糸井、涙の引退 超人は最後まで超人打 「甲子園、ありがとう」19年の現役生活に幕

 「阪神4-10広島」(21日、甲子園球場)

 さらば、超人-。阪神・糸井嘉男外野手(41)が五回、代打で登場し、現役最終打席を通算1755安打目となる左前打で飾った。涙で視界がぼやける中、反撃の一打を放ち、4万2267人で埋まった聖地を沸かせた。「僕は本当に幸せです」。通算6900打席、19年のプロ生活に別れを告げた。

 主役を呼ぶ声が甲子園球場に響く。「ヨシオ、ヨシオ」-。涙をこらえながら、糸井は一言、一言、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 「甲子園、ありがとう。阪神ファン、ありがとう。オヤジ、オカン、ありがとう」-。

 〝あの日〟の自分に届けたかった約束のエンディング。超人伝説、最終章。スタンドを見上げる。「この光景を見ると、僕にはもう悔いは残っていません」。最後には左打席に、何度も振ったバットを置いた。全力で駆けた19年間。やり切った。

 最後に用意された舞台は2点差で迎えた五回。代打で打席に立った。森下との真剣勝負。フルカウントから8球目、真っすぐに生きた野球人生と同じように、打球は一直線に三遊間を抜けた。最終打席で記録した通算1755本目の安打。一塁ベースを回る直前、小さく右拳を握った。ベンチも総立ちだった。

 目を閉じると16年前の記憶が浮かぶ。誰もいないグラウンド。大村巌2軍打撃コーチ(現DeNA2軍打撃コーチ)と2人、日が暮れるまでバットを振った。「いいか、嘉男。ここがお前のプロ野球人生、第1章だ。最終章は引退試合だぞ」-。

 06年の春季キャンプ後。高田繁GMに呼ばれた。「糸井君、投手では使えないよ」。野手として1年で結果を出せと言われた。クビは目前に迫っていた。あまりに非情なプロローグ。だが、そんな時に出会いがあった。「糸井専属コーチ」。大村氏が人生を変えた。

 1日、1箱約200球のカゴ10箱以上は打った。両手のマメがつぶれ、汁が出る。夜、つぶれたマメを火であぶって固めた。痛みでバットが手から離れない日は、握ったまま眠った。「いつか、5万人がお前を見にくるから。頑張ろうな」。あの日、2人で大舞台を夢に見た。その光景は今、現実になった。

 大学1年で右肩を手術した。「終わったな、もう野球を辞めようとも思った」。失意のまま手術室に向かう途中だ。麻酔でもうろうとする中で、父・義人さんの声が聞こえた。

 「なんとかもう一度、投げさせてください。先生、お願いします」

 何度も繰り返す言葉が頭から離れない。「あの日、絶対にプロに行かないといけないと思った」。小学3年の夏。初めて両親に連れられ、甲子園で伝統の一戦を見た。アルプスから見たカクテル光線が輝いて見える。プロ野球選手になりたいと思った。夢をかなえてからも悩んだ時、迷った時、誰もいないスタンドに座る。「俺の原点」が支えだった。

 41歳。人は超人と呼ぶ。そんな理想に近づきたくて、そんな自分であり続けたくて、闘い続けてきた。だが、限界だった。「自分を奮い立たせてくれる言葉だった。今では心地良い響きです」。笑顔で別れを告げることができる。あの日、夢見た超満員のスタンドが、その答えだった。

 渇き切らぬ涙声で誓った。「超人伝説は、まだまだ続きます」。ありがとう、タイガース。夢を追い、夢に生きた19年。まぶしい栄光の記録と、記憶。涙と感動を残し、大好きな球場に別れを告げた。

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