“ソフトボーイ”大嶋が初アーチ放つ日

 異色のルーキーとして注目されてから3年目を迎えた。早大・ソフトボール部出身、ソフトボーイこと大嶋匠捕手。これまでの2年間、1軍から声がかからなかった男は今年こそはと1軍初出場を目標に掲げる。ソフトボール界も注目する男が、札幌ドームで初アーチを放つ日が来るのだろうか。

 プロ1年目の春季キャンプで鮮烈なデビューを飾ったのは懐かしい。紅白戦の初打席。バックスクリーンへ特大アーチを放ち、周囲の度肝を抜いた。ソフトボールの長距離砲はプロ野球でも通用すると期待を抱かせた。

 ソフトボール界で大嶋はU‐19日本代表の4番を務め、安打、本塁打を量産した。卒業後は公務員を志望していたが、周囲の勧めもあり日本ハムの入団テストを受験。打撃を見たときに山田GMは「素材的にもバッティングもよく、肩も強かった。センスを感じましたね」と振り返る。投手の投じる球への反応の速さは抜群のものがある。日本ハム編成部はそう見込んで、プロ入りが決まった。

 それまでに“ソフトボール選手は野球界でも通用する”という声があったのも事実。女子ソフトボール日本代表の取材経験がある栗山監督は、2011年の大嶋の入団会見後「宇津木(麗華)さんは村田(兆治)さんの140キロのボールを平気で打ち返した。野球とソフトは一緒に考えないといけない」と語っていた。

 大嶋も男子ソフトボールのバッテリー間のスピードについて「体感スピードの迫力はかなりのものですよ」と経験を語る。ソフトボールはマウンドから本塁までの距離が野球の3分の2しかない。代表クラスの投手が投げると、体感では野球にたとえると160キロの球速と言われている。

だから、プロの速球派投手が相手であっても苦にしない。

 大嶋はこれまで2年間の投手との対戦を振り返り「そんなに速いと感じた投手はいない」と率直な気持ちを明かす。それが、紅白戦、言葉通り投手への反応の高さを見せつけた初打席でもある。

 しかし、そのまま1年目から活躍できたかといえば、そう甘くはなかった。プロ1年生、というよりも野球1年生の大嶋にはやるべきことが山ほどあったのは明白で、それは本人も自覚していた。「何を練習していいか分からず、手探りで何していいんだろうと。福沢さん(当時の2軍バッテリーコーチ)に相談する毎日でした」と1年目を振り返る。

 捕手としても球を捕る、変化球を止めることなどに四苦八苦してきた。得意分野でもある打撃でもそうだ。「配球を読んで打つことを考えすぎて、打てる球も打てなくなったんです」。過去2年間は結果に苦しみ、そのたびに壁を克服してきた。

 ソフトボールとは似て非なる部分も含め、野球というスポーツの全ての習得にここ2年間は励んできた。未知なる野球の壁にぶつかったわけだ。

 では、今年1軍に出場し結果を残すためには。過去の経験から大嶋は「野球がいろいろと分かってきたし、考えすぎないことです」と即座に答えた。

 野球を初めてから2年間は壁にぶつかったが、その月日を大嶋は決して遠回りではなかったと言う。大学まで硬式野球未経験の大嶋にとって野球の楽しさを知った2年でもあった。「ソフトボールは投手の考えが圧倒的なんです。野球は投手と捕手の2人の意見があって、打者をバチッと抑える楽しさがあるというか、楽しいです」と目を輝かせて語る。

 今オフの年末、年始は早大の先輩でもあるチームメートの斎藤佑と地元群馬で自主トレを行ってきた。今季の復活に懸け、早めの仕上げを目指してきた斎藤佑の生きた球を黙々と打ち込んできた。「今年は投手と対戦するときも考えすぎずにいこうと思います。真っすぐを待って変化球に対応できるように」。

 野球のおもしろさも分かってきた3年目。「今年は北海道でプレーしたい。やります」と迷いなく言ったソフトボーイ。2年の助走期間を経て、今年こそ。持ち前の打撃センスを発揮できるか。キャンプは2軍スタートとなったが、今季1軍で初アーチを放ち、再び脚光を浴びるために。報道陣がまばらな沖縄・国頭キャンプで打撃を磨く。

(デイリースポーツ・水足丈夫)

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