菊池雄星&吉田正尚を陰で支える阪神出身トレーナー2人 両選手との信頼関係に迫る
第6回WBCで大会連覇を目指す侍ジャパン。侍戦士たちの原点、素顔に迫る「侍外伝」の第5回は菊池雄星投手(34)と吉田正尚外野手(32)。海を渡ったメジャーリーガーを陰で支えるのは、阪神でトレーナーを務めた経験がある2人のプロフェッショナルだ。その仕事ぶりと、両選手との信頼関係に迫った。
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大活躍の侍戦士たちを、静かに陰で支える男たちがいる。大歓声が降り注ぐ国際舞台の裏側で、伊藤健治トレーナー(45)は淡々と準備を続けていた。そこに派手な言葉はない。だが、菊池がマウンドに向かう直前まで隣に寄り添っている。
「基本的には、自分がやることはいつもと変わらない。これだけ日本全体が注目している大会でやるプレッシャーはもちろんあると思います。だけどやるのは選手。それを支えながらですね」。感情を大きく表に出すことはない。まさに、職人-。言葉はあくまでも冷静そのものだった。
菊池と伊藤トレーナーの準備は昨年10月から始まっていた。大会に出る意思を固めてからスケジュールの逆算。「この時期にこれぐらいしっかり投げられるようにしておきたい」とまずはゴールを決め、トレーニング量、投球数、調整時期を細かく組み立てていった。
阪神で培った長年の経験がある。金本知憲、鳥谷敬…。圧倒的なトレーニング量を誇る鉄人らと重なるのは菊池の姿だ。伊藤トレーナーは言う。「菊池投手もすごくトレーニングをする。そこを見極めて、必要なトレーニングはもう少し変えた方がいいんじゃないか。自分が今違う知識やいろんな経験を経て、伝えられるものを伝えたいとずっとやってきています」。築き上げた土台を元に、導くことが仕事だ。
だが、その関係性は決して一方通行ではない。菊池の人柄を問えば、「野球大好き、勉強大好き」と笑う。トレーニング方法だけでなく、データを知ろうと本を読みあさる菊池から刺激も受けていた。「いっぱい質問してくれる分、僕もしっかり勉強しておかないと説得力がなくなる。菊池投手に刺激を受けて、僕もしっかりやらなきゃないけない」。互いに学び合う関係。その2人のスタイルが信頼を生み、二人三脚で侍の舞台に立った。
菊池を支えるのが伊藤トレーナーならば、侍の4番・吉田を支えるのが手嶋秀和トレーナー(43)だろう。偶然の出会いから始まった付き合いは5年になる。24年10月に右肩を手術し、25年後半からようやく状態も回復。そんな状況下で、今年の自主トレが始まる1月5日を迎えていた。ケガ明けで臨むWBC。手嶋トレーナーのテーマは明確だった。「前進が少しずつだったとしても、後退だけはさせない」。肩の可動域、投げる距離。細心の注意を払いながら、戦える体に整えていった。
手嶋トレーナーは西宮市内に「甲子園スポーツトリートメント治療院」を構えている。海を越えた先で戦う吉田に1年間、つきっきりでサポートできないからこその工夫がある。「ドジャースみたいに毎試合テレビで(放送)するわけじゃないからさ。やっているときは毎試合見る。やっていなくても、毎試合起きたら結果を確認する」。その積み重ねが信頼に変わる。
何が、そこまでさせるか。手嶋トレーナーは笑う。「自主トレで毎日、打撃投手をするわけよ。こんな球しか投げられないけど大丈夫かなって思ったやつを、きれいに打ってくれたりすると救われるんだよね」。メジャーリーガーを支える緊張感さえ忘れさせる面白さ、彼の人柄がある。
世界の頂点を目指す戦い。その舞台は、何もグラウンドだけではない。阪神から世界へ。決して表には出ない男たちの仕事が、侍の強さを作っている。
◆手嶋秀和(てじま・ひでかず)1982年7月19日生まれ、43歳。横浜市出身。私立鎌倉学園を経て、東京衛生学園専門学校で鍼灸マッサージの資格を取得。08年から阪神の球団本部管理部(トレーナー)に就任し、19年まで12年間在籍した。現在は「甲子園スポーツトリートメント治療院(兵庫県西宮市浜甲子園)」を開院し、吉田正尚の個人トレーナーも務める。スポーツ選手だけでなく、一般の治療も可能。問い合わせは同院のフェイスブック、インスタグラムで。
◆伊藤健治(いとう・けんじ)1980年5月25日生まれ、45歳。東京都出身。2003年から、JFE西日本硬式野球部トレーナーを務め、07年に阪神タイガース臨時トレーナーとして採用される。08年から球団本部管理部(トレーナー)に就任し、19年まで12年間在籍した。20年から現エンゼルス・菊池雄星の専属トレーナーとして支え続けている。
