徳永が明かすカバーソング成功の秘訣

 カバーソングのブームが続いている。今年だけで、カバーアルバムは何枚発売されたか、見当もつかないほど。もはやブームを超えて、一つのジャンルとして確立された感すらある。

 過去の名曲を掘り起こし、光を当て、よみがえらせるという面もある一方で、自分で名曲を生み出せない歌手が頼る安易な手段と、ネガティブにとらえられることも多い。確かに、明らかにオリジナルに思い入れのないような歌手が、自分の好きな曲を歌っている姿を見ると、元曲を汚されたような気がして、腹が立つやら、悲しいやら。

 では、カバーの成功のカギはどこにあるのか。05年にカバーアルバム「VOCALIST」をミリオンヒットさせ、ブームの先駆けとなった徳永英明(53)にこのほど、インタビューして気づいた4つのポイントを紹介したい。

 (1)「敬意」 徳永にとってカバーとは「奉納」という。「元々ある素晴らしい楽曲がかぶっていたすすを払って、きれいにして歌う感覚。本家のファンがいるので、原曲へのリスペクトを忘れないよう心がけている」。その実践として徹底していることがある。「原曲の歌手が歌う譜割りを変えないで歌うこと。僕の癖で歌うと、僕の歌になってしまう。原曲がプロデューサーで、僕はサブだから」。一番いいのはあくまで原曲。それを崩さずに忠実に歌いあげることが、敬意を表する姿勢なのだ。

 (2)「意外性」 ただ原曲をなぞって歌うだけなら、カバーする意味もない。気の利いたエッセンスを振りかけることで「えっ?聴いてみたい!」と興味をそそる。「VOCALIST」シリーズは「男性の徳永が女性ボーカルを歌う」という意外性が原点だった。選曲にも意外性はうかがえる。第1弾では「時代」や「ハナミズキ」といったカラオケの定番に混じって、音楽の教科書にも載る「翼をください」をリストアップ。来年1月21日に発売する第6弾では、TRFの「寒い夜だから…」を取り上げており、小室サウンドをどう歌うのか、気になるところだ。

 (3)「説得力」 先述したネガティブな面の安易な感じは、カバーする歌手に説得力がないからだ。ぶっちゃけて言えば、自分にオリジナルのヒットもないのに、カバーに走ったら「ちょっと待ってくれよ」と思ってしまう。その点、「輝きながら…」「壊れかけのRADIO」などの名バラードを生み出した徳永だからこそ、バラードカバーを歌う資格のようなものが生まれる。

 「説得力」で言えば、華原朋美が昨年、7年ぶりの復帰シングルに「夢やぶれて」を選んだこともいい例だ。同曲はミュージカル「レ・ミゼラブル」のヒロインが、死の間際、人生のどん底で歌う壮大なバラード。さまざまなトラブルでどん底を味わった華原による熱唱は、歌うべくして歌った強烈な説得力がある。

 (4)「質」 当たり前だが、完成したカバー曲の出来上がりこそが、最大のポイント。徳永の元には発売の度に、オリジナル歌手から「カバーしてくれてありがとう」という感謝の言葉が多く寄せられるという。「1/fのゆらぎ」を持つ天性の歌声を持つ徳永が歌い、原曲がよみがえる感覚を、オリジナルの歌手すら覚えている。

 敬意・意外性・説得力・質-。これらのアルファベットの頭文字を取って、勝手に「KISSの法則」と呼ぶ。これがカバー成功の秘けつだ。「求められる限り続けたい」とさらなるカバー作へ意欲を燃やす徳永。甘い口づけのような歌声で、これからもファンの心をとろけさせる。

 (デイリースポーツ・杉村峰達)

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