【ライフ】犯行は身勝手すぎる理由から

◆裁判傍聴シリーズ

 昨年9月、東京都内のJR施設で不審火が相次いだ事件で、東京・吉祥寺の自称ミュージシャン野田伊佐也容疑者が逮捕された。複数の現場からは針金やペットボトル、燃えたティッシュペーパーが見つかっていた。器物損壊と威力業務妨害の罪に問われたこの自称ミュージシャンの公判は、毎回傍聴抽選になるほど注目を集めた。

  ◇   ◇

 野田被告は初公判から「制裁的抗議の表明で、正当行為に当たるため無罪」と主張していた。たっぷりとアルコールを入れた火炎瓶、同被告の言うところ“プリタツ”(たっぷりを逆さにしたものとみられる言葉)を路上からJR中央線の国立-立川駅間にあるケーブルに投げ込み、高圧ケーブルを損傷させたなどとして起訴された。初公判やその後の追起訴での審理の堂々とした態度は、強い信念を感じさせた。そんな被告の「考え」が色濃くでたのは被告人質問の時だった。

 3月8日の審理。弁護人からの質問にはこれまで通りの主張を繰り返していた。犯行については「制裁的抗議表現だと考えている。JRが日本国民の財産を危険にさらしていると考えたからです」「日本国民に対しJRの実態を知らして注意喚起をするためでした」。また法廷では“五箇条の嘆願”となる持論をはきはきとした大きな声で展開した。

1、(JRを)民間鉄道として妥当なサイズ、いくつかに分割するべき

2,楕円形の山手線圏内は人口密集であり過密化が起こっています。人が集まることでゴミ問題、騒音問題、車両も集まってきます。渋滞問題、排気ガスの公害問題、治安悪化が進んでいると思います。

3,僕は山手線を即時撤去するべきだと思います。山手線は(国民生活に)不必要だと思います。山手線の使用者で困る人はいないと思います

4、(国は核分裂エネルギーについて)即時放棄するべきだと思います。資源エネルギー不足問題を解消しなくてはいけません。原発の再稼働の必要性がなくなりますから。

5、日本国憲法の即時無効化を要求。

ところが、検察官・裁判官からの質問になると印象が一変する。事件当時、ミュージシャンとしての収入はなく、父親からの仕送りで生活していたという野田被告。社会に対して不満を持っていたと語り始めた。

「自分の活動のために営業活動をしていて、その時に職務質問を頻繁に受けるようになったんですね。社会に対して不満を表現したくて。(対象は)ある時までは警察。ある時からJRに(変わった)」。平成27年の3月には警察官とトラブルになったという。JRの駅付近で職務質問をかけられたことが発端だった。野田被告は長髪に髭を生やした独特なスタイル。職務質問はその後も続いたという。「麻薬を所持していないかとか覚醒剤を所持していないか、あるいは銃刀法」と頻繁に受けるようになったと振り返った。「なんで自分ばっかり標的にするんだ」と警察への不信は募り、次第にJRへの不信へと変わっていった。痴漢に間違われることもあったという。「警察がJRを守っていると思った」。法廷でJRの態度はおかしいと身振りを交えながら怒りを露わにし、「細かい営業方針」にも疑問を持ったと明かした。

検察官からそのことが事件や自身の主張とどう関係するのかを問われると「関係ないですね」。傍聴席からは笑いも起きた。数分前まであれだけ“五箇条の嘆願”を訥々と訴えていたと言うのに…。

一方で、楽曲としてJRを揶揄するものを作り、ネット上で発表するなど事件以外の手段でも抗議活動を行っていたとも話した。それだけでは不十分であるとして犯行に及んだという。迷惑をかけた乗客に対しては「申し訳ないと思う」と語ったが、JRに対しては被害弁償するつもりもないと宣言。「制裁している相手に弁済する必要はないと思います」。

逮捕時には、国の原子力政策への抗議などとも言われた事件。しかし、ふたを開けてみたら逆恨みともいえる動機だった。被告には「身勝手な犯行」として懲役4年の実刑判決が下され、その後被告は控訴した。(デイリースポーツ・石井剣太郎)

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