横綱白鵬（２９）＝宮城野部屋＝が大鵬さんの記録を超える史上単独１位となる３３回目の優勝を果たした大相撲初場所は、東京場所としては１８年ぶりに１５日間すべてで満員御礼が出る大盛況だった。懸賞金も大幅に増えて、千秋楽の結びの一番となった白鵬－鶴竜の対戦では、ひとつの取組としては史上最多の６１本（館内のファン投票で決められる森永賞を含む）の懸賞が懸けられた。これまでは上限として５０本が定められていたが、申し込みが殺到したため相撲協会も全てを受け入れたという。

　３月８日から始まる春場所（大阪・ボディメーカーコロシアム）の前売り券の売れ行きも好調で、１日から発売を開始したところ、すでに土日分はほぼ完売状態。平日分の売れ行きも好調で、マス席はほとんど残っていないという。雑誌でも大相撲をテーマに取り上げることが格段に増えており、大相撲人気は確実に復活したと言っても過言ではないだろう。

　とある協会関係者がお客さんでぎっしり埋まった館内を見て、「本当に有り難いことです。こんな日が来るとは思わなかった」としみじみと語っていたのには、大いに共感を覚えた。１０年５月に端を発した野球賭博問題では、看板力士である大関琴光喜が賭博に関与したとして解雇され、数人の力士が次に名古屋場所で謹慎する事態となった。さらに翌年２月に発覚した八百長メール問題で、３月場所が中止となる前代未聞の展開となり、次の５月場所は異例の技量審査場所として開催された。ＮＨＫによる中継が取りやめられるなど、大相撲は存続の危機に立たされた。

　この不祥事の続発でファンが離れ、しばらくは本場所でも館内がガラガラという日が続き、一体この先はどうなるのかという危機的な状況に追い込まれていた。ファンの信頼を取り戻すには、とにかく土俵の充実しかないと地道に足元を固める姿勢を貫くしかなかった。

　人気回復にはやはり新しいスターが必要。その点では遠藤（２４）＝追手風部屋＝の登場は大きかった。正攻法の取り口、さわやかなイケメンと人気が出る要素が満載。今まで相撲に興味がなかった人に目を向けさせた功績は大きい。そして、怪物逸ノ城（２１）＝湊部屋＝の出現がファン獲得に輪をかけた。大相撲のスケールの大きさ、シンプルに巨体やパワーのすごさを伝えるには格好のキャラクターで、モンゴルの遊牧民出身でどこか木訥（ぼくとつ）で憎めないところも親しみやすさを増している。

　千代の富士（現九重親方）が関脇から一気に横綱まで駆け上がった８０年代前半の“ウルフ・フィーバー”や、人気大関だった初代貴ノ花の息子である若花田（のち横綱３代目若乃花）と貴花田（のち横綱貴乃花）の入門から火が点いた“若貴フィーバー”のころとは、ファン層がかなり変わってきているのは間違いない。プロ野球の広島カープを応援する“カープ女子”はすっかり有名になったが、負けじとオリックスを応援する“オリ姫“が現れ、サッカーではセレッソ大阪のサポーターが“セレ女”と呼ばれるようになった。最近の相撲ファンの女性は“相撲女子”と称されており、はやりの短縮形だと「スージョ」と言うらしい。

　ここまでくると、なかなかついていくのは大変だが、一部には「土俵での相撲を見ないでグッズを買っている」とか、「関取衆の入り待ち、出待ちばかりしている」というお小言もあるようだ。とはいえ、まずは実際に相撲場に足を運んでもらえることが、何よりも大事だろう。一度、生で大相撲の魅力に触れてもらい、「また今度も来よう」とリピーターになってもらえれば、ファン層も確実に広がるはずである。

　となれば、あとは土俵で力士たちがお客さんを沸かせる熱戦を一番でも多く見せることが重要。白鵬の史上最多の優勝回数は確かに偉大な記録だが、やはり独走ばかりが続けば飽きられる。他の横綱・大関が奮起して優勝争いを盛り上げることが必須だろう。

　遠藤、逸ノ城に続くスター候補生もいる。十両の輝（かがやき）＝高田川部屋＝は２０歳、新十両の１月場所で勝ち越した阿武咲（おうのしょう）＝阿武松部屋＝はまだ１８歳だ。さらに春場所で新十両を迎える堀切改め阿炎（あび）＝錣山部屋＝も２０歳のスラリとしたイケメンで、かなり人気が出そうだ。学生・アマ横綱の２冠を制して幕下付け出しでデビューする東洋大の大道久司（出羽海部屋）も期待が大きい。そして、関学大から初めてプロ入りする宇良和輝（木瀬部屋）は、小兵ながら奇手・居反り（いぞり）の使い手としてマニアには知られた存在だ。多彩な若手がそろって、ますます楽しみが増える角界。復活した大相撲人気が、これからもっと盛り上がる可能性は高い。（デイリースポーツ・北島稔大）