全世界で２億５千万枚以上のセールスを誇り、今年でデビュー５５周年となる英プログレッシブ・ロックバンド「ピンク・フロイド」が、ウクライナの人々を支援するため、実に２８年ぶりとなる新曲「ヘイ・ヘイ・ライズ・アップ」を８日、発表した。

　フロイドは２０１４年にラスト・アルバム「永遠（ＴＯＷＡ）」をリリースしたが、素材は１９９４年の「対（ＴＳＵＩ）」の録音時のもので、バンドとしての新録音は２８年ぶり。

　メンバーのデヴィッド・ギルモア（ギター）にはウクライナ人の義理の娘と孫がおり、これまでもＳＮＳでウクライナについて投稿したり、フロイドの楽曲をロシアとベラルーシから引き揚げたりといった行動をとってきた。

　今回、１５年に共演したこともあるウクライナのバンド「ブームボックス」のアンドリーイ・クリヴニュークが、ロシアの侵攻を知ってツアーを切り上げ、帰国して戦っていることを知りコンタクト。レコーディングは３月３０日に行われ、オリジナルメンバーであるギルモアとニック・メイスン（ドラムス）にガイ・プラット（ベース）、ニテイン・ソーニー（キーボード）が参加した。

　クリヴニュークがインスタグラムに投稿した、首都キーウのソフィア広場で彼が歌うウクライナのプロテスト・フォーク・ソング「ああ、草原の赤きガマズミよ」がサンプリングされ、ギルモアが情感溢（あふ）れる、悲しみに満ちた泣きのギターを聴かせている。

　新曲のタイトルは「ああ－」の歌詞の一節「さあ、立ち上がろう、勝利の喜びを（ＨＥＹ　ＨＥＹ　ＲＩＳＥ　ＵＰ　ａｎｄ　ｒｅｊｏｉｃｅ）」から来ている。

　ギルモアは「世界の超大国のひとつが平和な民主主義の独立国家を侵攻しその人民を殺しているという卑劣な行為に、僕たちもたくさんの人々と同じように憤りといら立ちを感じてきた」とロシアを痛烈に非難。

　ブームボックスを知ることになったきっかけを、次のように説明した。

　「１５年に、メンバーが投獄されてしまったベラルーシ・フリー・シアター（※ベラルーシの地下組織劇団）を支援するコンサートをロンドンのココで行った。プッシー・ライオットとブームボックスも出演していた。彼らも自分たちのセットを演奏するはずだったけれど、アンドリーイにビザの問題があって、残りのメンバーが僕のセットのバックを務めてくれたんだ。その晩はアンドリーイに『あなたがここにいてほしい』をささげた。最近、アンドリーイがブームボックスの米ツアーを離れて帰国して、領土防衛隊に参加したという記事を読んだ。その後インスタグラムで素晴らしい動画を見たんだ。彼がキーウの、美しい金色のドーム屋根のある教会のある広場に立っている。そして、戦争のせいで交通や喧騒のまったくない静かな街の中で歌っているんだ。とても力強い瞬間だった。それを音楽にしたいと思ったんだ」

　ギルモアはこの曲を書いている間、キーウの病院のベッドで迎撃砲の榴散弾の負傷から回復中のアンドリーイと話すことができたといい、「電話越しに曲を少し聴かせたら喜んでくれた。将来どこかの時点で何か個人的に一緒にやれることを願っているよ」と希望。

　この曲について「幅広く支持されて注目を集めることを願っている。人道的なチャリティーのため資金を集め、士気を高めたい。僕たちはこのような形でウクライナへの支持を表明したいんだ。そして、そうすることによって、超大国がウクライナのような民主主義の独立国家を侵攻するのは間違っていると世界の大半の人々が思っているということを示したい」と語った。

　ミュージックビデオはマット・ホワイトクロス監督がレコーディングと同日に撮影。ギルモアは「音も映像も、ロックダウン中に家族一緒にライブ・ストリーミングをやった場所でもある、自宅の納屋のスタジオで収録したんだ。０７年にリック・ライトと”バーン・ジャム“をやったのと同じ部屋でね。ジャニーナ・ペダン（ギルモアの息子チャーリーの妻）が１日でセットを作ってくれて、僕たちが演奏している間はアンドリーイの歌う姿をスクリーンに映していた。つまり、物理的には一緒にいられなかったけど、僕たち４人はボーカリストと共にいたということさ」

　また、アートワークにはキューバ人芸術家のヨサン・レオンによるウクライナの国花ヒマワリの絵がフィーチャーされており、世界中で視聴された動画に登場する女性に直接言及している。彼女はロシア兵にヒマワリの種を手渡し、彼らが死んだときにヒマワリが育つようにポケットに入れて持ち歩きなさいと伝えたという。

　楽曲の収益は、ウクライナ人道支援募金へ寄付される。