狩野引退…ファンへ感謝の涙「阪神でこれだけ…愛された人間はいないかな」

 阪神の選手会長・狩野恵輔外野手(34)が18日、デイリースポーツ既報通り今季限りでの引退を発表。西宮市内の球団事務所で引退会見を行った。今季は開幕から1軍メンバー入りしたが、2軍生活が長く、8月下旬に引き際を決断。「幸せな野球人生」と語った。17年間の現役生活を振り返り、涙を流しながらファンへの感謝を口にした。

 瞳の奥にため込んだ涙が、最後は粒になってこぼれた。泣かない-と決めた引退会見。真っ赤に腫らした目をこすり、狩野は「やっぱダメでしたね」と泣きながら、笑った。必死に生き抜いた生え抜き最古参。悔しくて泣いた夜もある。だが、この日は感謝の涙だ。

 「阪神でこれだけ…愛された人間はいないかな、と。17年間、支えられて野球ができたことは僕の誇りです」

 ファンへの思いを問われると、言葉を詰まらせながら顔を下げた。残した記録以上に、記憶に刻んだ現役生活だ。2007年4月20日の巨人戦(甲子園)、代打で放ったプロ初安打が劇的なサヨナラ打。翌日にはプロ初本塁打を放った。正捕手の座をつかみかけたが、椎間板ヘルニアの手術など故障に泣いた。

 持病が再発した12年に一度引退を決意。親しい知人に連絡を入れる中、藤川の一言で決断を覆した。「まだ、辞める時期じゃないやろう」。オフには育成契約を言い渡されたが、「若い子に伝えたい」と、必死な姿で翌年の支配下復帰につなげた。03年のリーグ優勝は2軍。05年はわずか1打席の出場だった。

 「優勝メンバーでもないですし。後輩には、諦めるなと。言えることはそれだけですね。僕は野球が好きで、野球しかできなかった。大好きな野球をやってきた、だけですね」

 真っすぐな人生と同じように、家族にはありのままの姿を見せた。勝負の年と位置付けた今季、8月26日の昇格後3打席に立ったが、無安打。「最後、三振した時に無理か」と引き際を悟った。妻聖子さんに決断を伝え、5人の子供は説得した。嫌だと泣きつかれた。「うるっときました。でも、実力がないから辞めるんだと」。最後まで正直に生きた。

 育成選手から復活した奇跡に、17年間で残した感動の軌跡。黒土に落とした汗と涙は忘れない。「つらい時期が長かったけど、それを越える楽しいこともありました。幸せな野球人生だったと思います」。最後まで野球小僧として戦い、自らの意思で終止符を打った。「世界一の球場」には静かに別れを告げる。

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