岐阜市の陸上自衛隊日野基本射撃場で１４日午前９時過ぎ、自衛官候補生の男（１８）が小銃を発射し、２５歳と５２歳の男性隊員２人が死亡し、２５歳の男性隊員１人が重傷を負った。男は殺人未遂容疑で岐阜県警に現行犯逮捕された。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は現場を取材し、デイリースポーツに対して、容疑者が凶行に至った背景について推測した。

　射撃場を管轄する名古屋市の守山駐屯地によると、事件発生は隊員の訓練中。防衛省関係者によると、自衛官候補生の男は隊員３人に銃を向け発射したという。陸上自衛隊によると、使用されたのは「８９式５・５６ミリ小銃」で、４月の入隊後、５回目の射撃訓練だった。容疑者は銃発射を認める供述をしており、県警などが詳しい状況を調べている。

　小川氏は「当日の実習射撃を始めてすぐの出来事だと聞いているので、射撃中に何かトラブルがあったとは思えない。１８歳の容疑者はこの日を狙って、何かやってやろうと考えていた可能性もある。乱射するなら、今の小銃は弾倉に３０発ほど込められるので、もっと撃てたはず。それが（被弾した隊員が）３人だったということは、（その相手を狙うという）目的があったのかということも考えられる」と指摘した。

　その上で、小川氏は容疑者の背景について「ふだんは日野射撃場ではなく、名古屋の守山にある教育隊で教育を受けているわけですが、自衛官になるための一番最初の教育隊は、長年、自衛官を務めた人でも『一番厳しいのが最初の３か月』とよく言われているのを聞いたことがある。その『厳しい』がどういうふうに厳しいのか、これは私の推測ですが、そこでどういった指導をされていたのか…という所を究明していく必要があると思います」と見解を語った。

　警察官として自身も射撃訓練をしていた小川氏は「ハワイやグアムなど海外の観光地で一般の人も射撃できる場所に行くと、銃口の先にチェーンが付いていて、横に向けられないシステムを取っているが、自衛官や警察官の射撃場は隣や後方に向かって撃つこともできる状況。射撃場は横一列に並んで、的に向かって射撃の訓練をするわけですが、隣の人と１メートルくらいの間隔でいる。いつでも銃を向けることはできるが、信頼関係があり、実際に事件は起きていなかった」と補足した。

　では、犯行の背景には何があったのか。

　小川氏は「警察や自衛隊は命がかかっていたり、武器を扱う仕事なので、『指導』と『パワハラ』の境目や線引きが非常に難しい。特に、最近の採用者は『親にも怒られたことがない』という人が多いので、『指導』であっても『むちゃくちゃ怒られている』ように思う人がいるらしい。一般の会社と違って、警察や自衛隊、あるいは相撲の世界などプロのアスリートといった職業の場合ではパワハラのハードルがまだ低い傾向にあるように思います」と指摘した。

　さらに、同氏は自身の体験を踏まえて「私がいた当時（４０年以上前）の警察学校では教官に殴られた者も多々いました。全員に確認したわけではありませんが、多分、全員が殴られていたはずです。だから、卒業式の時に全員が涙するんですよ。しかし、誰も恨んでいなかった」と振り返った。

　小川氏は「高校を出たばかりの人はまだ人格形成というか、年は１８歳でも大人になりきっていないから、理解できない人もいるわけです。警察官の場合は、高卒で半年、大卒なら３カ月で拳銃を実射する。それまでは拳銃は触るが、弾は入れずに空打ちといったように段階を踏んでいく。段階を踏んで信頼関係の元に行われていた射撃訓練中、本来、あり得ないことが起きてしまった」と付け加えた。

　今後の捜査ポイントについて、小川氏は「動機の究明に向け、同僚等から聞き取り捜査が進められるわけですが、まずは『前兆』があったかどうかです。『あいつは許さない』『今度やってやろう』といった話を同僚にしていたかどうか」などと指摘した。

　組織内に抑止力はなかったのだろうか。

　小川氏は「１８歳が先輩を撃ったわけだが、そうなる前に、上官に相談できる窓口が必要だった。『いじめではなく、お前のことを思って言ってくれているんだよ』などと伝えてくれる人がいないから、まだ１８歳の少年には理解できないわけです」と持論を述べた。

　同氏は「警察学校でも、うっかり銃口を相手に向けると、人がいる前で教官から棒で叩かれていた。それで『赤っ恥かかされた』と逆恨みするような人がいても、『事故が起きちゃいけないから、お前のことを思って叩いた』と伝えてくれる人がいれば…。今回のケースでは実際はどうだったか分かりませんが、そういう推測もできる」と付け加えた。