シンガー・ソングライター南佳孝 75歳の活力の源とは? 「歌って喜んでくれる人がいるって、こんなハッピーなことはない」
シンガー・ソングライターの南佳孝(75)が、ニューアルバム「愛した数だけ」を今月7日にリリースした。新曲5曲とセルフカバー7曲を、松本圭司(ピアノ)の洗練されたアレンジで聴かせる大人のアルバムだ。世界的なブームが続く日本のシティポップのレジェンドが、新作への思いや音楽仲間の思い出、後期高齢者となった心境などを語った。
きっかけは、松本とのライブのためのアルバム制作という着想だった。
近年のライブは気付かないうちに選曲が固まっており、ファンに「いつも同じような曲」と指摘されたという。そのため、ここ2~3年は「人にあげたんだけど(自分では)取り上げなかった曲、歌っていなかった自分の曲を拾い上げながら」ライブを行ってきた。
そのような従来の定番ではない楽曲を選び、書きためていた新曲も織り込んで「愛した数だけ」はできあがった。
新曲の歌詞には亡き友を歌う「MISS YOU」やパリ在住の娘を歌う「FAMILY TREE」など、75年を生きて来たからこその思いがにじむ。セルフカバー曲でも恋や友情、思い出が歌われている。南は「後期高齢者ですからね」と笑い、こう解説した。
「『MISS YOU with 杉山清貴』は、男2人の友情もいいんじゃないかなあと思ってやりました。70も超えると、友だちが先に逝っちゃうとかがある。
『愛した数だけ』も、男の友情もあるし恋愛もあるし、その時は血湧き肉躍るで、むちゃくちゃ楽しかったなあっていう。そういう心的時間を一番思い出すもんね。
『FAMILY TREE』は、こういったオヤジって意外といるんじゃないかな。だから意外と無理ないというか、肩肘張らずに感じたまんまを曲にできたかなあ」
セルフカバーした「クレッセント・ナイト」(80年)や「早くあいつに逢いたい」(78年)のオリジナル録音には、坂本龍一さんが演奏や編曲で参加している。
「(『早く-』では)まだアブっていうあだ名で汚いかっこうをしてる時に、むちゃくちゃいいストリングスのアレンジをしたんですよ。そんなのも思い出しながら今回レコーディングやってましたね」
当時の坂本さんは「乱暴者の一面あり、アナキスト的な一面あり、哲学者みたいなところあり、教授って言われてるぐらいに理路整然と説明するところもあり、音楽的には天才的なところがある。不思議なやつだよね。最初に会った時は対バンのピアニストで、それこそ全学連というかさあ。長髪で何日同じ服着てんだみたいな」。坂本さんの思い出を語った南は「あの頃は面白かったね。あ、昔を懐かしんじゃいけない」と苦笑した。
南は1月で75歳になった。「体も踏ん張りがきかなくなってんだなあ」と率直に明かしつつも、3月に杉山清貴とのコンビに旧知の名ギタリスト・鈴木茂(元はっぴいえんど)が加わった新トリオでライブを行うなど精力的だ。新トリオには「(毎年)3月ごろに(ライブを)3~4本やろうかと画策しています。あわよくば新曲を出して、アルバムなんか作れたら楽しいでしょうね」と手応えを得ている。
活力の源を聞くと、南は「歌って喜んでくれる人がいるって、こんなハッピーなことはない。だから一言です、Make someone happy。誰かがハッピーになれたらやってて良かったなあと最近ホントに思います」と答えた。
「変えよう変えようと思うとますます自分が出てきちゃうんで、肩の力を抜いて普通の感じでやっていこうと思っています。それが一番ウソがないとこかなあ」。自分に素直に、歩んでいく。
◇南 佳孝(みなみ・よしたか)1950年生まれ、東京都大田区出身。73年、アルバム「摩天楼のヒロイン」でデビュー。79年のヒット曲「モンロー・ウォーク」を80年、郷ひろみが「セクシー・ユー」としてカバーしヒット。81年、「スローなブギにしてくれ」がヒット。84年、「スタンダード・ナンバー」を薬師丸ひろ子が「メイン・テーマ」としてカバーしヒット。2010年からFM COCOLO「NIGHT AND DAY」(水曜、後6・00)でパーソナリティー。
