【43】ストッキングの謎 ケガ予防から生まれた独特の形状

 「日本高野連理事・田名部和裕 僕と高校野球の50年」

 野球のストッキングはなぜ下部が切れ込んでひも状になっているのか?

 今回は数ある僕の失敗談から紹介する。今から15年ほど前の明治神宮大会のこと。その頃、各メーカーで「ハイカットスパイク」なるものが発売された。バスケットシューズのようにくるぶし辺りまである形状だ。

 メーカーによれば足首関節のゆるい選手やねんざの防止に効果があるという。当然値段も割高で高校野球で認めてもよいのか検討したが、ケガの予防に効果があるとなると規制はできない。

 そんな時、明治神宮大会に出場したT高校が、ストッキングの切り込みが少ない“ローカットストッキング”なるものを履いていた。しかもハイカットスパイクを履いてだ。するとストッキングの下の白いソックスが全く見えない。T高校は県外選手も多く「わんぱく集団」の印象だった。

 僕は、大会後の連盟の理事会で「ローカットストッキングは高校生らしくない。規制すべきだ」と提案した。

 すると尾藤公理事(故人、元箕島高校監督)から「僕の学校は普通の化繊のストッキングだったが、北陽高校は純毛の厚手のストッキングだった。松岡英孝監督に聞くと、厚手のものはスパイクされたときもケガの予防になると言っていた。それなら切り込みが少ない方が良いのでは」と異議が出された。

 なるほどその通りで僕の高校時代でも確か名門芦屋高校も純毛のストッキングでうらやましく思った。

 そこで困った時の佐山和夫先生(日米野球史に詳しいノンフィクション作家)にストッキングの形状についてお尋ねした。

 しばらくすると電話があった。「1900年に規定されている。その当時はストッキングの染色に自然界の草木が使われていた。もしスパイクされて傷口から染料が入れば敗血症になるという懸念が出た。もちろんそんなことはなく迷信だが、1900年の規則改正で、ストッキングの下部をあぶみ状(鞍の両側にぶら下げて足を入れる馬具、英語でstirrups)に切り込み、下に白い清潔なソックスを履くとなった」と歴史的経過を教わった。

 そう言えば野球以外のサッカーでもラグビーでも切り込みはない。不思議に思っていた。野球も大昔はサンタクロースがプレゼントを入れてくれるストッキングの形だったということだ。

 野球発祥の国、米国でもケガの予防から規則を変えていたので僕の規制する前言は取り消した。もう一度調べるとこの話は1999年のことで、米国でルールができてちょうど100年目の出来事だった。

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