韓国選手が日本でプレーしなくなった理由

 知人記者などから「韓国の選手が日本にやって来る可能性はないですか?」といった類の質問を受けることがある。そんなとき、最近は「まずない」と答えている。誰が、という個別の名前が出なくても、基本的に韓国の選手が日本でプレーする可能性は(とくにここ数年は)、ほとんどないと感じている。

 韓国プロ野球の世界で、海外志向が強い選手は、もちろんいる。ただしその多くはメジャーだ。野球の本場で自分がどれくらい通用、あるいは成功するか。そのアスリートとしての感覚、モチベーションは、日本から臨む選手とそう変わらない(無論、得られる金額もあるが)。

 近年ではパイレーツのカン・ジョンホ内野手やオリオールズのキム・ヒョンス外野手など、野手の挑戦も目立つ。実は彼らも、渡米前はその活躍には韓国の関係者からも懐疑的な目で見られていた。しかしいざ飛び込んでみると「アジア人野手の成功は難しい」という彼の地での先入観を覆す成績を残している。そんな“先駆者”が扉をこじ開けてくれたお陰で、多くの選手が「俺もやれるのでは?」と自身の限界を取り払う(なかには勘違いもいるが、それはいずこの国でも同じことで)。

 だから彼らにとって「海外」とは、まずは「メジャー」を意味する(そうした背景には韓国人の移民志向やアメリカに対する憧憬という野球以外の特殊要素もあると思われるが、それはこの場で述べるのは遠慮する)。

 そしてもう一点が、他ならぬ年俸などの金銭的な条件だ。

 かつて、彼らにとって日本とは金の稼げる舞台だった。日本で挑戦するという意味合いもあったが、それは五輪やWBCなど国際大会で互角かそれ以上の戦いをする中で、徐々に消えつつある。だから残るのは、率直に言って「金」だ。一昔前はトップクラスの選手でも日本円で1千万円くらいが相場だった。それが日本に来れば、数倍になる。ならば少々、自信のあるヤツなら誰だって来たいと思った。

 ところが最近はその金にもたいした魅力がなくなってきた。まず、NPBのチームは今、外国人選手に多額の投資をしない傾向にある。無論、例外もあるが、多くは5千万円から8千万円程度で、1億を超える場合はよほどメジャーでの実績がある選手などに限られている。

 一方、韓国内ではFA選手の契約金、年俸高騰による「インフレ」が激しくなった。一覧にも記したように、国内でも4億(約4千万円)、5億(約5千万円)くらいの選手はザラだ。

 力のある選手は限られている。そこにきて韓国は今、10球団に膨れあがった。需要と供給のバランスはより一層崩れた。

 また今季はプロ野球発足後、はじめてリーグ全体の観客動員数が800万人を超えるなど、野球人気は過熱している。球団としても所属選手は是が非でも引き留めたいし、下位に低迷した球団は、来季の浮上の足がかりとして即戦力の補強に走る。それらが選手の年俸を急激に、押し上げている。

 WBCなどで日本戦に登板し、比較的馴染みのあるキム・グァンヒョンなどトップクラスは8億(8千万円)、9億(9千万円)にも届く。そうした選手が海外、それも日本に来ようと考えるなら、基準は最低でも1億となってしまう。

 今オフも、前出のキム・グァンヒョンとKIAのヤン・ヒョンジョン、サムスンのチャ・ウチャンというサウスポー3投手がFA権を行使し、来季の行く末が韓国では関心を持たれている。だがキム・グァンヒョンは早々に旧所属チームであるSKへの残留を決めた。契約は4年85億ウォン(約8億5千万円)。彼のネームバリューと実績なら、100億ウォンを超すのではと見られていたが、それを下回る合意だった。サムスンのスラッガー、チェ・ヒョンウがその前に4年100億でKIAに移籍していたため、一層、そういう見方をされていた。しかしキム・グァンヒョンの場合、ヒジの不安が判明し、今月も日本で検査をすることが球団から報じられた。症状次第では手術の可能性もあるということだから、低めの金額に収まったのだろうと見られている。またメジャーへの夢も、封印となった。とはいえ日本円で4年、8億5千万は決して安い額ではない。おそらくヒジの不安を除いても、日本の球団で同額かそれ以上の提示をするところは、あったかどうか。

 ヤン・ヒョンジョンとチャ・ウチャンの2名は、現在、日本の球団と交渉中だという。ヤン・ヒョンジョンは代理人と一緒に来日し、某パ・リーグ球団など3、4球団と交渉しているといわれる。だが漏れ伝わってくる情報では、希望額と提示額にはかなりの開きがある。チャ・ウチャンは日本人の代理人に交渉を委ね返事待ちの状態だが、韓国メディアの中には韓国の他球団への移籍が取り沙汰されるほどだから、日本球団側から色よい返事が来ているとも思いにくい。どちらも近日中には、去就が決まると見られている。

 そもそも韓国人選手が日本でプレーしていたといっても、イ・スンヨプやイ・デホらの場合、韓国のテレビ中継権という副次的要素が大きかった。イ・スンヨプに3億円払っても、中継権がそれと同等か、あるいはそれ以上となれば、日本の球団側としても契約のハードルは一気に低くなった。いわば抱き合わせでの契約が来日を実現させていたといってもいいかも知れない。

 だが今の選手たちにそれだけの訴求力があるかといえば、キビシイ。韓国の不景気や、中継権料の低額さという理由もある。またかつてように韓国のスター選手が日本でプレーすることそれ自体の新鮮さもなくなった。そうしたことも中継権の額に如実に影響している。それもまた日本の球団側が積極的に関心を抱かない要素のひとつでもある。

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