韓国球界ストーブリーグ事情…異変あり

 韓国球界今オフのストーブリーグは、ちょっとした異変が起きている。FA資格を行使して市場に出た選手は20名。そのうち9名が、いまだ来季の所属先が決まっていないのだ。

 例年、韓国のFAは他球団との解禁初日に、ほぼめぼしい選手の移籍先が発表されるほど、ハッキリ言って水面下での事前交渉が支配していた。なのに今オフは、一部の選手を除けば“無風”に近い。関係者に話しを聞くと、いくつもの要因があるようだ。

 まずなにより、今オフのFA選手の水準が、比較的イマイチなこと。チームの看板選手ではあっても、リーグを代表するクラスが乏しいという評価なのだ。とくに20名のうち16名もが野手という偏りで、各球団とも共通して求めがちな投手が圧倒的に少ない。また野手といっても「年齢的に30歳台半ばの選手が目立ち“どうしても欲しい”とは思えない選手が多い」(韓国球団幹部)という。

 韓国球界は、今、世代交代をはかる傾向にある。そのためベテランは敬遠がちになるというわけだ。事実、NCダイノスで宣言残留した孫時憲(ソン・シホン)内野手は2年総額15億W(約1億5千万円)、李鍾旭(イ・ジョンウク)外野手は、1年契約で総額5億W(約5千万円)の契約となった。従来のFA残留なら、この倍くらいの金額になるが、両選手ともに来季は38歳。チームの貢献者といえども“高齢”が好条件のネックになったと見られている。

 現在、まだ所属先が決まらない選手の中には、かつてWBCで日本戦で活躍したハンファイーグルスの鄭根宇内野手の名もあるが、彼も来季は36歳になる。今季は105試合で129安打、73得点、打率・330とテーブルセッターとしての役割はまだまだ担っているが、市場評価はキビシイ。

「鄭根宇に限らず、旧所属球団も他球団からの誘いがないとわかれば、急いで再契約交渉する必要はないと考えている。表現は悪いが時間が経てば経つほど、提示額は低く抑えられますからね。2月のキャンプ目前くらいまで交渉を伸ばし、あわよくば減額での再契約を考えている球団もあるでしょう」(前出の球団幹部)。

 それでも契約が決まるならまだいい方かも知れない。数名の選手に至っては「契約はされず、国内のプロリーグでプレー出来なくなるかも知れない」(別の韓国球界関係者)というのだ。

 11月中旬に、ロッテジャイアンツの崔俊蓆(チェ・ジュンソク=34歳)とネクセンヒーローズの蔡泰仁(チェ・テイン=35歳)に関し、双方の球団が「もし獲得する球団が名乗りをあげる場合、人的補償は求めない」という意思を示した。韓国ではFA選手の移籍に際し、獲得球団は旧所属球団にその選手の前年年俸の200%に相当する金額とプロテクト選手20名以外からの人的補償か、金銭のみなら300%を補償金とする規定がある。今回、あらかじめ人的補償を放棄して補償金のみと表明したことは、移籍のハードルを低くし、事実上の“戦力外”であることを示したようなものだ。崔俊蓆は今季、125試合で14本、82打点を記録し、ロッテの4番を張っていたスラッガー。通算でも197本を残している。蔡泰仁は通算11年で打率・301、100本、550打点を残す巧打者だ。しかし「現状、ロッテもネクセンも再契約交渉をする考えはない」とか(もっとも、年齢以外にも「“超マイペース”でチームにマイナスの影響を与えるタイプ」という評判も、契約を妨げている)。

 だがFA市場が寒くなってきた一番の要因と言えるのは、「親会社が金を出し渋るようになったこと」(前出・関係者)だという。韓国のプロリーグは毎年、観客動員が右肩上がりではあるものの、ほとんどの球団が赤字経営だ。その主たる出費が高騰する選手年俸だった。そしてそれらすべてを親会社が補填してきた。旧財閥である大手の企業はライバル意識も強く、投資もやむなしとしてきた。だが近年、韓国経済の不況とともにグループ経営も困難を極めている。要するに「子会社である球団に金が廻せなくなってきている」というわけだ。

 とはいっても、例外はある。フィリーズを退団して国内復帰する金賢洙(キム・ヒョンス・29歳)外野手は、古巣の斗山ベアーズではなく、同じソウルを本拠地とするライバルのLGツインズと契約した。その条件たるや4年総額115億W(約11億5千万円)。ロッテの看板捕手・姜珉鎬(カン・ミンホ=32歳)は4年総額80億W(約8億円)の好条件でサムスンライオンズに移籍となった。しかしこうした“美味しい例”は、やはり少ない。

 これまで韓国では、FAでの移籍、残留時に数倍ともいえる金額での契約により、選手全体の年俸を押し上げる傾向にあった。1軍のレギュラークラスなら、日本円で年俸5千万円クラスは珍しくなくなった。だから無理をして日本などに行く必然性も希薄になった。4年など長期契約が主流のため、FA資格さえ掴めば、言葉は悪いが楽をして巨額な富が得られた。

 しかしそうした流れも、変わりつつある。そんな兆しを感じさせる、今年の韓国球界のストーブリーグだ。(スポーツライター・木村公一)

 

 

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