれた。
少し戸惑いながらも12年ぶりに腰かけたその瞬間、皆が笑顔で大きな拍手を送ってくれたのだ。その時「恩讐の彼方に」ではないが、肩に乗っかった余分な力がスーッと引いていくような気がした。感慨深かった。キャスターを辞めた時の事情を知る後輩たちも、私の報道に対する気持ちだけは認めてくれていたのか…。
私情はともかく、肝心の報道特番は初めての試みにしてはうまくいったのではないか。各党の政策や主張への疑問やファクトチェックなど、具体的で分かりやすい番組だった。過去の事例にとらわれず、時代に即した伝え方をしたいとの愚直な思いを真正面から視聴者にぶつけた後輩たちを誇りに思う。
こんな熱のこもった番組制作のためならいつでも協力したい。(元関西テレビアナウンサー)
◆山本浩之(やまもと・ひろゆき)1962年3月16日生まれ。大阪府出身。龍谷大学法学部卒業後、関西テレビにアナウンサーとして入社。スポーツ、情報、報道番組など幅広く活躍するが、2013年に退社。その後はフリーとなり、24年4月からMBSラジオで「ヤマヒロのぴかッとモーニング」(月~金曜日・8~10時)などを担当する。趣味は家庭菜園、ギターなど。
