【五輪コラム】15歳があぶりだした五輪の矛盾 ドーピング疑惑のワリエワ惨敗

 フィギュアスケート女子フリーの演技後、得点発表を待つカミラ・ワリエワ(中央)。左はエテリ・トゥトベリゼ・コーチ=17日、北京(共同)
 フィギュアスケート女子フリー ジャンプで転倒するカミラ・ワリエワ=17日、北京(共同)
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 17日夜のフィギュアスケート女子フリーは異様な雰囲気の中で始まり、驚きの結末を迎えた。ドーピング問題の渦中にいたショートプログラム(SP)首位のカミラ・ワリエワ(ROC=ロシア・オリンピック委員会)は重圧に負けたのか、ミスを連発して4位と惨敗した。日本の坂本花織が銅メダルを獲得した歓喜の舞台は、ワリエワ騒動により五輪とフィギュア界が抱える矛盾をあぶり出した。混乱のキーワードの一つが「15歳」というワリエワの年齢だった。

 ▽ワリエワの記録は暫定

 何もかもが異例の競技会だった。数少ない観客は選別された招待客だったから、行儀がよかった。米国や欧州での超満員の大会だったら、ワリエワの登場にはブーイングの嵐だったろう。ワリエワの記録には暫定成績を示すアスタリスクマークの「*」がついた。仮に彼女が3位以内に入れば、メダルセレモニーも行われないことになっていた。

 ワリエワは昨年12月のロシア国内でのドーピング検査で禁止物質の陽性反応が確認された。しかし、検査結果報告の遅れのほか、「16歳未満は要保護者」であることを考慮され、スポーツ仲裁裁判所(CAS)により五輪への出場を認められた。

 SPの演技後、西側メディアのほかSNS(会員制交流サイト)ではワリエワとロシア・スポーツ界への批判が殺到した。これまでほとんどミスがないワリエワも、さすがに耐えることができなかったのだろう。得意の4回転ジャンプを相次いで失敗。合計得点も世界最高得点の自己ベストより40点以上も低かった。15歳にとって、これほどつらい演技はこれまでになかっただろう。泣き崩れた姿には同情を禁じえない。

 ワリエワのドーピング違反の事実はまだ確定しているわけではない。CASの裁定は出場可否に限定されていた。違反の責任をどう問うかは、あらためて審理される。こんな分かりにくいことが、公平さや透明性が問われるスポーツの世界であっていいのだろうか。ワリエワが仮に16歳以上だったとすれば、直ちにドーピング違反に問われて五輪リンクには立てなかったはずだ。裁定をめぐる混迷が、その後の過程をさらに複雑にしていた。

 ▽年齢制限引き上げも

 フィギュアスケート選手には年齢別のカテゴリーがある。五輪に出場できるシニア選手は、前年の7月1日時点で15歳以上との制限がある。2006年トリノ大会に「出場すればメダル」と期待されていた浅田真央は、前年7月にはまだ14歳だったため代表になれなかった。

 フィギュアでは体重が軽く、体の柔らかい10代半ばの選手の方がジャンプの大技を習得しやすい、とされる。一方、まだ未成熟な選手に過度の負荷をかける猛練習は成育を阻害するとして1996年から現行の年齢制限が設けられた。夏季競技では体操などに同様の制限がある。

 それでも女子選手の低年齢化は止まらない。特にロシアからはシニアデビューしたばかりの15、16歳が次々と台頭した。16年世界選手権はエフゲニア・メドベージェワが16歳で制し、18年平昌五輪は15歳のアリーナ・ザギトワが金メダル。アンナ・シェルバコワは16歳で昨季の世界選手権を制し、今回の五輪ではロシア勢として3大会連続の金を獲得した。

 ロシアの早熟選手の共通点はピーク期間が短いことだ。ザギトワは17歳で事実上、競技活動を止めた。メドベージェワももう競技会で見ない。ハイレベルのジャンプはやはりミドルティーンの特権なのだろうか。

 ザギトワの15歳での金メダル以降、フィギュア界では年齢制限の引き上げ論が出ていた。ワリエワ騒動でその声が再び高まっている。16歳未満という理由で、ドーピング検査の結果に責任を問えないなら、「出場選手はすべてに自己責任が負える16歳以上にすればいい」との意見も出てくるだろう。国際スケート連盟内では「17歳以上」とする案も検討されているという。

 ▽逃げるIOC、ロシアへの忖度

 ドーピング一掃を掲げる国際オリンピック委員会(IOC)の対応にも不条理さがある。14年ソチ五輪での組織的なドーピング違反によって、ロシア勢にはその後の夏季、冬季五輪では「国の代表」としての参加は禁じた。ただ潔白が証明された選手は個人資格での出場を容認した。IOCはROCの一時的な資格停止も解除し、ロシア選手は昨夏の東京五輪や今大会にはROC所属の選手として出場、メダルを量産している。

 五輪には元来、「国の代表」という概念はない。日本代表などの呼称は公式にはない。日本選手も、正確には日本オリンピック委員会(JOC)が派遣する選手団のメンバーである。「ROC」名でのロシア選手出場容認は、スポーツ大国ロシアに対する配慮なのか。テレビ放映における商業価値低下を防ぐ狙いがあるとの臆測もある。

 ドーピング問題では、IOCが主導して設立した世界反ドーピング機関(WADA)を立法機関とすれば、国際検査機関(ITA)は行政機関か。係争事案にはスポーツ仲裁裁判所が裁定に乗り出して司法を担う。三権分立の格好だが、それを隠れみのにIOCは紛争事から逃げている印象がある。(共同通信・荻田則夫)

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