近大ボクシング部・名城信男監督「選手には感謝しかない」…元世界王者が初の大学監督

 4月1日に近大ボクシング部の監督に就任した元WBA世界スーパーフライ級王者の名城信男氏(37)が1日、2020年東京五輪を前に名門復活にかける意気込みを語った。日本ボクシング連盟の山根明前会長体制下で約5年間、アマチュア資格を得られなかったが、同連盟が新体制となり、プロの元世界王者として初めて大学監督に就任した。関西学生リーグ(5月12日開幕)の監督デビューを控え、教え子たちへの感謝の思いも口にした。

  ◇  ◇

 -プロでは日本最短記録(当時)に並ぶ8戦目での世界奪取。2度の戴冠を果たしたが、アマでは力を出し切れなかった。

 「全日本選手権でベスト8止まり。アマではスピードが足りなかったし、当時の採点方法はフェンシング的(タッチすればポイントになる)に近かったように思います。それに対応できず結果が残せなかった」

 -近大4年でプロデビュー。そこで大学も中退した。

 「ちょうど(当時の近畿学生)リーグの分裂騒動で近大が脱退していた。リーグ戦に戻れるなら戦いたかったけど、4年になっても復帰しないと決まったのでプロに行こうと。大学時代は不完全燃焼の3年間でした」

 プロ6戦目で日本王座に挑戦。しかし、ここで試練が訪れる。05年4月、日本スーパーフライ級王者・田中聖二さんを10回TKOで下し、初戴冠。試合後に田中さんは意識不明となり、急性硬膜下血腫で2週間後に亡くなった。

 「ボクシングが危険なスポーツというのは自分が一番よくわかっている。今も指導の上で一番に考えているのはダメージを残さないこと。パンチをもらうなと一番言います。そして体をしっかりつくること。少しでも効いていたらスパーでもマスでもすぐに止めます。僕は激闘型のボクサーなので気持ちはわかる。でも、熱くなってもプラスはない」

 -引退前は世界挑戦で4連敗した。

 「この経験はものすごく大きい。本当に厳しい時期でしたが、いろんな人に支えてもらい、感謝した時期でもある。そして、それに応えられなかった罪悪感もすごくあった。何としても返り咲きたい気持ちと、今まで応援していただいたことに応えたい気持ち。でも、自分はそういうものを背負えば背負うほど弱くなっていくというか、動きが萎縮した。僕はひたすら上を目指して何のリスクも考えず挑戦していた時期はよかった。でも、凡人やったんやなと思います」

 -その後、指導者として誘われた母校近大は、09年に部員2人が強盗容疑で逮捕され、廃部になっていた。

 「当時は復部が決まって動きだした時。(同部OBで俳優、現同部総監督の)赤井英和さんが署名活動をやって、僕も協力していました」

 14年にプロを引退して母校のヘッドコーチに就任。しかし、ここでまた長い苦難を迎える。日本ボクシング連盟の山根明前会長から試合会場への出入りを禁止された。山根氏の怒りを買ったのは、試合会場で選手のためにミットを持ったことだった。当時は連盟の指示で指導者不在になったためにやむを得ない措置だったが、言い分は認められなかった。元プロの世界王者、高山勝成がアマ登録を訴えて活動した一方、名城監督は昨年9月に連盟が新体制となり、アマ資格が認められるまで沈黙を貫いた。

 「山根会長のところに何度も謝りに行きましたが…。(声を上げなかったのは)学生を抱えているから。不利な状況に陥らせることはできなかった」

 -今年3月には日本代表候補の合宿にも招へいされた。

 「不思議な感じでした。何でオレがこんなところにおるんやろって。いろんな人と話ができて指導方法も見られて、ありがたい経験をさせていただいた。近大からも選手(男子フライ級・坂本達也、同ミドル級・細野恭平、女子ライト級・柳井妃奈実の3人)を呼んでいただき、本当にありがたかった」

 かつて関西で無敵と呼ばれ、大学日本一にも11度輝いた名門は、不祥事や長い雌伏の時を経て、昨年のリーグ戦で21年ぶり38回目の優勝を決めた。名門復活と言われたが、実は現状は厳しい。2年前の元指導者のセクハラ問題で、ボクシング部へのスポーツ推薦は途絶えたままだ。

 「一般学生で入部した子もすごくがんばっているので教えるのは楽しいです。でも、今は子供の頃からボクシングをやっている子が多く、全体的なレベルが高い。もう少し勝てるところまで強くしたいと思っています。ボクシングセンスとよく言うけど、センスは一つじゃない。それぞれの個性を伸ばせば強くなる可能性はあります」

 -指導者としての夢は。

 「一番はこのボクシング部がすばらしい環境となり、選手たちが上を目指せるようなクラブになりたい。大学にボクシング部を認めてもらって推薦枠もとれるようになりたいです。今の学生には心から感謝してます。不祥事で監督が不在になった上、(推薦が停止し)3年生が1年生と同じように雑用や掃除をしている。この状況の中でやれる限りのことをやろうと言っている。厳しい戦いだとわかっていても優勝するつもりでやっている」

 -東京五輪も。

 「合宿に呼ばれている選手たちはもちろんそのつもりです。僕自身、選手と一緒に練習しているのが本当に楽しい。学生には感謝しかありません」

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