冬の甲子園で〝3年遅れの球児の夏〟 20年コロナで中止の大会を歴史に刻んだ

 シートノックを前に緊張した表情を見せる近江ナイン
 「あの夏を取り戻せ 全国元高校球児野球大会」で整列する各校のOB
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 新型コロナウイルス禍で甲子園大会が中止となった2020年の高校生を対象にしたイベント「あの夏を取り戻せ 全国元高校球児野球大会」が29日、兵庫県西宮市の甲子園球場で開催され、20年夏に各地で行われた独自大会優勝校など42チーム、約700人が参加した。入場行進、練習で全チームが「聖地」甲子園の土を踏んだ。

 止まっていた時計の針がようやく動き始めた。3年前に失った夏を取り戻し、超える。甲子園への道が閉ざされた世代が憧れの地へ足を踏み入れた。今プロジェクト代表・大武優斗さん(21)はセレモニーで言った。

 「僕たちは不幸な世代なのでしょうか。かわいそうな世代なのでしょうか。僕はそうは思いません」

 その表情は入念な準備を重ねて迎えたこの日に対しての充実感にあふれていた。

 今プロジェクトは約1年前に武蔵野大に所属する大武さんよって企画され始動。参加校は20年夏に各都道府県で行われた独自大会で優勝したチームを中心に集められた。会場費や選手の移動費、宿泊費などの資金はクラウドファンディングなどで調達。26日に目標金額である7000万円を達成し当日を迎えた。

 午前8時から、この日甲子園で試合を行った4チーム以外が各5分ずつシートノックを行い、参加者全員が聖地の土を踏んだ。12時からのセレモニーでは全チームが入場行進でダイヤモンドを1周。あいさつを行った大武さんは「過去に戻ることはできない。しかし、今日から未来に向かって進むことはできる。僕たちの世代は不透明な明日に希望を持ち、未来を変える意思を持った世代になる」と話すと、この日一番の拍手が送られた。

 試合は抽せんによって決められた佐久長聖(長野)と松山聖陵(愛媛)、関大北陽(大阪)と倉吉東(鳥取)のOBが対戦し、熱戦を繰り広げた。

 関大北陽の西村皇二郎さん(21)は試合後、晴れやかな表情を浮かべた。現在も大産大で野球を続ける右腕は高校3年時と同じ背番号10を背負い先発のマウンドへ。「野球をしている感じがしなかった」と聖地のマウンドに緊張しながらも力投。「楽しめました」と笑顔だった。

 メンバーを集めるなどチームの代表として動いた西村さん。20年に夏の大会が中止になった際は「どう僕たちの高校野球は終わるのかなと。不安しかなかった」と当時を振り返り、このプロジェクトを知った時は「信じられなかった」と話す。この日は23人の同級生のうち19人が集まった。ベンチ入りした全員が聖地の土を踏み「みんなが笑顔でプレーできたのが何よりもうれしい」と達成感にあふれた。

 30日、12月1日は兵庫県内の甲子園以外の5球場で交流試合(計20試合)が行われる。「過去のマイナスをゼロにするだけでは意味がない。僕たちは未来へ歩んで、超えていきたい」と大武さん。取り戻した“あの夏”を糧に未来へ進む。

 ◆2020年、春夏甲子園が中止 コロナ禍により、春のセンバツに続き、夏の甲子園も5月に中止が決まった。緊急事態宣言は39県で解除されたものの、多くの学校で休校が続いており、選手や大会関係者、観客の感染リスクも懸念されるため、地方大会も中止となった。大会本部によると、地方大会は全国約3800校が出場を予定していた。夏場に感染状況が落ち着いてきたため、各都道府県の高野連では独自で代替大会を開催した。

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