だからイチローはカーブを投げる

 ライトからの返球が珍しく高めに浮いた。

 握り損ねた?

 そう思った瞬間、ボールはグウィンと曲がりながら落ち、二塁上で構えるコーチのグラブに収まった。

 8月20日、レイズの本拠地トロピカーナフィールド。試合前の練習でヤンキース(当時)のイチローがライトの守備位置でノックを受けていた時のことだった。

 ゴロの打球にチャージをかけ、二塁へ返す反復練習。1本目と2本目は矢のような送球だったのが、3球目の軌道がおかしかった。驚くコーチ。ニヤリとするイチローを見て気付いた。カーブで返球したのだった。

 実は、イチローがカーブを投げるのはノックの時だけではない。試合中の攻守交代時のキャッチボール。ゆったりとしたフォームから投じる最後の1球は必ずカーブだ。

 試合前の打撃練習前後に行うキャッチボールでも夏ごろからカーブを投げるようになった。60メートルほど距離から練習パートナーのガードナーに向かって座るように指示を出す。見上げるほどの山なりのボールは相手が胸で構えたグラブに吸い込まれていく。マウンドからホームまでの距離のおよそ3倍。イチローがカーブでストライクを投じてみせた。

 「遊んでるだけだよ」

 イチローはさらりというが、確実に『遊び』の範ちゅうを超えている。

 夏の甲子園で高校球児が投じた山なりカーブが話題になった。「あれって技術がいることだから、みんながみんなできることじゃない」とイチロー。カーブを投げる理由をさらに掘り下げると、「技術を確認する作業のひとつですね。野球が下手な人はそういうことはできないからね、絶対に。僕は野球がうまい人でありたいというのがあるから、基本的に」との言葉が返ってきた。

 今季は「ピッチャー・イチロー」が実現する可能性があった。本人は投げるならヤンキースタジアム限定と決めていたようだが、理由は、もちろん、ファンに楽しんでもらうためだ。

 それがどれだけ本気だったかは、試合前にひそかに行っていた“投球練習”を見ればわかる。スリークォーター気味の右腕から繰り出される球種はフォーシーム、ツーシーム、スライダー、スプリット、そして、カーブと多彩。球速は140キロを超えていたとの証言もある。

 打つこと、守ること、走ること、そして、投げること。イチローの中では、それらすべてがそろって「野球がうまい人」というわけだ。

 10月に41歳になった。プロ24年目の場所はまだ決まっていない。

 「見通しは明るい。イチローが注目される時は必ず来ます。今はまだ“その時”ではないだけです」。

 11月下旬、そう話したのはイチローの代理人を務めるジョン・ボッグス氏だ。出場機会、チーム方針、監督の野球観などを重視し、イチローの能力を最大限に発揮できるチームを模索しているという。

 ハンターがツインズと、マーケイキスがブレーブスと合意した。マリナーズはトレードでライトの守備位置を空けた。ダイヤモンドバックスが6年契約を結んだキューバ人外野手のトマスが三塁を守る可能性があると報じられている。ジャイアンツ、パドレス、レンジャーズ、オリオールズ、レッズ、ロイヤルズが外野手を探し、ドジャースはケンプを、ブレーブスはJ・アップトンをトレードに出そうとしているといわれている。

 米野球関係者が一堂に会するウィンターミーティングが8日(日本時間9日)から始まる。選手の動きがさらに加速する。代理人の腕の見せどころ。イチローに“その時”がやってくる。(デイリースポーツ・小林信行)

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