坂本花織インタビュー「“一発屋”と思われたくない」世界女王としての新シーズンへ新境地開く
今年の北京五輪で銅メダルを獲得し、世界選手権でも初優勝したフィギュアスケート女子の坂本花織(22)=シスメックス=が、新シーズンのプログラムに着手している。4月下旬から約2週間、米国に滞在。振付師のロヒーン・ワード氏(38)、1994年世界選手権女王でプロスケーターの佐藤有香氏(49)に指導を受けた。世界女王として迎える新シーズンは振付師を変更し、新境地を目指す女子のエースに、米国遠征の収穫や来季の抱負を聞いた。
◇ ◇
-米国ではシカゴとデトロイトで計2週間を過ごした。今回指導を受けた佐藤氏、ワード氏とは。
「初対面でした」
-ワード氏の振り付けは、日本選手であまり例がない。元全米王者のジェイソン・ブラウンなどを担当し、独創的な振り付けだが。
「(指導を受ける)中野(園子)先生から『ジェイソン・ブラウンの振り付けってどう?』と聞かれて、いいと思いますと。中野先生は突然人を選んでくることが多い(直近4シーズンで振り付けを担当した)ブノワ(リショー氏)の時もそうだった」
-新たな可能性を模索している。
「私は柔らかい表現がまだまだぎこちないので(中野コーチは)そこを克服してほしいみたいで。ジェイソン・ブラウンもすごく動きがきれい。また将来的に振り付けをする時のために、表現を習ってこいとも言われて」
-来季はショートプログラム(SP)、フリーとも新しい振付師へ変更する予定だと。
「勇気がいりますね。まったく別物になる。ブノワは体幹が一体どうなってるの?という振り付けが多く、大きく直線的で強弱のある動きだった。でも、今回のロヒーン先生は、ほぼダンスですね。中野先生は、ブノワに慣れてきた体が別のいい方向に動くんじゃないかと思っているみたい。頑張ってみようと思います」
-どんな指導を。
「私は体のしなやかさがなく、背中一枚がバーンと動いている感じ。だから、軟体動物みたいに動かせるようにと言われてます。背骨の1個1個を(順に)立てていって、曲げていく感じ。滑る前後に陸で1時間くらい鏡を見ながら動いたり、振り付け自体を細かくやってから氷上でやったり、かなり(念入りに)やりました。でも、できひん…」
-デトロイトで指導を受けた佐藤有香さんは、現役時代から高い表現力やスケーティング技術で知られるが。
「(美しいスケーティングに)見とれてしまって、振り付けが飛んじゃうみたいな感じでした。スケーティングの基礎をめっちゃ教えてもらった。私は全力で滑る癖があるので、漕(こ)いで(滑る)って感じなんですけど、漕がなくてもちゃんと(ブレードの)一番滑るところに乗れば、スーッと勝手に滑っていく。すごく勉強になりました。それほど漕がなくてもスピードが上がっていくから、体力の消耗が少ないように思います」
-米国での収穫は。
「スケーティングを別の先生2人から教えてもらったっていうのがすごい収穫です。それぞれ教え方も違った。佐藤先生からは基本の“キ”を。ロヒーン先生はしなやかな動きになるスケーティングや体の動かし方。毎日筋肉痛になりながらやってましたね」
-世界女王として迎える新シーズン。追われる立場になる。
「追われている感じはあまりなくて、去年の自分に勝てるようにという思いが一番あります。中野先生からも今年が一番大事と言われているから、本当に頑張らないといけない。こういう結果(五輪銅メダル、世界選手権優勝)が出てしまって“一発屋”と思われたくない感じですね」
-そのための新たな挑戦として、4回転トーループも見据える。
「やろうと思います。意思はあります。そのための準備が大変」
-大学4年になったが、卒業は?
「ヤバいです。本気で今、頑張らないと卒業できへん。先生からは4年で卒業しようとするから忙しいねん、ゆっくり卒業しいって。でも、そう言われると燃えちゃうタイプ。今24単位、履修してます。月金がリモート、火水木が対面授業。時間を見つけて通学していますが(厳しい時は)いろんな先生に『すいません、課題くださーい』って」
-卒業後は。
「来年卒業できたら、次の五輪(26年ミラノ・コルティナダンペッツォ)まで最低3年は、シスメックス所属で“スケーター兼ニート”になります」
-来年3月には4年ぶりに日本で世界選手権(さいたま市)がある。連覇がかかる大会で進化を見せたい。
「進化、難しいなあ。今までは自分らしさを優先してやってきたんです。スピーディーで勢いのある演技が自分らしいと思ってずっと戦ってきた。だからちょっと違う路線で戦ってみたいなっていうのもある。そう考えたらまだまだやりたいことがいっぱいあるので次の4年間でできたらいいなと思ってます」
◆坂本花織(さかもと・かおり)2000年4月9日、神戸市出身。NHK連続テレビ小説「てるてる家族」で、五輪選手になるヒロインの姉を見て4歳で競技を始めた。神戸野田高を卒業し、神戸学院大経営学部に在学中。16年全日本ジュニア選手権で初優勝。17年世界ジュニア選手権3位。17-18年シーズンにシニアデビューし、18年平昌で五輪初出場。6位に入賞した。今年の北京五輪は個人、団体で銅メダルを獲得。3月の世界選手権で合計236.09点の自己ベストで初優勝。コーチは中野園子氏、グレアム充子氏、川原星氏。159センチ。