浜地に届いた母からの手紙 7・30プロ初星「あなたの人生に保険なんていらない」

 リリーフで奮闘する阪神の浜地真澄投手(21)へ、手紙が届いた。7月30日・中日戦(甲子園)で、プロ初勝利を挙げた愛息へ。送り主は母・智子さん。腰痛などの長いリハビリ期間…遠回りした道だけど、あの日の選択は間違っていなかった。18歳で故郷・福岡を離れ、一人頑張る息子へ。温かい言葉が贈られた。

  ◇  ◇

 真澄へ-。

 あの日の喜びから、何日がたったんだろう。18歳で阪神へ“お嫁”に出して、あっという間に迎えた成人。この間の5月の誕生日で21歳になったね。少し遅くなっちゃったけど、プロ初勝利おめでとう。12球でつかんだ記念星。支えてくれる先輩たちに感謝だね。

 昨日のことのように思い出すよ。少しだけ涼しくなった、3年前の記憶。あのとき背中を押してよかったなって。真澄を信じて、本当に本当によかった。

 高3の秋のことだったね。いきなり「大学に行く」って言ってきたのは。言葉も出ないくらい驚いたのを、覚えています。卒業したら「プロに行きたい」って、あれだけ言っていた子がどうしたんだって…。最後の夏は県予選で初戦敗退。懸命に諦めようとしていたのかな。それとも、結果も出せなかったのにワガママ言えないと思ったのかな。でもね、それが本心じゃないってことくらい、すぐに分かったんだから。

 だってあの日の真澄、ブリが腐ったような目をしていたんだもん。お母さんなんだよ、うそついてるって分かるに決まってるでしょう。大学に行ってた方がセカンドキャリアにいい、とか、大学で結果を出してから、ドラフト上位を狙った方がいい…だとかさ。周りはあれこれ言ってきたよね。でもお母さんとお父さんはね、ふと思ったの。

 「真澄の意思はどこにあるんだろう?」

 ただ、ただ本心が聞きたいなって思って、出てきた言葉が「旅行してきなさい」だった。心を空っぽにして、将来を見つめる時間を作ってあげたかったのかもしれない。だって福岡を離れれば、真澄は一人の高校生なんだから。お父さん、お兄ちゃんと富士山を見上げた3日間。帰ってきて、目が生き返って安心したよ。「やっぱりプロに挑戦したい」-。真澄に改めてそう伝えられたら、なんかね。言葉にならなかったよ。うれしい?違うね。分かってたよって。プロ野球選手を目指すなら、人生に保険をかけちゃダメだなって。お母さんもそのとき、ようやく覚悟を決められたんだと思う。

 あんな引っ込み思案だった真澄が、まさかプロで勝てる日がくるなんてね。覚えてるかな?初めて野球を始めた日のことを。お母さんも少しだけむちゃをしてしまいました。昔から人見知りで極度の恥ずかしがり屋。自分の気持ちを言えない子だった。でも先に野球を始めたお兄ちゃんを見つめる目は、いっつもキラキラしてて。野球がやりたくて、やりたくて仕方ないって伝わってきたよ。

 小学校1年生の頃だったかな。いつものように練習場に連れて行って、グラウンドに置き去りにしてね(笑)。これが浜地家の荒療治っていうやつよ。一人残して、扉には鍵をかけてね。真澄がワンワン泣いてたのを、ひっそりと見てました。お母さんとしては、なんとか自分自身で殻を破ってほしくてね。だって野球やりたいんでしょう?って。あのとき、思い切って意地悪してよかった。

 ここまでよく頑張ったね。福岡から遠く離れた大阪の地でたった一人。腰痛に苦しんで、投げられたと思ったら手にはマメがたくさんできて…本当に回り道ばっかりだった。言ってなかったと思うんだけど、実は見に行っちゃったんだ。腰痛が癒えた鳴尾浜での復帰戦。1イニング限定だったけど、気づいたら家を飛び出しててね。電車に飛び乗って、母親一人旅。様子だけ見にいこうと思って、会わずに帰った博多行きの新幹線でホッとしたっけなぁ。

 真澄は、浜地酒造の大切な次男坊なんだから。忘れないで。大事なのは学歴じゃない、人間歴。やりたいことを一生懸命やって、初めて道は開けてくるから。あなたの人生に、保険なんていらないの。また“頑張れる秘訣(ひけつ)”贈ります。栄養たっぷりの甘酒を、愛情たっぷりの甘酒を。

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