台湾ラミゴの王柏融、移籍報道の裏にある台湾球界事情

 先日、一部の日本メディアで、台湾プロ野球(CPBL)でプレーする王柏融(ワン・ポーロン)外野手の“移籍ネタ”が報じられた。記事によれば、条件が整えば台湾球界を代表する彼がシーズン中の移籍もあり得るというもの。Yahoo!ニュースのスポーツ部門ではトップにも上げられたほどだったから、日本の野球ファンにもそれなりの関心を引いたのだろう。

 王柏融はラミゴ・モンキースに所属する、今年、プロ3年目の23歳。ルーキーイヤーから抜群の打撃センスを発揮していたが、2年目の昨季、いきなりシーズン200安打を放ち、打率・414、29本、105打点を残して俄然、注目される存在になった。日本でも2月の侍ジャパン壮行試合(ヤフオクドーム)でCPBL選抜の3番に座り、3打数1本塁打、3打点で顔見せ披露を果たしている。(ちなみにこの壮行試合は台湾代表以外のメンバー構成だったのだが、彼の存在のお陰かメジャースカウトの中にはこのCPBL選抜を台湾代表と思い込んでいた者も少なからずいた。で、彼が代表から外れた理由は、以前に記しているので個々では略す)。

 今季も32試合で打率・416、6本、29打点。首位を走るチームを牽引している。

 そんなスラッガーの“移籍もあるぞ”という報道に、日本のファン以上に驚き、戸惑ったのは台湾メディアだった。リーグの看板選手の話題だ。すぐさまリーグ幹部にも問い合わせ、報じた。

 連盟幹部の話を総合すると「海外の野球界から関心を持たれることは選手としては名誉なこと」としたものの「各球団の考えもある。海外移籍は現行ルール則って進めるべきもの」と、暗にシーズン中の移籍は有り得ないことを示唆した。

 ただ台湾メディアの中には、通り一遍のコメントを真に受けていない人達もいる。というのも今回の報道以前に、連盟サイドに間接的ながらもNPBのチーム関係者と称する者から「CPBLでのポスティングの有無を問う連絡」があったためだ。

 台湾にはポスティングシステムはない。海外への移籍規定は「1軍での稼働日数が125日以上で、それを3年満たした場合」に、FA資格に準じる形で海外に進出できる。王柏融は3年目だが新人イヤーは規定に達していない(ムリもない。台湾のドラフト会議は6月だからだ)。つまりポスティングでもない限り、18年オフが彼の海外進出最短時期となるわけだ。そして台湾メディアも、識者たちの意見も同じようだ。実際、3年というだけでも他国に比べれば圧倒的に短い。さらにポスティングをという声も、これでは上がりにくい(とはいえ絶対にポスティングが実現しないと言い切れないのも台湾。球団経営はどこも苦しく、移籍による多額の補償金はいずこも欲しいに決まっているからだ)。

 いずれにせよ、王柏融への関心は間違いないようだ。日本の複数球団が本格調査で視察に渡っているというし、4月にはレッズのスカウト部門の高位関係者が渡台し、直接、チェックしてもいる。王柏融自身は、具体的に明確に海外進出への希望を口にはしていないみたいだが、まあないはずはないだろう。

 あるNPBの球団関係者に尋ねると「どの球団とはいえないが、遠からず日本でユニフォームを着ることになるはず」という返事を受けた。ちなみに日本やアメリカでプレーしてきた台湾人選手は少なくないが、多くはアマから直接か、陽岱鋼のように日本の高校を卒業した者がほとんどだ。

 ただ、こうした優れた選手が登場したときいつも思うことだが、他国、それも隣国で活躍する選手が“既定路線”のごとく日本にやって来ることには、どこか引っかかるものを感じる。その国にはその国のリーグがあり、ファンがいる。そのファンが野球を見る大きな楽しみがなくなる。きれい事に聞こえるだろうか。しかしホンネとしてそう思う。

 大谷翔平のような選手に置き換えてもいい。日本で彼のプレーを見ていたい。無論、彼がメジャーを望み、迎え入れたいチームもあるのは承知の上だ。大谷のメジャーでの溌剌としたプレーする姿に関心を持てないわけでもない。とはいえ、やはり近くで見たい。

 なにより日本はまだ大谷の抜ける穴を埋めるだけの土壌がある(大谷そのものの埋め合わせは不可能だろうが)。およそ4千校の高校に16万人を超える高校球児が日本にはいる。だが台湾は全人口が2千3百万人。高校は90校に満たない。

 そんな考えを彼の地に住む知人に伝えると、彼はこう応えた。「台湾には“台湾の光”という言い回しがあるんです。中国との特殊な関係のもと、台湾はその存在を世界にアピールすることが難しい。そんな中でスポーツ選手が海外でプレーし活躍することは、台湾に住む者にとって心からの励みになるんですよ」

 だから、もし王柏融の海外進出が決まっても、多くは祝福し、そして期待を寄せるだろうと。

 まあ、それはそうなのだろうが……。良い選手ほど、素晴らしい選手ほど、遠くに行ってしまう。その違和感はやはり拭えない。

 そういえば、しばらく台湾のプロ野球を見に行っていない。せめて彼がまだいるうちに、ラミゴのユニフォームを着てプレーしているうちに、見に行くことにしようか。そう、近くにやってくる前に。

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