【ヤマヒロのぴかッと金曜日】フジテレビ問題 当事者の声なくして再生・改革はあるのか?
私が40年以上関わってきた放送業界が今、大きな岐路に立っている。大物タレントにおもねることで一人の女性を苦しみのどん底に陥れ、自社の保身のため対応を誤った一連のフジテレビ問題は、ご承知の通り会社の屋台骨をも揺るがしかねない事態に陥った。
第三者委員会の調査結果が出され、株主総会を経て新体制のもと船出したフジは、今月5日この問題の検証番組を放送した。1月と4月に当コラムで意見を述べた以上、私も強い関心を持ち視聴したのだが、正直言って身内に甘い体質を残す印象は拭えなかった。
「何かお役に立てることがあれば」と、問題が起きた後も中居正広氏にすり寄った元編成幹部は当時をどう振り返るのか。顔出しまでは要求しない。せめて自分の言葉で話すべきだった。特定の力のあるタレントに取り入り、共に結果を出すことで社内の高評価を得て出世する。そのためには手段を選ばなかったのか?それとも彼も同じやり方をしていた者をまねたのか?本人に何か言いたいことはないのか?とにかく一番近くにいた人物をスルーしたのは残念だ。
また、この問題がきっかけで過去のセクハラ・パワハラがあぶり出され、当時その責任を免れたキャスターの反町理氏およびこの問題の対応について第三者委に断罪された岸本元専務。報道出身でもある岸本氏は検証番組の取材を拒否したという。論外である。それぞれの問題の当事者であるはずの彼らが何を語るか、そこが聞きたかった。全てをカメラの前で総括すべきだ。それらをすっ飛ばして「いま私たちは、再生に向けてさまざまな取り組みを行っています」と声高に言ったところで何も響かない。
そして、日枝久氏。辞任を進言した遠藤龍之介元副会長に「辞めない。おまえは戦わずしてやめるのか」と言い放った真意は何か。彼は何と戦うつもりだったのか。取材に当たった記者たちも知りたかったであろう。他のニュースならどこまでも中心人物を追いかけてきたではないか。
はじめから日枝氏を取材しなかったのならフジの報道力が問われる。社としてストップをかけたのなら、全く体質が変わってないと言わざるをえない。あるまじき素行の一端が白日の下にさらされ、再生の道を歩み始めたフジテレビだが、検証番組では自らの手でうみを出し切ることはできなかった。
ハラスメントに関する事案についてはフジ以外の放送局でも、過去に問題のある行為はなかったか既にアンケートを始めていると聞く。たしかに決してフジに限った話ではないだろう。
業界全体に厳しい目が注がれるなか、いま腰を据えて取り組まねばならないことは幾つもある。
ハラスメントの一掃は当然のこと。さらに、どんなタレントをも特別扱いはしない。わがままを言う輩は追い出せばいいのだ。そして報道機関として、真実をどう伝えていくのか。今まさに選挙真っただ中、公正・公平の真の意味を問いつつ堂々と放送し続けることで視聴者からの信頼を勝ち取ってほしい。(元関西テレビアナウンサー)
◆山本 浩之(やまもと・ひろゆき)1962年3月16日生まれ。大阪府出身。龍谷大学法学部卒業後、関西テレビにアナウンサーとして入社。スポーツ、情報、報道番組など幅広く活躍するが、2013年に退社。その後はフリーとなり、24年4月からMBSラジオで「ヤマヒロのぴかッとモーニング」(月~金曜日・8~10時)などを担当する。趣味は家庭菜園、ギターなど。
