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韓国代表監督の眠れない夜 投打の主力に続いた不祥事…選手選考進まず

 大谷(手前)が放った天井に吸い込まれる打球に困惑するオランダベンチ=11月13日撮影
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 侍ジャパンが強化試合でオランダと対戦していた東京ドームのバックネット裏には、メジャー関係者など来賓向けの席が用意されていた。その中で窮屈そうに椅子に座っていたのが、韓国代表のキム・インシク監督だった。来年3月のWBCで対戦するであろうオランダ、日本の戦いぶりを視察するため、やって来ていたのだ。今回は日程の都合でオランダとの2試合しか観なかったが、データを担当する戦力分析委員やコーチを引き連れての来日だった。

 戦力分析委員とは、日本流に言えばデータ担当ということになる。しかしこのキム・シジン委員は、80年代にサムスン・ライオンズのエースとして活躍し、のちには複数のチームで投手コーチや監督を務めた経歴を持つ。もうひとりのコーチもLGツインズやサムスンでコーチを担ったイ・スンチョル氏。彼も09年の第2回大会で打撃コーチを任されていたが、選手の分析力に関しては韓国の野球界でも評価が高い人物だ。10月にはキム監督の代わりに、メジャーでプレーする選手たちのコンディション確認と、参加の意思を確認するため渡米もしていた。ともすれば両氏とも、代表監督を担っても遜色ない経歴の持ち主だ。

 わずか2試合なら、スコアラーだけを派遣して映像チェックすればいいようにも思う。しかし、それでも訪れて自身の目で観たかったのは、監督が“実感”を重んじる性格だったからだ。とくに今回は、日本よりオランダチームが観戦の主目的だった。

 「(次期大会では)日本とは1次ラウンドを勝ち抜いて初めて対戦するが、オランダはその1次ラウンドが同一グループだからね。シーズン中のデータも少ないから、実戦を観る機会は貴重だよ」

 言い換えれば日本はそうマメに観ずとも、監督の頭の中には相当量のデータと実感が蓄えられている。韓国では日本の中継が観られるためだが、まるで日本に住んでいるのではないか、と疑うほど、選手個々のことを知っている。

 「今回(オランダ戦)は中村剛選手(西武)は抜けたね。故障?松田選手(ソフトバンク)の方の評価が高いのかな。山田選手(ヤクルト)は生で初めて見る。トリプルスリーを達成する選手だけに、走攻守にパワーだけでなく、しなやかさを感じるね。秋山選手(西武)が9番に入る打線は嫌らしいね」

 そんなことを話しつつ、こう漏らした。「それにしても、本当に日本は次々に若い選手が台頭してくる」。

 キム監督は今年69歳。国内での知名度は監督として16シーズン、2057試合を戦っていることからも抜群だ。95年と2001年には優勝も果たしている。同時に、彼の強みは指導者として国際大会の経験が多いことだ。2000年のシドニー五輪ではコーチを、2年後のアジア大会では監督を務め、WBCでは第1回、2回、そして今回と3回目。昨年のプレミア12も含めれば、5度の国際大会で代表チームを率いてきた。今はKBO(韓国野球委員会)の技術委員長という立場で、公式戦の運営責任者のひとりでもある。

 彼がそれだけ国際大会に重用される理由は、リーダーシップやカリスマ性などその存在感に依るところが大きい。だがそれ以上に武器とするのは、短期の国際大会の戦い方を知っている、という点だ。

 例えば選手選考でも、シーズンの成績は参考にするが、重要視しているのは「国際大会で通用するかどうか」というタイプ分けだ。投手であれ、打者であれ、「あの選手は日本戦に通じる」「あの選手は米国や中米チームに相性が良い」など、具体的なのだ。言い換えれば、それだけ相手国のプレーの傾向や特徴を実感として有しているからだ。

 秋の就任会見でも、打者の選考ポイントを問われたとき、「今季はリーグ全体でホームランが多く出ているが、外国人投手からどれだけ打っているのか。一度、データを整理して見直してみたい」と語ったことがある。

 同じ30本でも、韓国人投手からではなく、どれだけ外国人投手から打っているのか。その発想が正しいかどうかはともかく、そうした視点で選手を見るユニークさは、彼くらいのものだ。過去のWBCでの日本との戦いぶりや、昨秋のプレミア12の優勝などから、今や『国民監督』なる称号まで付いた。

 そんなキム監督が、しかし今大会は最も頭を悩ませている。他ならぬ選手選考が思うように進んでいないからだ。前述の来日時の段階でも、オ・スンファン(カージナルス)が1次ロースターから外された。不動の抑えだが数年前のオフにマカオで違法賭博をしていたことが明るみに出て、代表入りに反発する気運が強かったためだ。

 「韓国では投手、それも右投手が全体的に育っていない。理由はわからない。だがそれだけにオ・スンファンは正直、エントリーに加えたかったけれど、それは世論が許さなかった」 

 そして帰国後には、そのオ・スンファンの代役を期待されたイ・ヨンチャンという右本格派投手がヒジの故障で手術することになった。そしてエースとも呼ぶべきキム・グァンヒョンもまた、靱帯の故障でトミージョン手術をすることになった。さらにはパイレーツで今季、21本を記録したカン・ジョンホが帰国したソウルで飲酒運転で物損事故を起こした。こちらも世論の動向次第で、最終エントリーから外さねばならない雲行きだ。

 帰国前、キム監督はこう嘆いていた。

 「今回は本当に頭が痛い。野球は運が支配する競技だ。どんなに投手が好投して相手を抑えていても、一球で負けが決まることがある。その逆もある。とはいえ運に任せて野球は出来ない。試合開始までに、どう選手のコンディションをベストに引き上げるか。しかしその選手の絶対数が足りないんだよ。今回は」

 韓国にとって幸いなのは、1次リーグがホームのソウルで開催されることだ。スタンドが韓国の応援一色となる“追い風”を利して、キム監督がどんな采配を見せるのか。

 韓国での1次ラウンドは、オランダ、台湾、イスラエルとの総当たりで上位2チームが2次ラウンドの東京ドームにやって来る。

 そこに韓国の名があるかどうか。キム監督の熟睡出来ない夜は、もう始まっている。

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