蝶野正洋の“黒いW杯予想”とは…

 サッカーW杯ブラジル大会の開幕(日本時間13日)が迫ってきた。優勝国予想が各メディアで展開されているが、やはり地元・ブラジルの下馬評が高いようだ。だが、プロレス界随一のサッカー通・蝶野正洋は「ブラジルの優勝はない」と予言した。

 “黒のカリスマ”蝶野は、前回の南アフリカ大会直前に「唯我独尊W杯論 オレにも言わせろ!」という企画をデイリースポーツで連載している。蝶野は幼稚園に入る前から、父・照正氏に連れられて毎年、元日のサッカー天皇杯決勝戦を国立競技場で観戦。それが蝶野家の正月行事だった。「オヤジは昔の日本では少数派だったサッカーを高校までやっていた人」。蝶野自身は1979年に入学した都立永山高校で大型DFとしてプレーし、日本にプロリーグのない時代、代表選手を夢見たという。大手製紙会社の重役を務め、94年に亡くなった父から継承したサッカー魂を連載でぶつけてもらった。

 それから、4年。今回のブラジル大会について話をうかがった。蝶野の優勝国予想はドイツ。ブラジルが順当に1次リーグA組を1位、ドイツも“死の組”といわれるG組でポルトガルを抑えて1位通過し、両者が決勝トーナメントを勝ち進めば準決勝で激突する。その大一番を制するのはドイツという“黒い予想”。そのココロは…?

 「ブラジルは多民族国家。欧州系の白人社会の中では、上流階級はドイツ系に多いらしいんですよ。さらに経済界からの視点で見ると、南米の新興国・ブラジルは、古い伝統のある欧州の技術大国・ドイツとパイプがある。経済的に見ても、ブラジルとドイツのつながりは強い。そういう意味で、いろいろな“配慮”もあるんじゃないかと」

 ドイツ系移民はポルトガル以外の欧州系移民の中ではパイオニア的存在。日系移民は1908年からだが、ドイツ人の入植は1824年と早く、今年7月で190周年を迎える。くしくも、ドイツ系ブラジル人にとって記念すべき「7月」に行われる決勝トーナメント(G組1位なら準々決勝以降)。蝶野の“配慮”という言葉は、「優勝がドイツなら…」と受け入れる土壌や空気がブラジルにはある…という背景を指しているのだろう。

 さらに、準決勝での対戦以前にブラジルが不覚を取る可能性もあると指摘する。「今回、ブラジルは難しいんじゃないかな。背景にある政治的な問題とか、試合以外の部分がいろいろと絡んでゲームに集中できないんじゃないかと…」

 確かに、大会目前になって、ブラジルではW杯反対デモが激化している。経済格差が広がる中、低所得層の環境面より、スタジアム建設やインフラ整備などに税金が流れ、政治家と業者の癒着にも庶民の怒りが爆発。「サッカーにかける予算を医療や福祉、教育に回せ」という切実な思いがブラジル社会に充満している。

 蝶野は語る。「ブラジルは1次リーグでメキシコ、クロアチア、カメルーンと同組。ここで1試合でも落としたら、国中を挙げて批判を受け、ヘタしたら監督を替えるとか、そのくらいのことが起こりそう。大変だよ、ブラジルは。サッカーに関して言えば、南米の国は俺らが思っている以上に、すごいですよ」。負ければバッシングとなる。庶民のフラストレーションのはけ口だ。サッカー大国としてのプライドもプレッシャーとなり、その重圧は母国開催ということで何倍にも膨らんでいく、というわけだ。

 今回、蝶野の“黒いW杯予想”を通して、スポーツの祭典と表裏一体であるブラジルの暗部と苦悩にも目が行った。逆に、その予想を裏切って地元Vを遂げれば、たとえ一時的であるにせよ、天地がひっくり返るほどのカタルシスとなるだろう。日本だけでなく、今大会の主役である「カナリア軍団」の動向にも注目していきたい。

(デイリースポーツ・北村泰介)

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