現代の国民病・糖尿病を医師に聞く

 スマホをセンサーにかざすだけで血糖値の測定が可能に
 持続血糖測定器「FreeStyle リブレ」(左下)と専用読み取り機器(右)と専用アプリ「FreeStyle リブレ Link」の表示画面
 高部倫敬院長
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 予備軍を含めると2000万人以上の患者がいるとされる糖尿病。国民の5、6人に1人が罹患(りかん)する可能性がある、まさに現代の国民病だ。現在、この病気の名称が「本質と異なる」などとして、変更が提唱されるなど、あらためて注目されている。そこで今回、この病気の本質、また進化する治療の現状などについて、糖尿病専門医で、兵庫県姫路市の「糖尿病内科たかべクリニック」の高部倫敬院長に話を伺った。

   ◇  ◇

 「糖尿病」の名称変更の動きについて、高部院長は「医学の発展とともに、実態が変わってきているのです」と語った。

 糖尿病といえば、その名から、尿に糖が混じる病気というイメージがある。「確かに重度のケースでは、そのような症状になりますが、昨今のほとんどの糖尿病は、ほぼ『血糖が問題の病気』なのです。すい臓が作るホルモンで糖の代謝を調節し血糖値を一定に保つ働きを持つ『インスリン』が十分に働かないために、血液中を流れる糖が増える状態が糖尿病です。つまり尿糖が重要なのでなく、血糖値が重要な病気なのです」と説明した。

 約100年前の糖尿病は「栄養が問題の病気」と考えられていたという。エネルギーとなる糖を摂取しても、その分解、代謝がうまくいかず、体が吸収できずにそのまま尿糖として出てしまい、栄養状態が悪化し体重減少が起こる。代表的な死因であった糖尿病ケトアシドーシスは、インスリン不足により糖代謝が減り、脂質代謝が過剰亢進することが原因。それがインスリンの発見で、治療法が生まれ、栄養状態の悪化で亡くなる人は、かなり少なくなった。

 「昔のような栄養が問題の状態ならともかく、今は病気の中身は血糖が中心。尿糖が出ない患者もいるため、尿糖は本質ではないのです。また尿という言葉が持つ負のイメージも懸念されています」。

 このような事情などから、より現状に即した名前への変更が叫ばれているようだ。

 血糖が問題という糖尿病だが、実際に血糖値が高いまま放置すると、血管が傷つき脳梗塞や心臓疾患、腎不全、失明など、より重い合併症を発症するリスクが高まる。そのため、治療する上では、日々の血糖値の管理が、非常に重要だ。

 「100年前は栄養の問題(代謝失調)が主な死因でしたが、昭和の時代では、これらの血管系合併症が主な死因となりました。しかし、新たな薬や治療法の開発など、病気を取り巻く環境は進化し、このような血管系合併症は減っています。平成の時代からは、主な死因はがん。つまり一般の方と同じになりました。血糖値をうまくコントロールできれば、長生きできることも証明されています。そのためにも、血糖値の観察は必要です」。

 血糖観察に欠かせないのが、日々の測定だ。毎日のことで患者の負担も大きいが、実はその面でも、着実に進化しているという。

 血糖値の測定を行う際には、一般的に指先を針で刺し、出てきた血を測定する方式が知られている。だが、数年前から、血を採らずに測定できる最新のシステムが開発され「血糖のコントロールも昔に比べれば簡単になっている」というのだ。

 このシステムは、小さなセンサーを体に付けることで、内蔵された小さな針が、皮下のグルコース値(血糖値よりも数分遅れる)を測定。専用の機器や、アプリをダウンロードしたスマートフォンをセンサーにかざすだけで、瞬時に数値が表示されるというもの。スマートフォンを使用した場合、測った数値のデータは、そのまま病院や家族とも共有が可能だ。実際に高部院長も日々の診察で活用しているという。

 「患者さんがスマートフォンで計測したデータは、インターネットを通じて瞬時に病院に入ってきます。患者の方から“血糖が変な感じ”と連絡を受けると、すぐにデータを確認し対応できる」と、遠隔治療など大きなメリットがあるという。

 さらに、このシステムでの最大の利点は、血糖値の変化の「点」から「線」での「見える化」という点。治療する上で大きな進歩となった。

 従来の針を刺して測定していた時の数値は、その時々の「点」でのもの。それが常にセンサーを体に付けることで、数値の変化はすべて「線」で表され、どのように変化するのか、明確に示されるようになった。この数値の変動は「血糖トレンド」と呼ばれ、従来にない細かな変動をとらえることが可能となり、より個々に合った治療、指導など血糖管理を可能にした。

 「それまで血糖値の変動は、測った数値同士の点を、経験で想像し結びつけて考えていました。それが線で表されることで、明確な数値が確認できます。情報量も絶対的に多くなり、個々に応じ細かく踏み込んだ治療や指導が可能になりました。例えば、朝昼晩の食事後の変動で、何を食べた時に上昇するのか、この内容の食事は良い、悪いなどといった食事面での指導など、自分のトレンドを知ることで問題点が解決できます。また、血糖は夜間に下がりますが、気づきにくい睡眠中の低血糖の数値を測定できるメリットもあります」。

 この「血糖トレンド」の計測については、より幅広い活用の可能性があるという。「保険適用としては、インスリン治療中の患者さんは常に使い続けることができます。それ以外の患者さんは、治療評価のための検査として適応があります。また、自費にはなりますが、糖尿病になる前の血糖値が上がってきた段階で、自身の耐糖能(血糖値が高くなった時に、正常値まで下げる能力)を把握する際など、教育的な意味での検査も有効と考えます。2週間分の自身の『血糖トレンド』を測るだけで勉強になりますよ」。

 糖尿病の治療、血糖管理、予防。今後も「血糖トレンド」が、大きなカギとなっていくようだ。

 現在血糖値に問題ない人も、日ごろの心がけで、今後のリスクを軽減可能だ。

 「体は、生活が大きく変わることが苦手。ゆっくり痩せたり、太ったりすることには耐えられても、急にとなると(血糖値を調節するホルモンを分泌する)すい臓に大きな負担がかかります。それは避けてください。もちろん暴飲暴食をしないことが大切ですが、液体の糖質にも注意をしてください」。

 ジュース、アルコールなどで液体の糖質(糖質=炭水化物-食物繊維)は、吸収が特に早く、血糖値が上がりやすく、体に大きな負担がかかるという。

 その「糖」に関していえば、最近、糖質オフ、糖類オフをうたう商品が多く存在する。「実は『糖質』と『糖類』には違いがある。『糖類』はあくまで『糖質』の一部。糖類オフを掲げる商品には、他の糖質が多く入っている場合があります。日ごろから食品表示にも目を向けてください」。

 寒さも一段と厳しくなる季節。実は寒い時期は、血糖値が高くなりやすいと言われる。将来のリスク回避へ。まずこのような心がけから始めてみては。

 また、血を採らず簡単に血糖値を測定し数値も管理できる最新システムの機器として、現在多くの患者が導入しその負担を軽減しているのが、持続血糖測定器「FreeStyle リブレ」(アボットジャパン製)だ。

 センサー型の小さな機器を腕に付けるだけで数値が計測され、読み取りも、専用の機器に加え、専用アプリ「FreeStyle リブレ Link」をダウンロードしたスマートフォンをかざすだけでも可能。数値は、変動や推移を点でなく連続測定された波形の線で表示され、より詳しく血糖コントロールの状況が把握できる。

 データは、連動することで医師のほかに家族、介助者とも共有でき、遠隔での確認が可能。離れて暮らす高齢の家族の見守り、親が子の状況把握といった糖尿病管理も容易となっている。

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