「ハイブリッド6」の秘める可能性

 バレーボール全日本女子が24日まで行われたワールドグランプリで、大会初の銀メダルを獲得した。真鍋政義監督(51)は今季からこれまでのポジションの概念を取り払った新戦術「ハイブリッド6」を採用。わずか2カ月半の準備期間だったが、強豪ロシアを3‐1で撃破するなど、一定の成果を得た大会となった。

 「ハイブリッド6」は、昨年、グランドチャンピオンカップで採用した戦術「MB1(ミドルブロッカー1人)」の進化系だ。「ハイブリッド」は異なるものを組み合わせるという意味。従来のMB2人態勢から、1~0人にし、代わりにアタッカーの枚数を増やすことでより多彩な攻撃を可能にする。アタッカーはライト、レフト、バックという本来の得意位置だけでなく、複数のポジションをこなす必要があり、大型セッターの宮下はブロッカーの役もこなす。ワールドグランプリ予選当初はまだ連係もかみ合わず、5連敗。司令塔役を担う宮下も「迷いの中でしかできていない。すごく難しい」と、話していた。

 ただ、予選リーグ中盤から徐々に機能し始め、東京での決勝リーグでは、アタッカー陣がバランス良く得点を重ねた。37年ぶりの世界大会金メダルの掛かった最終戦では、女王ブラジルの高さの前に完敗に終わったが、ブラジルの主将ファビアナ・クラウジノは「どこから(スパイクを)打ってくるのか戸惑った」と、話していた。

 さまざまなスポーツで日本に立ちはだかる“フィジカル”の壁。それを打ち破るための戦術だ。他の強豪国は190センチ台のエースや、大型ミドルをそろえるが、日本にはいない。真鍋監督は「日本に絶対的なエースはいないし、点が獲れるミドルブロッカーもいない」とした上で「ミドルブロッカーは2人といつ、誰が発明したか分からない。セッターがブロックを跳ばないと誰が決めたのか。バレーは3セットを先に取れば勝てる。とにかく先に点を取っていく。それに尽きる」と、導入の意図を説明した。

 昨年の「MB1」での試合データを検証したところ「スパイクでの得点が効率よく獲れていた。デメリットと考えられるブロックの数も、それほど変わらなかった」という。指揮官は「ミドルブロッカーがいらないとは言っていない。点が取れるミドルがいるなら、すぐに代表に呼んで使いますよ」と笑いながらも、「世界を相手には何かやらないと勝てない。今はこの戦術の精度を上げていくしかない」と、自らが示した方向性を信じて突き進むことを明言した。

 狙うは16年リオデジャネイロ五輪での金メダル獲得。9月にはイタリアで世界選手権、来年には五輪出場権の懸かるW杯と厳しい戦いが続くが、主将の木村沙織は「一番いい色のメダルが欲しい。努力してつかみにいきたい」と、前を向いた。

 今年はあの東京五輪から50周年。「回転レシーブ」、「変化球サーブ」という武器に、世界の頂点に登り詰めた。“東洋の魔女”復活へ、「ハイブリッド6」という魔法は、その切り札となるか。(デイリースポーツ・大上謙吾)

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