【70】多くの失敗を糧に 成功裏に終えられた第98回選手権大会

 「日本高野連理事・田名部和裕 高校野球半世『記』」

 第98回を迎えた全国高校野球選手権大会は、昨年に続き雨天などによる順延なく、14日間の全日程を予定通り終えることができた。

 大会前の心配はやはり最近の異常気象だった。日中の気温が35度を超える猛暑日が大会期間中続くという予報だった。

 実際には大会前の5日夜、西宮では1時間当たり34ミリの強い雨があった後は、2回戦屈指の好カード、横浜-履正社の試合中にあった雷雨以外は全く降らなかった。

 この日はこの試合を目指して多くの観客が球場に詰めかけた。お目当てが第4試合だったが、早朝から全席売り切れ、外野も満員のため追加発売を待つ列が長く続いた。昼前には外野席の入れ替え待ちでライト側入り口を先頭にレフト側まで、それこそ十重二十重の列が続いた。

 雑踏警備は最重要課題だ。球場の係員も緊張が続く。観客への適切な誘導と広報を繰り返す。

 炎天下、辛抱強く入場を待つ人々には「申し訳なさ」と「感謝の気持ち」で一杯になる。

 その第4試合が始まって間もなく、それまでの浜風が、反対にレフト側からに風向きが変わった。雨の前兆だ。そしてその風も止み、センターポールの旗がそよともせず垂れ下がった。すると球場を覆った黒雲からついに降ってきた。

 試合は二回の裏、履正社が8番山本君の3ランが飛び出し横浜に逆転した後だった。

 1回目の中断は17時10分から43分間。その後再開したものの18時から再び40分間の中断となった。

 球場から北東の北摂方面で盛んに落雷が発生しており1度目の中断直後に球場から約7キロの地点に、2度目の中断10分後には、直近5キロの尼崎市に落雷があった。大観衆に被害があってはいけない。繰り返し場内放送で注意を呼びかけた。

 大会本部に設置した民間の天気情報会社の局地端末情報で刻々データを確認する。雷は30キロ圏内では要注意だ。

 ようやく雷雲が東へ去り、最初の中断から1時間30分が過ぎての再開となった。事故なくやれやれだ。

 次の心配は熱中症だ。先の阪神淡路大震災以来、チームの飲料水は大会本部で準備している。冷水器のミネラル水と特別に調合したスポーツドリンクを用意している。

 選手たちには入場時にカップを用意し、背番号などを記入してマイカップにする。攻守の交代時には必ず飲水を徹底させている。スポーツドリンクは大会をサポートする理学療法士が調合している。

 塩分濃度は10リットルに対し食塩を小さじ2杯(12グラム)加え、濃度は0・245にしている。日本体育協会などが推奨する濃度0・1~0・2より少し濃いが氷が溶けて薄まるのを考慮している。

 チームも飲水にはずいぶん気をつける習慣が備わってきた。また、ベンチ内ではマウンドから戻ってきた投手の後頭部に氷嚢を当ててやる控え選手の姿も多くみられた。

 選手たちは予選前から炎天下での練習や試合で暑熱馴化はできているが、甲子園では極度の緊張が加わるので要注意だ。

 今年は熱中症の症状を訴える選手は減少した。試合中にけいれん等の症状で交代したのは昨年より1人増え2人いたが、試合後、気分不良で医師の診察を受けた選手は半減し、8人だった。

 今大会中も国内外から様々な来客があり、ネット裏の作業や医療関係、取材の取り決めやブラスバンドの飛球事故対策などいくつかご案内した。

 見学者からは細かい配慮にお褒めをいただいたが、ほとんどが過去の失敗を糧に皆で知恵を絞って出来上がった対策ばかりだ。

 まもなく100回大会だ。おそらく貴重なマニュアルがまた積み重なることと思う。

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