「ＷＢＣ・２次ラウンド１組１回戦、台湾３‐４日本」（８日、東京ド）

　百戦錬磨のベテランならではの冷静さだった。「打席の中では非常に冷静だった。その後は覚えていない。うれしい思いでいっぱいだったけど、勝たないといけないので、同点じゃいけないと思った。負けられない気持ちだった」。日本中を興奮させた起死回生の同点打にも、打った中日・井端だけは気持ちを切り替えていた。

　１点を追う九回、２死一塁。アウトになれば敗戦という状況で打席に入った。初球、一走の鳥谷がスタートを切る。間一髪、盗塁成功。仲間が大きなリスクを冒して手にしたチャンスで、ボールに食らいついた。打球が中前に落ちる。土壇場での同点打に、東京ドームは大歓声に包まれた。

　一回には台湾先発・王建民のシンカーを中前に運んだ。「投げてくるのは、ほとんどがシンカー。ほかの球種がきたらゴメンナサイ、ですね」。データやビデオを見て研究し、さらに覚悟を決めて打席に立ったベテランは、そのボールを逃さなかった。

　八回には先頭で中前打を放つと、内川の右前打で三進。阿部の右前打でホームを踏んだ。侍ジャパン反撃開始の１点だった。

　試合を重ねるごとに存在感が増す井端。今や侍ジャパンの欠かせない選手になっている。山本監督は「日本中のファンが井端さまさまと思っているだろうけど、わたしのほうが何倍も思っている」とたたえた。