【歴代担当記者が振り返る稀勢の里(中)】忘れがたい日馬富士との名勝負

 惜しまれながら土俵に別れを告げた元横綱稀勢の里の荒磯親方。その実直な人柄、素顔を歴代担当記者が語る連載企画を3回にわたってお届けする。今回は第2回。

  ◇  ◇

 元横綱稀勢の里が黒星を喫した後に、ほほ笑みを見せたことが記者の担当中に一度だけあった。通常なら悔しさのあまり顔を紅潮させ、舌打ちとため息を繰り返し、ほぼ言葉を発することなく場所を後にするだけに、鮮明に覚えている。

 それはまだ大関時代、2012年秋場所13日目の日馬富士戦だった。相手は直前の名古屋場所で全勝優勝を果たし、綱とりに挑んでいた。12連勝していた日馬富士を止めるべく、2敗で追っていた稀勢の里は正面から当たって土俵際まで押し込むが、押し返されて寄り切られた。

 支度部屋に戻ってきた稀勢の里は、放心したように笑顔を浮かべていた。その顔は「強かったなあ」と、そのまま2場所連続全勝優勝で横綱昇進を決めた、日馬富士をたたえているように見えた。

 日馬富士は度々「オレはアイツが好きだ。一生懸命だし相撲を取るとこっちが元気をもらえる」と話していた。稀勢の里が所属する千葉県松戸市にあった鳴戸部屋まで、両国の伊勢ケ浜部屋から出稽古に向かうことも珍しくなかった。そのたびに稀勢の里は「ありがたいね」と感謝していた。

 何の因果か、17年春場所、両者の取組での負傷が、稀勢の里の土俵人生を縮めたわけだが、日馬富士に対して負の感情は一切ないと断言できる。あの激しい稽古を繰り返し、互いに命を削った真剣勝負の末の結果だったのだから。

 引退会見では白鵬の名を挙げていた稀勢の里だが、日馬富士との名勝負も記者は忘れられない。 (2012、13年デイリースポーツ・相撲担当、山本鋼平)

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