振付師・宮本賢二氏が語る羽生結弦 「大変なことばかりだけど、やっぱり力強くいてほしい」

 フィギュアスケート男子で五輪2連覇を達成した羽生結弦さん(27)のスケート人生に、振付師の宮本賢二氏(43)も数多くの中の一人としてかかわってきた。2回目は、2015~16シーズンのエキシビション、「天と地のレクイエム」の振り付けを担当したときの思いや、プロスケーターとなる今後への期待などを尋ねた。

  ◇  ◇

 -2015-16シーズンのエキシビション、ヒーリングピアニストの松尾泰伸氏が東日本大震災の鎮魂曲として完成させた「天と地のレクイエム」も印象的だったのでは。

 「1回目に決めてしまうのもどうかな、と思い、羽生君に3~4曲を送ったのですが『1回聴いて、この曲でお願いします』と。曲の雰囲気と、そのときの心情だったとは思うんですけど、思いが合致したのかもしれません」

 -どういう思いで滑ってほしかったのか。

 「あまり大震災の話はしたくはなかったんですけど、やはりそこからつながっているものはありまして。『奇跡の一本松』(※)の話をしました。“大変なことばかりだけど、あなたはやっぱり力強くいてほしい”という思いでした。今思い出しても泣きそうになってしまうんですけど…。『つらいことはあるけど、前に進んでほしい』と。ほぼしゃべらずに振り付けていきました。すごく印象に残っています」

 -宮本さんの目に、演技はどのように映っていたのか。

 「人間として強く、一歩でも前へということが見えると思っています。一つのプログラムで、つらいこともあったけど最後は上を向いて、という感じに見えたと思うのですが」

 -宮本さんは数々のアイスショーも手がけている。ここでもかかわったことが多いのでは。

 「私は全体の振り付けをするのですが、羽生君が一番張り切ってやってくれるんです。はっきりとした声で『ここはこうした方がいいですか?』とか『こっちに動いたらいいですか?』とか。ものすごく率先してやってくれます。後輩たちがいくら疲れていても“羽生君があれだけやっているんだから、みんなやらな”という良い雰囲気になるんです。すごくスムーズに進むんです。毎回彼に『君がすごく張り切ってやってくれるから、みんなも付いてきてくれる。すごく助かっている』と言うんですけど、『いやいや、僕は普通にやっているだけですよ』とにこやかに言うんです。『そうやな。ありがとう』っていつも言います」

 -アイスショーでも常に一生懸命に取り組んでいると。

 「いつもにこにこしているけど、スイッチが入った瞬間、自分の演技に集中して、完璧以上のものを求めるんです。ずっと集中して、精神力がすごいな、と思いながら見ていました。ジャンプ一つ、4回転を飛ぶためにずっとウオーミングアップをして、イメージトレーニングをしているんです。みんな、本当にすごいという話をしていました」

 -今後プロスケーターとして歩んでいくが、期待していることは。

 「競技会はルールがあって、その中で点数を求めていくじゃないですか。プロスケーターになったということで、競技会のルールがなくなって、例えば跳びたいジャンプをいくらでも跳べる。そういう、自由になった部分も多いと思います。4回転アクセルをやると言っていますし、楽しみで仕方がないですね」(おわり)

 ※奇跡の一本松 2011年3月11日に発生した東日本大震災で、岩手県陸前高田市にある高田松原の松の木は津波によりほとんどが流されたものの、約7万本とされる中、唯一耐え残った。高さ約27・5メートル、樹齢約170年と言われる。枯死が確認されたものの、復興の象徴として後世に受け継ぐため、人工的な処理を加えてモニュメントとして保存されている。

 ◆宮本賢二(みやもと・けんじ)1978年11月6日、兵庫県姫路市出身。シングルからアイスダンスに転向し、全日本選手権優勝など数々の栄冠を手にした。2006年に現役を退いた後は振付師として活躍。羽生結弦や荒川静香、高橋大輔、織田信成、宮原知子など国内トップスケーターのほか、さまざまなアイスショーの振り付けも行い、テレビなどでも解説を行っている。

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